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12.きらきら、ワインは女王様


「は?」


 起きてスマホを見たら、奇特なメッセージが来ていた。どういうことだよ。つばやさん、まさか私が帰省するって言ったの忘れたのか?

それとも、本気で岡山に来るくもりなのか!?


「も、もう、しらねー」


 ベッドから這い出て時計を見ると、まあまあ早起き、朝8時。お昼は、友達とランチに行くのだ。ばたばたと支度していると、あにき(大学院生25歳)が「おいみかるー」と声をかけてくる。


「みかるぅ、飲もうぜ夜」

「え、いく、のむ!」


 ニシシと笑う。うちのあにきはイケメンでもなんでもないが、実にいい兄だと思ってる。酒好きなのも相まってわりと仲のいい兄妹、と自負している。


「いまから、しーちゃんと会うから、夜商店街で飲もうよ」

「おう、仕方ねえから兄貴が奢ってやる!」

「あにきー! イケメン!」

「はっはっは」


 馬鹿な兄だ。私にそっくりの馬鹿だ。

 お気に入りのTシャツに着替えて、軽く化粧してばたばたと家を出る。地元の頭のおかしい友達、岬椎奈に会いに行く!



○○。



「みかる、久しぶりぃぃぃ!」

「しーちゃん!愛してるー!」 


 ひし、と抱き合う駅前。しーちゃんは高校のときのクラスメイトで、東京に進学した私とは反対に、地元の大学に進学した。一応都会で生活してる私よりおしゃれで可愛い、ザ・女子大生。そして、そのしーちゃんこそ、私に最初に酒を飲ませたある意味戦犯と言っていい。こう見えてこの女、大酒飲みなのだ。


「夜は用事があって飲めんのがつらいけどさー、その代わり女子大生っぽいランチしよう」 

「女子大生ランチ!女子大生ランチ!」


……と言って、連れて行ってくれたのはホテルのバイキングで、高いんじゃないかと思えば、なんとキャンペーン中で通常3000円のところが、1500 円とのこと!そのわりあって、人はまあまあ多いけれど予約してくれたしーちゃんのお陰で楽々入店。色とりどりのパスタやら、ピザやら、そして特筆すべきは、この宝石みたいなスイーツの数々……!


「しーちゃん、スイーツ! スイーツがやばい!」

「やばいな!全部食べよう!」

「もちろんだ!」


 夢中で素敵なバイキングランチをお皿に取りつつ、気になるのはあのつばやさんの謎のメッセージだ。昼、そっちに行くとか行ってたよな。意味不明すぎて「リョーカイ」みたいなスタンプだけ送ったけど果たして本気で岡山に来るって意味なんだろうか。だとしたら、もう着くぐらいだと思うけど。

 まずいぞ、兄貴と飲む約束しちまった。

 どちゃっ、と下手くそな盛り付けの皿を持って席に帰ると、しーちゃんが「みかる!みかる!」と興奮していた。


「どうしたよー」と聞くと、「よく聞けみかる……」と、真剣な顔のしーちゃん。私もごくりと唾を飲む。こんなにガチなしーちゃんは初めて見た。一体何なんだ――


「――みかる、酒がある。ワインとカクテル」


「でかした親友!」

一目散に取りに行ったわ。さすがしーちゃん!

  


 濃厚なミートソースに絡んだもっちもちのパスタ、シャキシャキのサラダ、あつあつとろとろのピザ、さくさくのポテト……そして、白ワイン。昼間っから贅沢かよ。岡山も捨てたもんじゃないなぁと思って、笑みが溢れる。


