第4章 その21 アイリス視点。許婚になりました(修正)
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あたし、アイリス・リデル・ティス・ラゼル。
今日は六歳の誕生日。
エルレーン公国では、無事に乳児の段階を越えて育つことができた子供は、めでたいことだから、四歳から七歳くらいのうちに、親戚や親しい方々を招いて『お披露目会』という午後のお茶会と晩餐会をすることになっていて。
朝からお客さまがいらしたり、お昼にお爺さまが突然、やってきたり。
いつのまにかエステリオ・アウル叔父様は、あたしの『許婚』になっていた。
今日のお披露目会で、来客に公開するというの。
イリス・マクギリス嬢が、意識を主導してくれていたから、魔法使いの長カルナック師が現れて、いろいろ難しい話をしたときも、対応してくれたのだけど。
あたしはとても危険に晒されていると言われた。
たとえ今日、誘拐されなかったとしても、危険なことに変わりは無い。防ぐためには、予約済みに、つまり#許婚__いいなづけ__#がいるということにするのが一番いいって。
その許婚は、エステリオ・アウル叔父様に決まった。
あたしは……急なことに驚くばかりで。どうしたらいいのかわからなくなった。
イリス・マクギリス嬢は、あたしが混乱している間にも、すごく難しいことをカルナック様と話し合っていた。
ティーレさんとリドラさんも、エルナトさんもやってきて。叔父様は知っているらしい、大勢の魔法使いたちも来て。
プライバシーはないとか。カルナック師と魔法使いたちが子供部屋を出ると、叔父様は、あたしと並んでソファに座った。
なんだかひさしぶりに叔父様に会ったような気がした。
そしたらイリス・マクギリス嬢は、あたしと意識を交代してくれたの。叔父様と、ゆっくり話したらいいって。
やっと、アウルに、お礼が言えた。
お爺さまにつれていかれそうになった時、叔父様が助けに来てくれたことの。
あのとき、どんなに怖かったか。叔父様が現れて、どんなに嬉しくて、ほっと安心して、泣きそうになっていたか。
やっぱり、叔父様は優しい。あたしのことばかり心配して。
あたしはカルナック師に感謝した。
お父さまとお母さまにも、そのお話をしてきたから、もう約束は整ったのだって。
これからは叔父様と一緒にいてもいいんだということが、純粋に嬉しくて。許婚なんだもの。いいんだよね。結婚て、よくわからないけど。
※
そして今、エステリオ・アウルは、あたしに背中を向けて立っている。
なぜって、あたしが、トリアさんたちをはじめ、大勢のメイドさんに、お着替えをさせてもらっているから。
カルナック師が、許婚の護衛をするのも大事なつとめだって言い残したので、部屋を出て待っていることもできないの。
あたしは、まずよってたかって服をすっかり脱がせてもらったり(下着まで!)、次に新しいドレスを何着も取っかえ引っかえ試して。
本当はお披露目には何を着るか決まっていたのだけど。
スカート部分にいっぱいひだを寄せた、白い、絹のサテン地のワンピース。
お嬢さまには白が似合うって、トリアさんが言ってくれる。
アウルにも、早く見てもらいたいな。
ドレスを着せてもらったら、髪を梳かしてトリアさんに編み込みをしてもらって、銀のティアラを差し込んで。ちりばめてあるのは小さいけどダイヤモンド。びっくりです。
お母さまづきのメイドさんも今日は、あたしのお手伝いをしてくれている。
朝からエマさんは、輝陽石の首飾りを熱心にオススメしてた。
あまりオススメするから、見せてもらったけど、スタールビーだった。
地球ならすごく高価な宝石だ。この世界ではどうなのかな。
とてもきれいだけど、なぜか気が進まなくて、つけたくないって断ったら、エマさんは、ひどくがっかりしたみたいだった。
エステリオ・アウル叔父様は、白い亜麻のローブを着ていた。
裾に銀糸の縫い取りがある。これは『覚者』さまが祭事に着るものだそう。まだ『覚者』ではないけれど公式の場だから、これを着ておきなさいとカルナック師の命令だとか。
すごく照れくさそうにアウルが、あたしのドレス姿を見て、微笑んで。
「よく似合うよ」って。
けれど次の瞬間に、ことは起こる。
「それは何だ。そんな呪われたものをアイリスに触れさせるな」
エステリオ叔父様は大きな声で叫んで、エマの手首をつかんで後ろ手にねじ上げ、片手であたしを引き寄せた。
なにが起こったのか。
エマさんが、そっと後ろから近寄ってきて、あたしに輝陽石の首飾りを着けさせようとしたのだ。
すぐにティーレさんとリドラさんが飛んできた。二人ともフリーの魔法使い。今日はメイドの制服を着て、あたしの護衛をしてくれているのだ。
魔力検知が得意な二人。
「黒。真っ黒」
エマさんは、どこかの時点で、外部から侵入してきた魔力の影響を受けて、おかしくなっていたのだった。
背筋が冷えた。
あたしはたくさんの人間に、いろんな意図をもって狙われているのだと、カルナック師は言った。
そのことを忘れてはいけないのだ。
お披露目会も、叔父様との許婚の公開も。戦いなのだ。
叔父様は、まだ、あたしを固く抱き寄せたままで。
「だいじょうぶだ。わたしがついている。この手を離したりしない、今日という日を無事に乗り切れば、きみは、誰の手からも安全になる」
あたしも、アウルの胸に、そっと顔を寄せた。
さらりとした亜麻の肌触り。胸のすくロスマリンの爽やかな香りが、あたしを包む。エステリオ・アウルの好きな、魔除けのハーブの香りだ。
「だいすき」誰にも聞こえないように、小さくつぶやいた。
けれど、あたしの守護精霊たちは、聞き逃さなかった。
『やっとエステリオも素直になったのね~』
風の精霊シルルは感慨深げ。
『カルナック師のおかげだよね』
光の精霊イルミナも同感のよう。
『誰かに一押しされないとエステリオはダメな子だったのね~』
水の精霊ディーネは叔父様をお気に入り。
『アイリス可愛いよ。よかったね』
土の精霊ディオは誰より強くて頼りになる男の子。
……あたしの守護精霊たちは、とても積極的でポジティブです。
駆けつけてきてくれたカルナック師が、エマさんを他の魔法使いたちに託す。
外部の魔法を解呪できる人たちがいるから心配しないでと、ティーレは、あたしの顔色を見て、慰めてくれる。
館の使用人全員の雇用契約の呪文を、外部の人間に手出しできないよう完全なものに書き換えておくことになっていたけど、ここにいるメイドさんたちは、まだ書き換えていなかった。これから、ティーレとリドラの仲間が来て、やってくれる。
「もうじき茶会だ! さあ、用意はいいかな?」
エステリオ・アウルと何かを話し合っていたカルナック師が、子供部屋にいる全員を振り返り、力強い声をかけた。




