5.インテリヤクザがFランに来るぞ
(鍔夜視点)
俺はインテリヤクザらしい。別に不良だったこともなく、普通に名の知れた良い大学の法学部を出て闇金に勤め出した。理由は金が欲しかったから。あと、格闘技もしていたので喧嘩には強い自信があった。生きていけると自負があったからだ。
実際、俺は難なくこの汚ねぇ世界で生きている。殺すも死なすも、何の感情も抱くことなく、平気で今日も生きている。……それに、不本意ながら出世しすぎた。親会社とでも言っていいのだろうか、月壁組の幹部も兼任している。この月壁組は、垂柳組という大きな組の傘下組織の1つである。垂柳組は言ってしまえば目立つことなく裏でヤクザ稼業をしているような組織なので、全国的な認知度としては大分低い。しかし、フロント企業のフリをしてやってることはヤクザという、まあまあ性質の悪い暴力団だ。金融の他に風俗、情報商材も取り扱う今時の暴力団。
そして組長、月屋文康の長男、月屋キハチが次の「垂柳組」跡取りであるが、そのキハチの作った組織こそが月壁組。つまり、実質の次世代の組をまとめる者で構成されていると言っていい。変わり者だが冷徹な若頭--キハチに気に入られたがために、こんな出世頭の代表格みたいな地位に登りつめてしまったわけだ。
まあ、メインの仕事は闇金の副社長だ。今日は面倒にも、この俺に対して債務の踏み倒しをしようとする愚か者に、直々に手を下してやろうとしているのだが、面倒なやつを一人、キハチに派遣されている。助手席にどっかりと座ったそいつを見やるだけで頭痛がしてくる。
「……ヤツキ、久しぶりだな」
沢ヤツキ。毒蝿と忌み嫌われる、暴虐残忍な生粋の暴力団。ヤツキは取り立てのためならどんなこともする切り札だ。しかし取り立てのためならというのには語弊がある。他人を痛みつけて快楽を得るためにはと言い換えたほうが的確だ。
――ただの狂人……この世界に入らなきゃ関わることもなかったろうな
ヤツキは手に持ったナイフを回しつつ言った。
「鍔夜、おう久しぶりだなァ、キヒヒヒ」
「相変わらず楽しそうだなお前は。いいことでもあったのか」
車を動かしだす。相手は金が用意できないなら売り飛ばし決定の哀れな男だ。この取り立てが楽しいという神経がまったく分からない。面倒なだけだろ、殴るのも声を荒げるのも。
ヤツキは鼻歌を歌っている。そしてとんでもないことを言い出した。
「良いことなァ〜、ン〜、最近女を飼いだしたんだよ、俺」
女を飼う、とはどんな日本語だ。頭が痛くなる。
「女って飼うものか?」
「飼うもんだろ。文字通り家に監禁してるぜ」
「……相変わらず頭おかしいなお前。風俗嬢か?」
「いんや、女子高生」
「は?」
ヤツキを見やる、にんまりと嫌な笑み。キィっとブレーキを踏んだ。赤信号だ、危ない。
「は?冗談だろ、女子高生ってお前」
「色々あってな。監禁している」
「こわ……カタギじゃねえかよ」
「そうだが?」
そうだが?じゃねえよ、とまたアクセルを踏んで思う。そういえばみかるもカタギじゃねえかと。
ヤツキと一緒にはされたくねえがしかし
「なに、ツバヤお前も女できたの」
キヒヒヒ、と笑う。
「できてもお前には絶対言わん」
「おう、それがいいぜ。犯されたくなけりゃな」
「お前が言うと冗談に聞こえないんだよ」
だから、この毒蝿は苦手なのだ。ボロアパートに着く。ウキウキと降り、向かっていったヤツキにノロノロ着いて歩いた。
面倒な取り立てタイムのスタートだ。
○○。
一方その頃のみかるです。またパソコン室にいる。つばやさんとエビフライパーティから、数日たちました。しかし、亀の歩みよりもノロノロと、卒論が進まない。それもそうだ、先行研究も少ない。お酒の歴史。大好きなのに進まない。
だから友人にちょっかいを出すのだ。友人、アキラは普通に教授の研究の手伝いのように百人一首の研究をしている。アキラの隣で回る椅子をぐるぐるしながら独り言のように話す。
「え、アキラさー、この間の、わたしの決死のカミングアウト、うそだとおもってるー?」
「あー、ヤクザ? 嘘じゃないの? 誰も本気にしてなかったじゃん」
「いや、このあいだ、また飲んできたんだよ。すげーいいひとよ、お酒おごってくれるもん」
「おまえ、そればっかりだよなあ」
たーんっとエンターキー。
「まじのヤクザ?」
「たぶん。グラサンインテリヤクザ。めっちゃ顔怖いよ」
「写真ないの写真」
「えー、写真」
昨日の写真こそあるが、あんまり見せたくない。ごまかした。
「みかる、おもしろいやつだとは思ってたけどヤクザ捕まえるとはねえ、ウケる。でも、あんま人に言わないほうがいいんじゃないの」
「いえてるー!」
それもそうか。なら黙っとこ。ふとスマホを見ると「齋藤」からラインがきていた。
齋藤:疲れた
「疲れたって言ってる、やくざ。取り立てかなまた」
「取り立てってあんた……ウシジマ君じゃねえんだから」
ところがどっこい、マジもんのウシジマ君なのだ。人を不幸にした金で飯を食らう、社会的にはくそみたいなヤクザなのだ。
「こういうのどうしたらいいの?初カレだからわっかんねーんだけど」
「おつかれーでいいんじゃないの」
ミカル:おつかれさまっす!
齋藤:なにしてんの
ミカル:そつろん
齋藤:ガンバ
すげぇ普通だ。アキラがひょっこりのぞく。
「ふつーだね」
「普通だ」
と、おもったら新しいメッセ。
齋藤:お前、うちに忘れ物してるぞ
「え、まじか」
齋藤:学校何時に終わる?
ミカル:もう今日はいいや〜かえるう
齋藤:迎え行く。サカ大だよな
ミカル:ありがとござます
「つばやさん学校きてくれるらしい」
「え、まじ。見たいんだけど」
アキラのりのりである。わたしは軽くオッケイした。
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インテリヤクザとアル中のぐだぐだコメディ、まだまだつづきます〜