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転生幼女アイリスは、異世界の女神様に人生やり直させてもらってます  作者: 紺野たくみ


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第3章 その20 スゥエと世界の名前


          20


 腰まで届く、青みを帯びた銀髪が、自ら光り輝く。

 肌の色は白く透き通るようで、繊細な小さな唇に、柔らかな微笑をたたえた、十歳ほどの少女。

 その少女の前にうやうやしく跪く、豪奢な長い金髪の美女もまた、一幅の画のように映えて美しい眺めだった。


『約束したでしょう。イリス、アイリス。そして有栖。いつでも、わたしを呼んでくださいと』

 セレナンの女神、スゥエが手を上げると、そのあたりに精霊火スーリーファが次々と集まり始めた。

 青白い光球が踊るようにふわふわと、ゆったりと飛び交う。幻想的な光景だった。


「スゥエ様。虹の女神。お名前もなんと美しいのだろう」

 ヴィー先生は銀髪の美少女、女神スゥエの姿に釘付けだ。


 少しは冗談も入っているのかと疑っていたけど、と、イリス・マクギリスは認識を改める。


「ねえエステリオ・アウル。やはりヴィー先生は……美少女を恋愛対象として見る、残念な美女だったの?」


「うん、実はね。エルもヴィーの行く末を心配してたんだ」

 エステリオ叔父さんは、肩を落とす。


「貴族の令嬢らしいことは一切しない。魔法の研究と武闘に打ち込むばかりだったから。アンティグア家でも将来を考えろと、うるさく言われていて。だからヴィーはアイリスの家庭教師という名目で家を出られて喜んでいたそうなんだ」


「そ、そうだったんだ……」

(そんな裏事情、あまり知りたくなかったわ)


 エステリオとイリスは、とりあえずヴィー先生が落ち着くまで待つことにした。

 世界そのものであるセレナンの女神様に初めて出会ったのだから興奮するのも仕方ないかもしれない。そう考えることにしたのだった。


「お目にかかれて光栄です」

 女神の手を取ろうとして差し伸べた指先が空を掴み、すり抜けたことにヴィーア・マルファは目を見張った。

 つまり、スゥエに触れることはできないということ。


『ごめんなさい。わたしは、あなた方にとってエネルギーの塊。そちらへ行けば世界のバランスが崩れる。あえてそうしなければならないときは別。イリスに、アイリスに危機が迫ったりしたら、ね。』


「アイリスは特別な存在なのですね」

 ヴィー先生は、幻影と知りつつ、女神から目を離せないでいる。


『ええ。もちろん、ヴィーア・マルファ・アンティグア、あなたも、特別な存在であることに変わりはありません。世界にとって誰もが重要なの。前世の記憶をよみがえらせるかどうかは、きっかけにすぎない』


「難しいですね。私にはよくわかりかねます……」


 ヴィー先生が落ち着いてきたのを見てとったのか、女神スゥエさまの姿が、少しだけ彼女に近づいた。


『ところでヴィーア・マルファ。質問がおありとか?』


「あ、そうです、女神様。セレナンとは、この世界そのものなのですか? なぜ、女神様は、降臨なされる?」


『セレナンは、この国、すなわちエルレーン公国があるエナンデリア大陸を含む、さらに大きな世界の名前です。世界の根幹。そして世界の超自我のこと。そして、世界そのものが、人間という生物をより深く知るために生じさせた、細胞としての生物も、同じ名前を持っているのです』


「その、生物とは?」


『精霊族と、呼ぶ人間もいますね。あるいは単にセレナン族とも。わたしたちにとってはどちらでも同じことですが。彼らはセレナンに深く繋がっています。いわば世界そのものであるセレナンの、目と耳、鼻のような感覚器官ですね』


「彼らに、人間は出会うことがあるのですか」


『彼らは、わたしとよく似た外見的特徴を備えています。銀色の髪、肌の色、水精石色の目など。まだ知らなくても、いつか出会うこともあるでしょう。そのときは……できれば優しくしてやってくださいね。わたしたち女神も、彼らのことは気に掛けているのです。わたしたちの子供や兄弟のようなものですから』


 それだけではないとイリスは知っている。

 女神が黙っているので、イリスも口を挟むのはやめた。


 セレナン族は、人間が悪しき存在か否かを、情報を蓄積したうえで判断するための、いわば道具ツールなのだ。

 だから、50年先の未来、セレナン族のラト・ナ・ルアという少女が、人間に殺される事件が起きる。

 そして、世界に危機が訪れるのだ。

(できれば地球滅亡の時ほどには、絶望的状況でないといいんだけど。)


『そろそろ、時間ですね』

 スゥエの姿が、ゆっくりと、薄れていく。


「お待ちください! まだ、お聞きしたいことが……それに、別れなど!」


『さようなら、ヴィー先生。アイリスをよろしくお願いしますね。それから、精霊火を怖がらないでください。精霊火は精霊族の魂なのです』


「スゥエさま!」


 すっかり消える前に、スゥエはイリスを手招きして呼んだ。


『あなたの幸福のためなら世界の理も書き換えましょう。あなたが消えることなどないと約束します』


「それは有栖も? システム・イリスも?」


『ええ。ほら、わたしたち女神だって、エイリスもラトも、その他にもいるわ。わたしたちのリンクの先につながっている世界の本体も。同時に存在しているでしょう。それと同じです。あなたは死なない。生命を全うして、幸せになったところを、わたしたちに見せてくださいね』


「スゥエさま……」


 夥しい数の精霊火が集まってきて、スゥエにまつわりつく。

 光の渦、光の奔流だ。


 イリスにとっては光というだけでなく、柔らかさや手触りを感じる。懐かしい思いさえ、繋がっていく。


 やがてそれらが消えていったあとには、何も、残ってはいなかった。





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