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転生幼女アイリスは、異世界の女神様に人生やり直させてもらってます  作者: 紺野たくみ


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第3章 その18 転生した理由(少し直しました)


18


 しかし、イリス・マクギリスは、こうも思う。


 さっきキツいことを言ったけれど、将来の可能性を考えれば、エステリオの想いも報われないという否定的な結末だけではないかもしれない。


 アイリスが大きくなって学院に入るなりしてこの館を出ても、今の気持ちを忘れないことだって充分あり得る。

 むしろ、

「その可能性、すごくありそう……有栖は彼のこと、かなり特別に想ってるよね……あの子、精神的には十六歳くらいだし」

 イリスは憂鬱そうにつぶやいた。


 前世で(一応)カトリック教徒であったイリス・マクギリスには、なかなか受け入れがたいが、この世界では、禁忌も緩やかのようだ。地球においても古代には近親婚もあったと、地球のデータベースであったシステム・イリスからの情報がイリス・マクギリスの意識に流れ込む。


「まあいいか。この身体もまだ幼いんだし、先のことだよね」

 イリスは悩むのをやめ、エステリオに声をかけた。


「ねえ、エステリオ・アウル。ずっとこうして抱っこしてくれてるけど、腕が疲れない?」

 下ろしてほしいと暗に伝えたつもりだが、返ってきた答えは、


「疲れてないから平気だ」

 

「あなたは良くても、あたしが疲れたの! ソファに下ろして」

 なんて気が利かない。仕方ないので直接的に言う。


「え、イーリス……?」

 エステリオは軽くショックを受けたようだった。


「あ~、ごめんなさい。あなたのイーリスはこんなふうにきつい言い方しないんでしょうけど。あたしは座りたいの」


「もちろん、すぐに」

 間髪入れず反応したのはヴィー先生だった。


 素早く手をのべて、硬くなっていたアウルの腕から幼女を抱き取り、うやうやしく、小花柄の布を張ったソファに横たえた。

 横たえるまでしなくてもとイリスは内心思ったが、ここは素直に好意を受ける。


「大丈夫ですか、マクギリス嬢。まだ体調は万全ではないでしょう?」

「ありがとうございます、ヴィー先生。エルナト様に処方していただいたお薬のおかげで、だいぶ元気になってるんですよ」


 立ち尽くしていたエステリオ叔父さんは、得心がいかないようだ。

「わたしに対する物言いとずいぶん違わないか、イリス・マクギリス」

 

「あたりまえよ。相手は先生なんですから。しょうがないじゃない! 子供みたいに拗ねないでよ」

「こ、子供!? わたしが」

「あ~ら、違う? 寂しいの? 構ってほしいんでしょ? 後で、あたしが引っ込んでから、あなたの可愛い有栖に頼めば?」

「な、な、なにを言い出すんだ! わたしをそんな破廉恥な男だと」

「……むっつりスケ…」

 あと一文字を言う前に、ヴィー先生ことヴィーア・マルファが声を上げて笑いだす。


「二人とも仲が良いな!」

「なにをおっしゃるんです! ヴィー先生!」

「ヴィー! いったいどこを見たら仲がいいとか」


「おや、仲が悪くはないんだろう? ところで、先ほどの話の続きをしたいのだが」


「続きというと」

「つ、続き!?」

 マクギリスとエステリオの声が重なった。実際に、二人は結構、気があっているのではと思うヴィーア・マルファだった。


「セレナンの女神のことですよ。残念ながら私は女神を存じ上げない。お話しいただければ、私はお二人の、永遠に裏切ることのない強い味方となりましょう」


「わかりました。お話しします」

 決意を固め、イリス・マクギリスは、水精石アクアラ色の瞳を向けた。



「何から話したらいいかわからないけど。あたし、とにかく地球って言う、ここから時間も空間も遠く離れた異世界の、ニューヨークっていう大きな都市で生きていたの。もう大人で仕事もしてた。ちょっと働き過ぎだったのよね。心不全でポックリ死んじゃって」


「心不全?」


「心臓の病気というところね。気がついたら、あたり一面、真っ白な、何もない感じの空間にいて。そこで、すごい美少女に出会ったの。十歳くらいに見えた。彼女は、人間ではなく、セレナンという世界の女神だと言われたわ」


