第4章 その4 アイリスのお披露目パーティー
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あたし、アイリス・リデル・ティス・ラゼルは、五歳になりました。
三歳も四歳も、生き延びられたの!
現在は五歳。
そして、来月には、六歳の誕生日がやってくる。
いつも家族だけでお祝いしていた誕生日。
でも今年は、無事に六歳を迎えることを大々的にお祝いする『お披露目会』をやるの。
エルさんやヴィー先生、ほかにも、たくさんのお客さまをお招きして。
ほかにも、ヴィー先生の、家出してやんちゃしてたときのお友達も連れてきてくれるっていうんだけど? どういうお友達なのかな?
って、ヴィー先生、家出してたの?
先生が来てくださってから、我が家は前より明るくなりました。
お母さまの診療に、エルナトさんが三日に一度は顔を見せてくださるので、お母さまの気鬱の病も、ずっとよくなったの。
仕事のしすぎ……社交界で頑張りすぎましたねと、エルナトさんは優しく笑う。
こんな人に彼女がいないのは気の毒なような。
でもエステリオ叔父さんにも、彼女はまだいないしね。
実は二人が取り合わないだけで、近づいて来る女性は、いっぱいいるって、ヴィー先生が教えてくれた。
そうよね。すごい将来性のある優良物件だと思うもの。
エルナトさんにも叔父さんにも、いつか素敵な彼女が現れますように。
そしてヴィー先生……
先生は、いまだにセレナンの女神スゥエさま一筋です。毎日、お勉強に取りかかる前に女神さまの魅力を熱く語ってくれるの。
……いつか先生も、ほんもののスゥエさまにお会いできますように。
そういえば、この世界では、神さまに願うときは、普通は、どの神さまに願うのか、ということ。
まず最高神である、真月の女神さま、イル・リリヤさま。優しくて慈愛に満ちた女神さま。
けれど、この女神さまは『死者と咎人と幼子の護り手』と讃えられている。
生と死を司る神。優しさと厳格さを兼ね備えている、最高神に相応しい。
第二位の神さまは、イル・リリヤさまの息子、『青白く若き太陽神アズナワク』
この神さまの名をたたえる時は、どういうわけか必ず『青白く若き』って形容詞がつくの。ちょっと妙よね。どうして『青白く』『若い』の? どこかに、青白くも若くもない太陽神がいるみたいじゃない?
第三位の神さまは、名前を口にしてはいけないの。
天空をめぐる神さまに違いないのだけど。だれも、具体的には、この神さまのことを考えたり話したりはしない。
エステリオ叔父さんに聞いてみたことがある。
「それはきっと禍津日神のことだろう」
って、なに? 暗号?
「災厄を司る神。前世で日本人だったときに読んだ本にあったんだ」
「おじさまってすごく賢かったのね!」
「いや、中二病……じゃない、物語が好きだったんだよ」
前世の話をしていると、叔父さんはときどき、今の姿よりずっと若者みたいに思えることがある。そうすると、なんだか、あたし……有栖は、どきどきしてくる。
だって若い男の子と話したりしたこと、なかったんだもの。
話を戻そう。
四番目の神さまは、天空。ストック。
五番目の神さまは、星々。エストレーリャ。
六番目の神さまは、大海。オロ。
七番目の神さまは、この大地。つまり、ここ、セレナンのこと。
そして八番目より後は、たくさんの神さまたちが、ひしめき合っているという感じ。
真月の女神と太陽を頂点にした、多神教という感じ。
覚えるのは一苦労です。
だから、今のところ、あたしが祈るのは、セレナンの女神さまなの。
知っているから。女神さまたちが、とても優しいってこと。
今生の家族を守りたい、あたしには。すごく心強い味方なのです。
だけど気になるのは、『赤い魔女セレ二ア』別名を『昏い血の獣セラニス・アレム・ダル』と呼ばれる存在。
これこそ、叔父さまのいう、災厄の神なんじゃないかしら。
生きとし生けるもの全てを呪う存在だと、女神さまから忠告を受けている。
できれば近づきたくないけど。もしも、あたしの大切な人たちを害するなら、絶対に許さない。あたしは、覚悟を決めているのです。
※
「お嬢さま! しっかり前を見ていてください。せっかくかわいく髪を編んでいますのに、ゆがんでしまいますわ」
熱心に、斬新な髪型をこころみてくれているのはメイド長のトリアさん。
「このリボンが似合いますわ絶対」
「メイド長。お嬢さまにはこの、紫水晶のブローチをお勧め致します。上品で清楚ですわ」
トリアさんにつぐナンバー2と呼び声のたかいレイナさん。
「こっちのほうが華やかですわ! 紅炎石の中央に星が入っておりますの。お爺さまからの贈り物です」
ナンバー3、エマさんも譲りません。
「なにあなた、その趣味の悪い宝石! ここはエルレーン公国ですのよ。上品さこそ最上のアクセサリー!」……ナンバー4……
「このドレスには、アクセサリーなんていりません! せめて水晶か真珠でなくては!」
ナンバー5……
メイドさんたちの戦場です。
でも、みんな懸命に、あたし、アイリスのお着替えに取り組んでくれているの。
無事に育ったことを祝う、お披露目。
どんなことになるのかしら。
お料理も、誕生日のケーキも、すごく料理長さんががんばってくれてるみたいです。
お礼を言いたい。
それに、わくわくしてる。
早く、お誕生会、始まらないかな。
あたしはまだ人前に出たことは、ほとんどないけど。
それでも、このラゼル家のひとりむすめ、なんだもの!
以前のバージョンよりも、アイリスの年齢を二歳、上げています。
随時直していきます。
がんばります。




