第4章 その17 魔法使いの長カルナック(修正)
17
ローサとティーレとリドラ、アイリスを抱いたアウルは、子供部屋に入った。
すると突然、パパーン! という大きな音と共に目の前が真っ白になった。
盛大な紙吹雪が降ってきたのだ。
「いや~おめでとう!」
「あの人嫌いのエステリオがね!」
「魔法使いみんなが見ている前で告白!」
子供部屋には大量の魔法使いたちが詰めかけていた。
エルレーン公国は広く魔力を持つ者を受け入れているので、この国の魔法使いは、毛色も肌の色も様々だ。
ここ、アイリスの子供部屋に集っているのは、一人前の魔法使いとして国から認められた『覚者』ばかりでなく、アウルと共に学院に通っている若者たちも、多くいた。
「な、な、なんでみんながここに!」
エステリオ・アウルは固まった。
ティーレとリドラは、笑いをこらえている。
「バカだな。さっきも言ったじゃないか。この館には大量の魔法使いが来てるって。公衆の面前で愛の告白をしたも同然だよねーっ」
「だよねだよね。『アイリスはわたしのものです』だって~! 言っちゃったよこの子ったら! 今もアイリスちゃんをしっかり抱いてるし」
「こここれは、その」
焦りまくりながらもアウルはアイリスを離そうとはしない。アイリスの方も、不安そうにアウルにしがみついている。
「あの!」
ローサが、思い切って言う。
「魔法使いの方々ですね。本日は、お嬢さまのためにお集まりいただきまして、まことにありがとうございます」
驚きのあまりローサの挨拶もどこかずれていた。
「おや、これはご丁寧に。ありがとうございます」
魔法使い達の中から、一人の人物が進み出た。
腰まで届く、艶やかな長い黒髪。色の白い肌に、切れ長の瞳は、淡い、青。
しなやかな長身の肢体にまとっている魔法使いの長いローブは、漆黒。
男性とも女性とも判別のし難い美貌だ。
「私はこのエルレーン公国、魔導師協会所属、魔法使いの長。カルナック・プーマと申します。こう見えても皆の中で一番の年寄りなので選ばれたようなものでして。お嬢さま専属のローサさんですね。可愛らしい方だ。以後よろしくお見知りおきを」
進み出るとローサの手を取り、手の甲に口づけた。
「ええ! ま、ま、魔法使いの、お偉い方が、このような」
ローサはうろたえた。
「プーマ師匠! 年寄りが若い子に何してんですか」
などと周囲からヤジが飛ぶ。
「うるさいよ、そこ。後で課題を山ほど出すからね」
と言うと、ヤジはようやく静まった。
「良い部屋だねえ。……ところで。さっきもアイリス嬢のご両親と話していたんだけどね」
カルナックは、アウルの前に足を運んだ。
自称するほど年寄りには、とても見えない。
「エステリオ・アウル。きみ、アイリス嬢の許婚に、なりたまえ」
「はい!?」
※
あたし、アイリス・リデル・ティス・ラゼルは、今日の六歳の誕生日を無事に迎えられたのが、とても嬉しかった。
お披露目パーティーも、すっごく楽しみだったの。
でも、始まってみたら、あたし、前世で女子高生だった月宮有栖が、普通に考えていたような誕生日のお祝いとは、ちょっと違う感じになっていったの。
最初のお客さまは、家庭教師のヴィー先生と二人のお友達。
リドラさんとティーレさんっていう、もと冒険者仲間。
ものすごい美少女のティーレさんと美人のリドラさん。
この二人がやってきたことから、いろいろなことが始まった気がする。
あたしは、「危険が迫っているから任せて」と申し出てくれたイリス・マクギリスに、意識の主導権を渡した。彼女は、あたしの中のもう一つの前世。十五歳で死んだあたし、有栖よりも大人で、頼りになるの。
彼女が出ると、あたしは少し休んでいる。アイリスのすること見ること聞くことは全部わかるけれど動くことはできない。映画を見ているような感じ。
あたしはイリス・マクギリスに任せていればよかった、そのはずだったけど。
昼食の席で、お爺さまが来ることがわかった。
それからローサがすごくあわてて、あたしを連れて部屋に戻る。いつもならあたしも降りて自分で走るのに、抱き上げられたままで。
メイドの格好で護衛をしてくれているティーレさんとリドラさんも、すごく警戒していた。
そして、お爺さまに初めて会って。
とても怖かった。
連れて行かれる、と思った。
ローサが泣きそうになってがんばってくれているけれど、奇妙な力が働いて、ローサを動かそうとしているのがわかった。
あたしの中のイリス・マクギリスが、今にも守護精霊達に頼んで、攻撃しそうになっている。
人間相手に精霊たちが攻撃するのはちょっとまずいような気がするけれど。
こういうのは自己防衛よね?
そのとき、目の前に銀色の光が奔った。
床に、魔方陣が輝いて。
そしてそこに、エステリオ叔父さんが、やってきたの。
うれしかった。
そして気がついたら、あたし、有栖が、表に出ていたの。
困惑した。どうすればいいのかわからなくて。
でも、おじいさまがいて怖かったところにエステリオ・アウルが来てくれたことが、あたしは、とても嬉しかった。




