表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生幼女アイリスは、異世界の女神様に人生やり直させてもらってます  作者: 紺野たくみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/222

第3章 その13 月宮有栖の記憶


          13


「待ってくれ!」

 アウルの叫びには切羽詰まった響きがあった。

「アイリス? それに、有栖だって!? まさかきみは、月宮有栖さん、なのか?」


 この世界に転生してこのかた、セレナンの女神さまたちからしか呼ばれたことのない、21世紀の東京で生きていた時の名前を耳にして、あたしは驚いた。


「どうして、エステリオ叔父さんが、わたしの名前を知ってるの?」


 あたしは驚いて、思わず声をあげていた。

 そして気がついた。急に、身体が自分で動かせるようになったことに。


 あたしはどうなっていたの?

 ヴィー先生に「大人のキス」をされて、気が遠くなってから、自分がどうしていたのか、覚えがない。気を失っていたのかな。


「叔父さんが知ってるわけはない……のに」

 言いかけて、ある可能性に気づき、背筋が凍る。


 女神さまたち以外に、あたしの名前を呼んだ存在が、一人だけ、いた。

 昏い赤の獣、セラニス・アレム・ダル。または「赤い魔女セレ二ア」だ。


 あの時、エステリオ叔父さんの姿を模して、あたしの記憶に侵入した、「生命あるものすべてを呪うモノ」が。

 月宮有栖、って、呼んだ。


「いや!」

 あたしは叫んでいた。

 どうしていいかわからない。

「ねえ、ほんものだよね? エステリオ叔父さんも、ヴィー先生も。うそじゃないよね!?」


 この世界に転生してから三歳になった今まで、ずっと、そばにいてくれた、エステリオ叔父さんを信じられなくなったら、いったい何を信じられるの。

 女神さまと精霊たちと、後は自分自身だけしか。


「どうしたのアイリス!」

 ヴィー先生が叫んで、あたしを持ち上げて抱きすくめる。

 先生の胸はふかふかで大きくて弾力があって、顔を埋めていると温かくて幸せな気持ちになれる、はず、なのに。



 呪詛のように、心の奥で、誰かが意地悪くささやく。



 この人を信じられるの? 出会ったばかりだよね?

 エルナトだって、エステリオだって、さ。



「やめて、誰なの。そんなイヤなこと言わないで」

 また、心臓が凍りそうになる。


『アイリス!』

『アイリス、しっかりして』

『だいじょうぶだから』

『エステリオはずっと味方だから』

 守護精霊たちが、あたしを取り巻いた。

 同時に、精霊火スーリーファが、ふわふわと漂い、集まってきているのが見えた。


 あれ?

 あたし、そんなにヤバいの?

 普通なら人間に関わってくるはずもない精霊火が、助けようとしてくれるほど。


「どういうこと!? なんで精霊火がここに? 家の中なのに!」


 あたしを抱いているヴィー先生の周囲を、精霊火が漂い始めた。

 ヴィー先生が動転してる。

 ナイスバディな大人のいい女、美人の先生が。


「せんせい、だいじょうぶです。スーリーファはこわくないの」


 あたしは右の手をのばして、精霊火スーリーファに触れる。

 ああ、温かくて、柔らかい手触り。シューシュー、パチパチって鳴って。囁いて。これはセレナンの魂なの。


『落ち着いて、アイリス』

 ジオの呼びかけが届く。

『エステリオを信用してやって。本物だよ! アイリスのことが大好きな』


「ジオ! それはいいから!」

 慌てたような、エステリオ叔父さんの声が、間近で聞こえた。

「イーリス! わたしだ。信じてくれないか。言わなかったことがある。わたしは、前世で21世紀の東京に住んでいた。そのとき、きみに、月宮有栖さんに出会っていたんだ」


「え? 出会って……そんな、偶然って」

 そんな都合の良い話ってないわよね。


 でも、エステリオ叔父さんは必死だった。

「月宮さんは、毎朝、吉祥寺から電車に乗って通学していただろう? 駅は高架だった。よく、ホームで見かけていたよ。わたしは、きみに、ずっと話しかけたかった。できないうちに、きみはいなくなって」


「信じられない」

 信じたい。


「じゃあ、もう一つ、前世の、吉祥寺にいた月宮さんだけが知ってることを、今から言う。それならどうだい」


「それは……なに?」

 思わず振り向いた。


 そこには、ぼさぼさのレンガ色の髪を振り乱したエステリオ叔父さんが、いた。


 二十歳だよね? いい大人だよね?

 情けない、表情。


 前にも思った。

 雨に濡れた、子犬みたい。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スピンオフ連載してます。もしよかったら見てみてくださいね
カルナックの幼い頃と、セラニス・アレム・ダルの話。
黒の魔法使いカルナック

「黒の魔法使いカルナック」(連載中)の、その後のお話です。
リトルホークと黒の魔法使いカルナックの冒険(連載中)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