エピローグ
エメラルドグリーンの美しい海。
丈二と理恵は再びスールー諸島を訪れていた。
ララキの岩は、前回と同じようにその険しい岩肌をさらし、来る者を拒んでいる。
丈二は苦笑しながら首を振る。
「もう一度あれに登ろうなんて、君も物好きだな」
「しょうがないでしょっ、王妃に戻せって言われたんだから!」
「そうだったな」
今回撮影はしないので、丈二にとってその点は楽だった。しかし前回より風が強
く、理恵にとっては厳しい状況になっている。
「今度こそ落ちるかもしれないわ」
丈二と岩に向かって歩きながら理恵が不安そうにつぶやく。
「俺を信じるんだ! 落ちたら俺が必ず受け止めるから」
「分かった。丈君を信じる」
〈死んだら私みたいに不成仏霊になって、二人で丈君を守りましょうよ〉
里美が意地の悪いことを言ったが、理恵には聞こえていない。
「そう言わずに、前回みたいにお前も助けてやれよ」
丈二が里美をたしなめると、
「何か言ってるの? 里美さん」
理恵が寂しそうな笑みを浮かべて聞いた。
「頑張れって言ってるだけだ」
「そう……」
「おい、元気を出せよ。そういう顔すると死神が寄ってくるぞ」
しかし、岩の真下まで来ると理恵はいよいよ意気消沈した。
「風が強過ぎる。確実に落ちそう」
「バカ! そういうネガティブなことを言うな! 絶対に登ってやるという信念を
持て!」
「……分かった」
理恵は意を決したように登り始め、丈二は彼女の少し下のほうを浮揚していった。
強風にあおられながらも理恵は必死で岩にしがみつき、休憩地点の岩場まで来た。
「よくやったぞ! その調子で頂上まで頑張れ」
「うん。王妃様の大切な宝物、返さなくちゃね」
理恵は右手にはめたルビーの指輪を見つめる。
「本当に素敵な指輪。丈君から左手にはめる指輪をもらいたいけど、それは永遠に
無理」
風の音が大きく、丈二には彼女のつぶやきが聞こえなかった。
「早く登ってくれよ、浮いてるこっちは大変なんだから」
「分かったわよ」
全くロマンチックなシチュエーションにならない事に虚しさを感じながら、理恵
は再び登り始めた。
「もう少しだ! 頑張れ理恵! 頑張れ自分! 気合いだ、気合いだ、気合いだ―
―っ」
丈二にロマンチックになる余裕などなかった。
理恵はついに頂上に手を掛けると、よじ登って歓声を上げた。
「やった、やった、一度も落ちずに登りきった!」
「よくやった、理恵! 素晴らしいクライミングだった! 君は確実に成長してい
る」
丈二は選手が好成績を収めた時のコーチのように誉めたたえた。
感激の涙に頬を濡らしながら理恵は言った。
「ううん、みんな丈君が励ましてくれたお陰よ。本当にありがとう!」
丈二の全身に快感が走った。
「あ――――――っ……」
彼が途中で落下を止めたか、下まで落ちて若死にしたかは作者も知らない。
学生時代に筒井康隆氏の小説を電車の中で読んで、笑い出しそうになったのがコ
メディーを書くきっかけだったと思います(漫才やコントや落語の台本、舞台の脚
本も書いております。賞も幾つか貰いました)。プロのギャグ漫画家だった時もあ
ります(4コマ漫画)。今は漫画を描く時間的余裕とスタミナが無いのでやめてお
ります。
友人の誕生日にその子をヒロインにした小説をプレゼントし、「電車の中で読ま
なくて良かった」(爆笑したから)と言われ、その時は芥川賞を貰ったようにうれ
しかったです。
あくまで「笑える小説」を目指しているので、こういった賞とは無縁です。
こんな馬鹿な私ですが、よろしくお願い致します。




