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9.たこ焼きパーティは大学生やりがち。

大学のともだちとタコパ回

 ヤクザとイチャイチャばっかりもしてられねぇのが、卒論に追われる大学四年の定め。就職?知らん!(内定ゼロ)


 いつものように学校のパソコン室に卒論を書きに行くと、いつもの3人が、いつものように提出期限に追われていた。

「おーっす!」と言えば、「みかる、お前また昼まで寝てたな」と悪態をつくのは大学で意気投合した親友、堂上アキラ。一瞬男かと思うその名に反さぬ男前ガールな彼女は、わたしより20cm高い身長のスタイルいい系女子である。言動も男前、わたしより断然酒に強い! 


「おう、寝てたわ。朝からやーこも来てたのか、ユッコも」


と、彼女らの前の席に座ると


「イエーイ」とひょうきんに笑うのが美郷弥栄子やーこ。「おはよー」とのんびり笑うのが志村優子ユッコ。同じ学科で、趣味は違えど美味しいものが好きでおしゃべりが好きな、普通の大学生の友達同士。みんな大学の近くでひとり暮らしをしているからよく遊ぶ仲でもある。


「もーいやだ! 楽しいことがしたい!」と、急にユッコが投げ出した。パソコンをバンッと閉じる。


「同感、たのしいことやろうぜ!」


 来たばかりでパソコンを起動すらしていない私が、いの一番に同乗した!


「なぁ、タコパやろうぜ?久しぶりに」


 やーこが、ぐでぇと机に体を倒して呟く。4人の目が光った。有無を言わさぬ、無言の即決だった。   


○○。


「もう今日やろう」と言うことになり、幸いみんなバイトも休みだったので開催が光のような速さで決まった。問題は場所なのだが、わたしの家を提案した。いつもなら汚すぎて誰も入れられないけど、あの潔癖ヤクザのおかげで今はわりときれいなのだ。たまには家を提供せねばと申し出てオッケーをもらった。


「タコパなんて久しぶりだ」 


 タコパを楽しみに高速で今日分の進歩を終わらせてスーパーに材料を買いに来た。たこ焼きの粉とかは、ユッコが余りをもっているらしい。だから、タコ、ウインナー、チーズ、天かす、たこ焼きソース、そしてビールをカゴの中に。ビールはみんな飲むだろうと6本セットを買った。ユッコは酒に弱いから多分今日もほろよいにするんだろうけど、ビールはアキラがどうせ飲む。わたしも飲む。


 たこやきのアツアツを流す、冷えたビール……!今から考えるだけで、よだれが!


○○。


 そして、夜六時頃に、みんながゾロゾロやって来だす。最初に来たのは、時間にもきっちりしてるやーこだった。


「うわ、みかるんちが綺麗なんだけど。今までで一番片付いてるんじゃね」と、開口一番に悪口が飛び出す。口悪いなぁ!


「これ、重かったわ〜」と袋から出たのが今日の主役!たこ焼き!の機械! 


 たこ焼き器を持つやーこは、別に大阪出身なわけでもない生粋の関東人なわけだけど、一人でたこ焼きして食うぐらいには好きらしい。


「部屋なー、つばやさんがこのへん片付けてくれたんだよ」

「え、おまえヤクザに部屋掃除させたの……」

「ヤクザに掃除させたけどさ、おまえ、わたしの話、信じてないだろ絶対」

「いや、だってヤクザだろ?想像がつかないわ」 


 ああ、まともな反応だ……!

 どうしたものかと思っていると、ユッコとアキラが一緒に来た。ゲリラタコパのスタートだ!



 たこ焼き粉を卵と水で溶かす。しっかり混ぜたら、溢れるくらいまで鉄板に流し入れて、タコ、チーズ、ウインナー、てんかすをしこたま入れる。ふつふつと、泡が膨らんでジャンクな香りが部屋いっぱいにひろがる。


「カンパーイ!」 


 それぞれ酒を掲げて喉に流す。ビール、うまい!やっぱりたこ焼きにはビール!匂いだけでもう飲める!


「みかるはほんと美味しそうに飲むな」と、クールなアキラよ。もうビール半分も無さそうな感じだろ。もっと味わって、感謝して飲め。

 やーこがふつふつしてきたたこ焼きの周りを、竹串でそっと鉄板から剥がすように回し入れて、ぐりんと回転させる。綺麗な黄色いお顔が、にゅっと表面に! 


「さすがたこ焼き女王」

「ひとりタコパ」

「なぁ誉めてんのそれ」

「わ! 見てグチャグチャになった!ひゃひゃひゃ!」 


 ユッコが失敗したらしくて、無残に形を留められなかったたこ焼きを見てケラケラ笑う。ユッコ、ほろよいだろ?まだ一口だろ?もう酔ったのか?可愛い奴め。


「アキラはさ、彼氏就職きまったの?」 


 ひとりで笑ってるユッコ放置で、やーこが器用にたこ焼きを返しながら聞いた。


「あ、警察受かったらしいよ。地元帰るってさ。あたしも帰るし、もうとんとん拍子だねこりゃ」

「いいなー、うちなんか遠距離だわ。別にあいついなくても生きていけるけど」

「やーこは男いらなそう」

「一人で生きていけそうだよな」


 口々に喋り出すと止まらないが、この四人全員彼氏持ちなのだ。アキラは高校からの同級生で、成人式で再会して付き合い始めたとか。やーこは大学の同級生で、ユッコはよくわからないがバイト先のカフェのお客さんで年上の社会人らしい。

わたしだけ彼氏がいなかったのだが、ようやくできたわけだ。話は当然こっちに降り掛かる。


「え、みかるの彼氏さぁ、顔がヤクザとかじゃなくてマジヤクザなの?」

「顔もヤクザだし、中身もヤクザだよ。見た目は………なんか身長190ぐらいあるチンピラなんだけど………インスタしてる」

「でかっ! てか、インスタってうそだろ!」

「なにそれどういうこと!ウケるわ!」

「え、何歳上?」

「28とか言ってたかなぁー。でも、顔老けてんだよ28 にしては。あ、めっちゃイケメンなんだけど、うーんサバ読んでるなあれは」

「馴れ初め!馴れ初め!」


 ユッコ、夢見る乙女(22)に食いつかれる。年上社会人と付き合ってるくせに下ネタNGな少女漫画ガールだ。こんなやつに言える馴れ初めか?

