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第1章 その3 アイリス


         3


 気がついたとき、暖かく、白い光に満たされた空間にいた。

 何も見えない。何もない。

 ただただ白い。

 身体は少しばかり浮いていたみたいで、すとんと足先が降りたところは、ふわりとした柔らかな感触があって、一歩踏み出すと、ふかふかして足先が沈み込むようだ。


『……イリス・アイリス……よい人生を。さあ、目覚めなさい……』


 どこかで聞いたことのあるような、ないような。幼さの残る少女の声が、あたしの耳元で、軽やかに響いた。

 開演のベルが鳴る。



 まぶしい。


 光と熱を感じて、あたしは手をのばす。


 なぜかうまく動かない、手、指。

 それに喉に何かつかえてるみたいで、しゃべれない。

 声が出ないのだ。

 いろいろ、動きがぎこちなくて、もどかしいけれども、それなのに、ふしぎに安心感があった。奇妙な感覚だ。


 ふっくらと柔らかなものの上にあたしは横たわっていた。

 ここはどこだろう?

 あたしはどうなっているんだろう?

 しばらくして、

 なにやら暖かいぬくもりが、あたしの全身を包んで、持ち上げた。

 どうしてかな、目が開かない。


 穏やかで優しそうな、女性の声が間近で聞こえた。

「見て、この子ったらなんて可愛いの! 名前もずっと前から決めてあるのよ。ようこそアイリス、いい子ね」

 自分のことを指しているのだと、その時にはまだ気づかなかった。



 アイリス・ティス・ラゼル。

 それが、あたしの名前だと理解したのは、いま少し後のことになる。


 

 背中をトントンと軽く叩かれ、さすられた。

 けふっとしたとき、喉のつかえが取れた。


「……ふ……」


 あたしは声をあげる。

 おかしい。言葉にならない。

 あれ?

 これなに?


「……ぎゃ…おぎゃ……ふ……」


 なんか聞き覚えがある。

 ええと、この音源、ずっと昔のサンプリング音源にあったはず。

 データベースよ。

 都市管理システムの深部に保管されていた、人間の音声の膨大なデータの中に、似たものが。

 そうそう。これって、人間の嬰児の鳴き声じゃないかな?

 つまり、生まれたばかりの、赤ちゃん。


 ……って、え?

 どういうこと?

 この声、あたしが発してるの!?





誕生です。これからです。今回はすこし短めです。

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