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17.誘拐イベントは、盗聴器と共に。

「つーばや」


 デスクに足を載せてイライラしながら書類を見る俺に、ニコニコしながらちょっかいを出してくるのは、月壁組幹部、朝熊だ。

 みかると知り合ってから、妙に俺とみかるを気にかけてくる。見世物じゃねぇと思うが、こいつもめんどうなヤクザの端くれだ。刺激しねぇには越したことはない。


「つばや、俺またみかるちゃんに会いたいな」

「てめぇが触んな。汚れるだろ」

「……みかるちゃん、そんなに清廉なイメージないけど……」


 それには同感だが、何か気にいらねぇ。お前に言われるのは。


「つばやさ、これいっつもパソコン開いてるけど、何見てるの?」


 朝熊が指差すのは、仕事用のデスクとは違う、もう一台のデスクだ。最近導入した優れ物で、俺はこいつを常に見ながら仕事をしている。

 答えたくねぇが、別に知られても構わねぇかと仕方なく答えた。


「GPSだ。あと、監視カメラと盗聴器」

「…………鍔夜、まさかとは思うけど」

「お察しのとおりだ」


 そう。これは、みかるがどこにいるのか常に地図上で表示されるGPS、そしていつでも聞こうと思えば会話を聞ける盗聴器、最後にあのボロアパートの監視カメラだ。あのアホの隙をついて、仕掛けるのは極簡単だった。暴露すると、出会った翌日の朝に設置した。朝熊を見やると、笑顔でドン引きしている。ため息をついた。だから言いたくなかったんだ。


「えっ、鍔夜、嘘だよね」

「嘘じゃねぇよ。何なら見るか。………あ? こいつ、今どこにいやがる?」


 みかるの場所を指す、白いポイントが見慣れない場所にある。いや、見慣れない場所ではない。この辺は、悪い意味で見慣れた場所だ。


「………この辺、確かあの陰険ジジイの縄張りだよね」

「こいつ、どこで道草食ってやがる」

「バグじゃないの?」

「………こんなところ、こいつ行かねぇわな」


 ハァ、とため息。ふと、事務所の方を見やると、部下がこちらをチラチラ見ていた。


「おいテメェら何が言いてぇんだ。オラ、働けゴミ共! 電話かけろ!」

「ひ、ひぃぃ!はい!」

「チッ」


 デスクに視線を戻すと、白いポイントは、恐らく自転車ではないスピードで動き出した。向かう先は、嫌な予感がする。俺も知ってる場所じゃねぇか?

 ハッとして、スマートフォンを見ると、みかるからメッセージと着信が入っていた。


ミカルゲ:誘拐イベントのフラグ

ミカルゲ:なんか、知らないグラサンスキンヘッドに大学の前で待ち伏せされてたらしい

ミカルゲ:めんどうになって、公園でビール飲んでる! 


「…………ハァ、めんどくせぇ」

「え、なになに、どうしたのみかるちゃん」


 覗きこんだ朝熊は、スマートフォンのメッセージを見て、ゲラゲラ笑う。お気楽に、みかるはビールと唐揚げの写真までつけてある。


「みかるちゃん、拉致られたね!」

「意味わかんねぇよ、なんであの陰険ジジイが…………」


 頭を抱えこんで「あっ」と、一つ思い当たることがあった。朝熊はニヤリと悪い笑みを浮かべた。 


「俺、しーらない」

「待て待て朝熊。まさかアレのことか」

「ちゃんと断らなかった鍔夜が悪いんだよ」

「おい、嘘だろ……」


 めんどくせぇ。立ち上がってジャケットを取ると、部下のチンピラが「副社長!彼女さん大丈夫なんっすか!」と俺より焦ってやがる。


「うるせぇよ、今から行ってくるわ」

「お、お供しましょうか!」

「あ?………テメェ仕事あんだろ!そっちやれ!」


 俺に殴られて、部下は「ウガッ」と倒れ込む。一発蹴りも入れた。


「俺、終わりましたけど……」

「え、俺も心配ッス、行きます!」


 わらわら、部下が湧いて出る。めんどくせぇな。

 無言で事務所を後にすると、二人の部下と何故か朝熊も着いてくる。


「朝熊、どういうつもりだ」

「え、おもしろそうだから☆」


 人の一大事を面白がるんじゃねえよ。

 乗り込んだ車にGPSを写し、盗聴器もオンにする。


『あの、いや、別に悔しいとか全然ないんですけど』

『生意気ね、何よ』

『………ちょっと、いきなり言われても分からないので、本人に聞いてもいいですか?あと、ビール飲みたいんですけど……唐揚げもまだ残ってるし』


「みかるちゃん、通常運転だねえ」

「待てこいつ、今あの女の前で携帯出してんのか……」


『は!? あんた、なにするつもりよ』

『…………事実確認?』

『事実確認に酒は必要なのか』

『というか、待ちなさいよ。あんた、なんで鍔夜の連絡先知ってるのよ』

『なんでって……無理やり登録されたんですけど』

『は!? あ、あたし、教えてくれなかったわよ…………』

『なんで!なんであんたなんかが!鍔夜の!』

『待って嘘ですジョークジョーク、連絡先など知りません!』


 あの女と、みかるが言い合いをしている。みかるが心配な反面、俺は笑いをこらえていた。だから、あいつは、俺を愉しませてくれる。

 そして、俺のスマートフォンがみかるからの着信を知らせる。ククッと悪い笑いだ、我ながら。


『なら、今かけてるのは誰よ!』


 タイミングを見計らったように、電話に出てやった。わざと何も知らないフリをして、焦ったように言う。


「おい、みかる。何があった」


『つばやさん、空気読んでくれ。そしてなんとかしてくれ。お前のせいだぞ私が死んだら』


「は………?というか、お前今どこに」


 と、言おうとしたら電話が切れた。恐らくあの女がブチ切れて電話を壊したか。



「ーーークククハッハッハ!!!おもしれぇなあ、みかるは。可愛くておもしれぇ。ハッハッハハッハッハ!」

「ごめん鍔夜、何が面白いのか俺、全然わからないんだけど。みかるちゃんピンチだよ」

「だからおもしれぇんじゃねえか。こんなところで死ぬような女に用はねぇよ」


 つまり、俺は、みかるをあんなところで死ぬ女だとは思っていないらしい。部下が恐怖で震えている。恐ろしいか俺が。それなら。


「テメェら、みかるが心配ならテメェらが探してやってくれ。俺はあのジジイとクソ女を殺ってくる」

「なら、俺はみかるちゃんのところに行くよ」

「下手なことすんなよ。全部筒抜けだからな」

「へ、へいっ!」

「オッス!」


 愉しい愉しい、みかる奪還パーティだ。俺の中の獣が舌なめずりした。

つばやこえー。

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