「東京は色々あるでしょ、いいなあ」


しーちゃんも、にこにこしながら、パスタをくるくるとフォークに巻き付ける。器用に左手でケーキを口に入れやがった。


「んまっ」

「いろいろあるけど、特に居酒屋めぐりはたのしいよ〜」

「最近、いいとこ見つけたん?」

「うーん、えっとね」


 口ごもる。ちょうちんメロンのことを話したいけど、そうなるとつばやさんが頭に現れる。どうしようか考えてると、「あ」としーちゃんが思いついたように言った。


「てか、みかる彼氏出来たっしょ」

「………なぜわかるよ」 

「勘!」


 男らしくワインを飲み干す、ザ・女子大生。


「どんなひと?聞かせて〜」と笑うので、つばやさんに怒られない範囲で答える。 

「えっと、年上の社会人で……お酒好きな人?」

「え、めっちゃええが」


 岡山弁がでてるぜ女子大生。さすが地元民。


「でもなんか言いにくそうだな〜。みかるならすぐ言いそうなのに、これは訳ありだな」


ぎくっ。


「察しのいいガキは嫌いだよ!」

「わかった、不倫だ!」 


なんでそうなる!


「は、話していいよって言われたら話す!なんか、あんまり人に話すなって怒られて」

「不倫ならしゃーないわなぁ」

「だから不倫じゃねーよ」


 まだ飲めそうだ。しーちゃんに「取ってくるー」と言って、ケーキとフライドチキン、カクテルを取る。戻って、恐る恐るスマートフォンを見た。


齋藤:岡山空港なう。今からお仕事だよ。


…………いや、どんなテンションだよ!なう、とか使う顔か、おまえ!


「彼氏?」と目ざとく聞くので、もう白状することにした。

「なんか、わからんのけど、岡山来たらしい……」

「は!?」


 声がでかい!でも、私も「は!?」って言いたい!


「……仕事って言ってるけど……岡山で仕事なんかあるのか、あのひと」

「まあ深く聞かんとくわ。めんどくさそう」

「それがいいそれがいい」


 その後、高校時代の話なんかして、調子乗ってワインとカクテルを、がんがん頂いたせいでほろよいのまま、お別れする。

 

 さて、と、商店街のベンチに座って思いあぐねる。とりあえずは、お土産の地酒を買おう。そしてだ。


ミカルゲ:ほんとにきたんですかwwww

齋藤:ちょうど岡山に逃げた奴がいたからな

ミカルゲ:なんですか「ちょうど」って

齋藤:終わったら俺を案内しろ


 横暴かよ。  


ミカルゲ:何時頃になりますか

齋藤:もしかしたら今日は無理かもしれねぇ。また連絡する。帰りは飛行機で帰るぞ

ミカルゲ:え、わたしもですか。そんな金ないですって

齋藤:そのぐらい出してやるよ  


 あ、ふつうにありがたい。

 お腹いっぱい&ほろよいのまま、散歩してお土産を買って、一度家に戻ると兄貴がソワソワしていた。

「みかる!もう今から行くぞ!」

「あにき、さてはお酒が待ちきれなくなったな!」 

「アルコールが俺達を待っている!」

「アルコール!ビバ神!」


○○。


 ビバ神な、兄貴に連れて来られたのは、なんと最近できたというバルだった。ちょっと暗めの店内に、香るにんにくとオリーブの唆ること。これは、アヒージョの香りに違いない!ぐぅとお腹がなる。あんなに食べたのに。


「あにき、アヒージョ×ワインは結婚すべきだよな」

「オーケー妹。赤ワインとアヒージョに決定。もうボトルで頼もう、飲むだろ?オリーブも頼もう。あとクラッカーもあるぞ」

「あにき、ゴチになります!」

「ごめんちょっとでいいから出して」


 なんと情けねえ兄だ!

 嫌いじゃないぜ。

 あにきが注文して少したつと、ドーン!と素敵なワインが登場!ワインの知識はあまりないけれど、うん、日頃飲んでるやつより絶対良いやつ。

 そして、やってきた熱々のアヒージョ。キノコとまるまるのニンニク、じゃがいもがオリーブオイルの中でぐつぐつと泳いでいる。

 グラスにワインを注ぐと、濃いルビーが満たされたみたいにキラキラ光って美しい……!


「かんぱい!」

「乾杯!」


 口に入れて、ブワッと果実が薫る。そして、すっきりした甘み。はぁ、赤ワイン……女王様。アヒージョ、きのこを口に入れると熱々で、でもニンニクが効いてて、赤ワインに合う!

