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25.失恋女とヤクザ印の生姜焼き

「やーこちゃんって言うのか」

「弥栄子って名前なんですけど、あんまり好きじゃないんですよね、この名前。だからヤーコが自分の名だと自己暗示してますね」


 そろそろおつまみも無くなってきたので、ただ酒を煽る女子大生✕2と、ヤクザ。

 つばやさんは「腹減った」とキッチンに消えていったのでまたグダグダ喋りだす。


「やーこってなんだかんだで高橋くんのこと好きだったんだね」

「そりゃ好きでもないと付き合わないわ。多分何やっても許されると思ってたんだよねぇ、嘆かわしい」


 意外とちゃんと反省してるようだ。しゅんとしたやーこはなかなか珍しい。大学に入って4年の付き合いになるけれど、初めて見た。


「………謝って、もっかい付き合ってもらおうとかおもわねーの?」

「謝ったところでねぇ。どうせ遠距離になるのは決まってんだし、これでスパッと切ってもいいかな」


 とっくりから注がれたのは獺祭ちゃんだ。振られた女にはいい酒を振る舞ってやらねぇと。


「美味しーこれ! 絶対いい酒」

「つばやさんが誘拐された時に買ってくれたんだぜ」

「え? つばやさん誘拐されたの?」


「おい、俺じゃねえよ」とキッチンからツッコミが入る。ついでに、じゅわーと何かを炒める音も。


「いやー話すと長くなるけどさ、やーこがラインくれた時あったじゃん。スキンヘッドがいるぞって」

「あったなーそんなこと。しょうがないわ、あんたヤクザなんだから」


 酔ったやーこは、本物の前でも見境なく冗談を飛ばす。


「ちげーよ! お前のせいだからなあの噂マジで……! いやそれでな、何かと思ったらさ、デッドレースの挙句、スキンヘッドと女に誘拐されたんだよ」

「は? あんたを? あんた誘拐してもメリット無いじゃん貧乳だしアホだし」

「ちがうんだって。というかやめろ、直球の悪口言うの。いやさー、その女、つばやさんが昔唾つけた女だったんだよ!」


「おい! 人聞き悪ぃこと言うな」とキッチンからお叱りが入る。


「そんでさー、ビールも奪われるわスマホ破壊されるわ、ボコられて倉庫にブチ込まれるわ」

「みかる、すっごいなぁ。平成初期のドラマみてえ」

「それでね、つばやさんがまさしくヒーローのように駆けつけてくれて!」

「っひゅー! 来た !イケメン!」

「『俺のみかるに何してんだ……。みかる愛してる、結婚しよう。養ってやる』って言われちゃった♡」

「リンゴーーーンだな!結婚の鐘の音が聞こえるぜ!末永くお幸せにな………あたしの分まで…………」

「やーこぉぉ、おまえっ、いい女なんだからあ、すぐ彼氏できるよぉぉ」

「じゃあ誰か紹介しろよ!」

「ごめんヤクザしか紹介できねーわ」


 つばやさんが呆れて「突っ込みきれねぇ」と嘆いている。そんなつばやさんの持っているお皿からは、たまらなくいい匂いがするのだけど………!


「食うだろお前ら。生姜焼き多めに作ったが」

「しょ、しょうがやきですって………」


 お皿に盛り付けられた、黄金色にきらきら輝くそれは生姜焼き……!生姜を多めに使ったのか、すごく香る。つばやさんは白米もお椀についで、日本酒をのみつつ晩御飯を食べだした。


「料理得意なんですね」

「まァな。金無かった頃とかは自炊で凌いでたしな。今じゃ別に外食でも余裕あるぐらいなんだが、こんなクソみてェな仕事してたら料理でもやらねェと気も紛れないというかな」

「やーこ、これが正当な料理の理由だよ。『酒に合うつまみを作りたい』じゃないんだよ」

「いや、ほんとにすごいっす。あたし料理嫌いなんで」


 ぱくりっと生姜焼きを食べると、とろりとタレと豚肉が絡んで、玉ねぎも甘くて美味しい……!生姜と日本酒、最高。贅沢。


「料理できてかっこいい彼氏とか、いいだろぅ〜」

「お前振られたばっかの私の前で惚気てんじゃねえよ」

「やーこちゃん、振られたのか」


 ぷっと笑うつばやさん。


「やーこ、彼氏の全身の毛という毛を引き抜いたんですよ。そりゃ振られますよ」

「ブハッ、お前マジで言ってんのかそれ!」

「マジですよ。やってられないわ」


 多分、やってられないのは全身つるつるにされた高橋くんの方だと思う。


「みかる、大事にしな。こんな良い人いないよもう」

「心得ているよ! わたし、いいお酒のためにつばやさんエターナル・オブ・フォーリンラブするから!」

「酒かよ」


 チッと舌打ちする。やだ、拗ねちゃって可愛い三十路だこと。


「あー、あたしもまた彼氏見つけるかー」


 と、背伸びしたのと同時に、やーこのスマホから着信音が流れた。まさかと思うけど、


「…………け、啓介?」


 なんと、高橋くんからだ。

「なんだ?」と眉をひそめるつばやさんのお口をふさいで見守る。


「…………………は?、え、いや、言い過ぎたって、いや、完全にあたしが悪いじゃん…………?え、うそ、怒ってないの、えっ」


 おおお。思わずニヤける口元。


「い、いや、啓介が良いなら………。うん、あ、どうも、すみません本当に………よろしくお願いします」


 そして切られる電話。わたしとつばやさんの顔を交互に見て、にやりとした。


「…………より戻した!」

「はやいなっおめでとうー! やっぱり高橋くんは仏だーー!!」


 抱き合って喜ぶわたしたちを見て、唯一この場では常識人なヤクザは「すげぇ聖人君子もいたもんだな………」と、おちょこを傾けてつぶやいていた。


次回、少女漫画的王道展開ッ!

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