第4章 その5 ヴィー先生の冒険者仲間(年齢など訂正しました)
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あたし、アイリス六歳のお披露目は、正式には午後のお茶会から始まって晩餐会に移行するという段取り。
館の中は、早朝から人が行ったり来たり、ばたばたしている。
有能な執事のバルドルさんが大活躍。
メイド長のトリアさん指揮のもと、たくさんのメイドさんが準備に大わらわ。
館の清掃、飾り付け。
お茶とお菓子、お料理、食器、数十人は来てくださるはずのお客さまの待合室、お土産などは、もちろん前々から準備できているのだけれど。
みんな気持ちが焦ってる感じです。
今までは身体が弱かったので、お誕生日のお祝いに、お客さまを招いたりしなかったの。
だから、お披露目は、誕生一ヶ月目の『魔力診』で、魔導師協会というところの、えらい魔法使いに来ていただいて、持って生まれた魔力を見ていただいたとき以来、ということなの。
パーティーなんて初めてです。
人生初なのです。
こんなのは有栖のときにも経験したことないし。ドキドキです。
うちに女の子はアイリスひとりだから、本当に初めてだらけ。
家人一同が張り切ってます。
代々続いた、ラゼル家なら、慣習となっている行事なのだろうけど。
お父様やエステリオ叔父さんのときは、お爺さまが差配されたのだそう。
そのお爺さまは、郊外の別荘にお住まいなのだ。
お父さまは、エステリオ叔父さんの誘拐未遂事件をきっかけにして、お爺さまと仲違いした。
お爺さまは怒って家を出て郊外の別荘に移ったらしいの。
そのとき代々の使用人のほとんどを引き連れて。
誘拐されかけた本人であるエステリオ叔父さんも、お父さまと一緒に残った。
事件を招いた原因は、お爺さまの行動に問題があったからと、不信感が芽生えたらしい、と、メイドさんたち情報でした。
それで、あたしはヒューゴーお爺さまに会った記憶がないのね。
今日のお披露目には、お爺さまも来てくれる予定です。
実は、お父さまとお爺さまがもめないかって、執事のバルドルさんとメイド長のトリアさんは密かに心配しているらしい。
仲良くしてくれたらいいな。
……このときのあたしは、そんな軽い気持ちでいたのだけれど。
うちはエルレーン公国首都シ・イル・リリヤの閑静な住宅街の一郭にあって、庭も広く、いつもは静かです。
商会の店舗はもっと都の中心に近いところにあるの。
※
最初のお客さまがいらしたのは、なんと早朝でした。
「ごめんごめん。早く着きすぎちゃったかな」
ヴィー先生こと、アンティグア家のヴィーア・マルファさんが、二人のきれいな女性を連れていらしたのです。
「いらっしゃい、ヴィー先生!」
メイドさんたちが頑張ってくれたおかげで、すっかりご用意できていた、あたしは、ヴィー先生のご一行をお出迎えした。
「冒険者やってたときの仲間だよ」
「先生、冒険者って」
「四年前かな。学校卒業してすぐ家出して賞金稼ぎやってて。リドラは魔法使いで剣士。ティーレは格闘家なんだ」
ヴィー先生は、ちょっと照れた感じで、紹介してくれた。
腰まで届く艶やかな黒髪と切れ長の黒い目、象牙色の肌をした背の高い美女リドラ・フェイさんと、背中の半ばくらいの長さのプラチナブロンドに薄い緑の目、白い肌をした、小柄な美少女ティーレ・カールソンさん。
「うっわー! かっわいい! 美少女!」
開口一番。
歓声をあげて、あたしに飛びついてきたのは、ティーレ・カールソンさん。
「ティーレ。お嬢さんがびっくりしてるでしょ」
「だってだって。お人形さんみたい! きれーい!」
ほおずり激しいです。
ティーレさん自身、ものすごい美少女なのです。十五歳くらいかな。リドラさんは二十歳くらい?
「ようこそおいでくださいました。どうぞ、ごゆっくり、おくつろぎ……」
ドレスの裾を持ち上げて、会釈する。トリアさんに教わったの。
できるだけ、上品に。
「やだ、かわいい! 犯罪!」
また、激しくハグされました。
ごあいさつが最後まで言えなかったのが残念。
そして気がついた。
ティーレさんと、セレナンの女神スゥエさまが似ているってこと。年齢はティーレさんが少し上だけど。
「かわいすぎるわ! 気をつけて。ヴィーは美少女が大好きなんだから。アイリスちゃんは、まだ幼すぎるから大丈夫だけど。この人、十歳くらいがベスト……」
「それくらいにしてもらえるかな。それとも、ティーレはここで帰るか?」
だんだんヴィー先生のご機嫌があやしくなってきた。
「あっ嘘! 冗談だから! せっかくだから、お誕生会のご馳走食べるまでは帰りたくないもん!」
笑ってごまかすティーレさん。
「もと恋人ってのは、こじらせると大変ね」
リドラさんは、くすっと、大人びて微笑んだ。
えっ。
もと恋人!
目が点になりました。
「あ~あ。それにしたって、あたしがちょっと成長したからって、好みからはずれるって、あり得ないよ!」
前世でいうなら北欧系の美少女、ティーレさんは、こぼします。
ああ。それで。
スゥエさまが、理想の女性なんですね……ヴィー先生。