 次いで来たオリーブのマリネも、さっぱりした甘みと酸味、うまみがたまらない。パクパク食べられる。


「おいしい〜」

「いやぁ、いいよなぁここのバル。安いし、よく大学の友達と来るんだよ」 

「うんうん、これはたまらん」

「さてみかる。お前、就職は?」

「…………聞かないでくれ、あにき」


 目をそらす。はっはっは、と笑われた。


「まぁ死にゃあしない、仕事見つからなくても」

「さ、さいあく養ってもらうし」


 あっ。ぼろりと口が滑った。


「…………誰に?」

「か、かれしが、かれしができればな!」

「おいみかる、お前嘘が下手なのは昔からだ!できたな彼氏が!」


うわああああ、ばれた!

アニキは、大げさに泣く。


「お前………俺は、お前には一生彼氏できないかと……」

「失礼なあにきめ。童貞」

「童貞でわりぃか!」


 認めやがった!


「……ふっ、よかったよかった。で、どんなやつだ」

「ヤクザ!」


 酔いで口が滑る。ワインを吹き出しかけるあにき。


「嘘つけ!バーカ!」

「ごめん、ヤクザじゃなかった!闇金業者!」

「ひゃっひっひひひ!嘘つけバーカ!」

「アウトレイジって名前なんだよ。鈴木アウトレイジ」

「お前、とんだキラキラネームだなそいつ!ひっひひゃひゃ」


心のそこからおもう!

兄貴、馬鹿でありがとう!

さすがわたしの兄貴! だいすき!


「そうかー、ヤクザかぁ、お前じゃあ姐さんだなー」

「姐さんってどうやればいいの」

「俺が手本を見せてやろう。

『あんたたちっ!支度しなっ、このままやられっぱなしで済むと思ったら大間違いだよっ』みたいな!」

「似てる!なんか似てる!」


 けたけたけた、二人で爆笑。バルの雰囲気ぶち壊しだ。

 あにきとは笑いのツボが似てるのか、毎回こうなる、たのしい!


「まあ、うそだけどねー、ふつうの年上の人だよー」


 さらりと嘘を付けば、


「わかってるわ。誰が信じるか」

 と、すんなりと受け入れてくれた。兄貴、ごめん。マジのヤクザなんだよ実は。

 笑い疲れてスマホを見る。嫌な予感がしたのだ。的中する。酔いが冷めるみたいにさーっと、引いた。


齋藤:仕事終わったぜ?なにしてんだ今


○○。


「あにきぃ、白状しなきゃならんことがある」


 少し冷めたアヒージョをつつく。赤ワイン、気づいたら、あと半分だ。ぐらつく頭、大分酔ってるみたいだけど、悪魔のメッセージのせいで妙な冴え方をしてる。


「付き合ってる人が、すげーオレサマ系で」

「流行りの俺様系か……。俺も俺様系になればモテるか……」

「それはないけど」

「わかんねーだろぉ、おい!ひゃひゃひゃ」


 この酔っ払いめ!


「なんかぁ、オレサマ系、仕事で岡山来たらしい」

「え、マジで!会わせろよ!」

「だめだってー、鈴木アウトレイジだよー!」

「ますます会いたくなるじゃねえかちくしょう」


 兄貴、乱暴にワインを注ぐ。ガシッと掴んで、バーッと入れるスタイル。

 注ぎ方までそっくりかよわたしに。


「なんか、仕事終わったから来いって言われててよー」

「ここ呼べばいい! ほら、調子乗ってボトル頼んだけど、正直俺ら酔っ払って全部飲めそうにないし!」

「………あ、そっか、たしかに!」


 確かにじゃねえ!だれか、このときの自分を止めてくれ。阪奈みかる、あほのみかる!

酔った勢いで躊躇いなくかけられた電話。秒で出るヤクザ。


「やっぴー、つばやさん!いま、のんでるんだけど、つばやさんもカモン!」

『は?』

「兄貴と飲んでる!」

『分かった。どこだ』


 お店の名前を教えて、切られた電話。にっこにこの兄貴。


 その、にっこにこだった兄貴が、30分しない内に到着したつばやさんを見て、血の気が引くような無表情になった。

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