 まあ言うけども。


「最近、ちょうちんメロンっていう変わった居酒屋によく行ってたんだよ。……なんか、訳ありっぽい店なんだけどね、最近気づいたんだけど、そっち系の人よくいるなぁ、みたいな……。あ、でも料理ほんっとに美味しくて。そこで一人で飲んでたら、話しかけられて。悪絡みして酔いまくって、気づいたら奴の部屋で寝てた」

「うっわ、思ったよりひどい」


 アキラに引かれた。


「そこから付き合うようになったんだねぇ、面白いわ」

「いやぁ人生何があるかわかんないよ〜」


 うっへっへ、と笑う。


 話している間に、たこ焼きもいい感じに焼けていた!竹串でお皿にとって、ソースとマヨネーズをかける。ぱくっと口の中に入れたら、口の中がマグマのように激アツで


「あ"ぁ!っあっつ!」


 涙目になりながらゆっくりと食むと、かりっとした表面から溢れるトロットロの生地とウインナーの、なんと美味なことか!飲みこんで、熱い口の中を冷たいビールで流すと、幸せすぎて涙が出そう。


「…………うまぁ」

「…………美味し」 

「ほぅ………」

「たまらん…………」


 4人とも美味しすぎて無言になる。

 2本目のビールを冷蔵庫に取りに行くついでに、スマホを見る。

「今日はタコパです〜!たこ焼き✕ビール、ジャンクの神を召喚する!」と送ったラインに 


齋藤:余計なこと喋んなよ


と、酔いが冷めそうな返事が返ってきていた。

「おぅ…………」

どこからどこまでが、余計なことなんだ。



○○。



 結局夜中まで飲んで、みんな朝まで寝て帰った。ごみを片付けていると、 


「みかる、急に来たぞ」


 ……と、いきなりまたドアが開いた。何時だと思ってんだよ朝の8時だぞ。あと「急に来たぞ」ってなんだ。

 寝不足で、たこ焼き臭いわたしにつばやさんは


「タコパ、懐かしいな。俺も大学のときはやったもんだ」と低い声で笑いつつ言う。


「へえ、やくざでもタコパしますか」

「大学の時はヤクザじゃねえよ」


 とのこと。 


「なにしにきたんですか」と聞くと、

「お前が余計なことくっちゃべってねぇか確認だよ」


 一気に怖い顔をする。


「………あんま、俺のこと言うなよ」

「あ、や、やっぱまずいですか」

「別にいいけどよ。なんつーか、お前、もっとさ、危機意識というかさ……俺のことわかってねぇだろ」


 ため息をつかれて、「………よくわかりませんが気をつけます」としか言えなかった私は目を伏せる。ぽん、と頭に手を置かれた。

「今からしごと?」と聞くと


「あぁ……行きたくねぇよ。今日は特に行きたくねぇ………から」

と、いきなり肩を抱かれて。


「行ってらっしゃいのチューしてくれ」 

「………………行ってらっしゃいの……チュー………」 


 ひどく真面目な顔で言うものだから、真面目に復唱してしまった。

 真剣に見つめ合う意味のわからない時間が流れて、にらめっこに負けたのはつばやさんの方だった。


「く、ぶふっ、お、おまえ、なんつー顔で返しやがる! 恥ずかしがるとかじゃねえのかそこは!」

「い、いやだって! ちょっと言語として処理できなかったと言いますか、だってつばやさんが真面目な顔で可愛いこと言うから!」 


 笑って、片手で顔を覆って震えているつばやさんの襟を掴む。ぐい、と引き寄せて 


 ちゅ、


 と頬に口づけた。


「………届かないから、こうやるしか」


 これでよかったのだろうか。さっきとはまた違う、ニンマリとした笑みに変わった。


「おりこうさん。よーし!がんばってぶっ殺すぜ!」

「人殺しは犯罪ですよー」

「犯罪じゃねぇんだよ俺ぐらいになると」


 冗談なのか本気なのか。たぶん本気の方なんだけど、住む世界が違いすぎて全くピンとこない。


「行ってらっしゃいつばやさん」

「ああ、行ってくる」


 と見送り、一息つく。ちょっと思うことがあった。あのひと、みんなが帰ってからわりとすぐ来たけどまさかどこかで待機してたのだろうか。


「ストーカーヤクザ………」 


 そこまで執着してもらうのは、嬉しいけれど逆におそろしい。いつか、ぽいっと飽きられそうで。こんな、大して美人でもなければ聡明なわけでもない、何も持ってないアル中のどこがいいんだろう。


「………考えても仕方ない」


 それは、分かっているけれど、日に日にあのインテリヤクザの存在が私の中で大きくなる。だからこそ、そのぶん不安は大きくなる。こんな、誰かを想う気持ちがあったなんて、驚くばかりだ。


 呟いたとおり、考えても仕方ない。とりあえず眠いからもっかい寝る。

たこやき器でつくるたこやきって美味しいですよね〜


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