「ふむ。なかなかに興味深い」

 ヴィー先生は、幼女と並んでソファに腰を下ろした。

「よろしければその先を続けて」


「女神さまのお名前はスゥエ。セレナンという世界の、ある国の言葉で虹という意味なんですって。もとの世界で死んだあたしをセレナンに転生させてくれるっていうの。もっとも、そのときは、もう一つの前世である『月宮有栖』という15歳の女の子の意識が表に出ていた。スゥエさまと直接話したのは、有栖よ」


「さきほどアウルが言っていた女の子ですね」


「そうね。有栖の中に、同時に、あたし、イリス・マクギリスと、もう一人、うまく言えないけど地球という世界が滅亡するときに生きていた、もう一人のイリス……仮に、彼女のことはシステム・イリスと呼ぶわ。全部の意識が渾然一体となっていたの。あのときは、自分の過去の記憶が、どれがどれなのか混乱してわからないくらいだった。共通していたのは『生きたい』という願いだったのだと思う。みんな寿命を全うできなかった。もっと生きたかった。だから」


「その、女神の提案を受けた?」


「そういうこと。有栖が代表で、ありがたくお受けしたわ。それで、気がついたら見知らぬ世界で、まったくの赤ん坊になっていたってわけよ!」


 黄金の髪をした幼女は大げさに、肩をすくめる。


「だけど、赤ん坊から生まれ直すなんて聞いてないっつーの。あたしはまだ覚醒していなかったから、苦労したのは有栖ありすね。赤ん坊が、紛れもなく自分自身なんだもの。驚いたし困惑してた。それに、戸惑ったことの一つなんだけど、あたしたちが前世で住んでいた地球には、魔法がなかったのよ」


「魔法がない!? それは、ずいぶん不便な生活だったでしょうね」

「そうでもないのよ」

 幼女は、自慢げに言う。

「地球には科学が発達していたから。移動手段だって馬のかわりに機械がやってたし。灯りや動力だって、こっちで言う魔法の道具みたいなのがいっぱいあったし」


「科学!? この世界でも大陸南部にあるサウダージ共和国では、魔法を禁じ、科学というものが発展しているという話だが」


「そのことは、いずれお話し合いしましょう」


「そうだな、本筋はそれではないのでしょう?」


 うなずいて、イリスは語った。


 セレナンの女神とは、その後も出会ったこと。


 スゥエではない、十三歳くらいに見えた精霊族の少女、ラト・ナ・ルア。

 世界そのものであるセレナン本体と深いつながりがあるという、二十歳くらいの外見をしていた美しい女神エイリアスのことを。


 エステリオ叔父さんも、自分の会った女神のことを話した。

 過労死だったと言う。ヴィー先生には理解できない言葉だったようだ。

 つまり働き過ぎで身体が弱っていて、若くして死んだってことですとエステリオ・アウルは言い添える。


「わたしの会った女神は、十五、六歳くらいかな。名前は聞きそびれた。死んだことを教えてくれて、転生させるという。わたしが転生すれば身近にいる、ある少女を守ってやってくれと頼まれた。それが月宮有栖さんのことでもあるなんて知らなかったけど。引き受けたんだ」


「それはなぜ?」

 尋ねたのはヴィー先生ことヴィーア・マルファ。

 それはイリスも聞きたいことだった。


「一度は断ろうと思った。そのときのおれ……いや、わたしは、何の力も無いただの人間だったから。だが女神は、その子を守るための力をくれると。そして、こう言ったんだ。『触れるか触れ合わぬか、微かな縁にある魂。今度こそ彼女を守ってやって』と。おれは心臓を掴まれたみたいに苦しくなった。高校生のとき、おれがずっと毎朝、駅のホームで見かけて、半年間、片思いしていた月宮さんは、十六歳の前の日に交通事故で亡くなったから。その女の子を、助けられるならと……。生まれて数年の間は、自分が『先祖還り』つまり転生した者だとは思い出せなかったが」


「そして出会ったの? 赤ん坊のアイリスと」

「……恥ずかしいことを言わないでくれ。わたしは純粋に、彼女を大きくなるまで守ってやりたいと思って」

「あら、あたしは珍しく真面目に話しているのに」


 こほん。

 ヴィー先生の咳払いが、二人の言い合いを打ち切る。


「それについては、あなた方が二人のときにでもゆっくり話してもらうと良かろう」

 とたんに二人が不満の声をあげるのを、片手で制する。


「何より私が知りたいのは、女神のことだ。この世界と繋がる存在。大きな力を持つ存在。セレナンとは、女神とは、いったい、なんなのか、ということだ!」





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