表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生幼女アイリスは、異世界の女神様に人生やり直させてもらってます  作者: 紺野たくみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/222

第3章 その11 大人のキスと、イリスの覚醒


11


 あたしの家庭教師としてやってきた、ヴィー先生こと、エルナトさんの双子のお姉さんであるヴィア・マルファ・アンティグアさんは、初対面のあたしをすごく気に入ったと言い、抱きしめて、囁いたのだった。

「私と、大人のキスをしても、いいよね?」

「えっ!?」


「却下だ!」

 

 間髪入れず、叫んだのは、エステリオ叔父さんだった。


 パーン!


 叔父さんは、材質はわからないけど何やら軽い音を立てる筒状のもので、ヴィー先生を激しく叩いた。大きな音の割には、ダメージはたいしてなさそうだけど。


「いった~い! 何するのよ」

 頭をさすりながらヴィー先生が振り返る。そこに居るのはもちろんエステリオ叔父さんで、いかめしい表情で腕組みをしながら立っているの。


「却下だと言ってるんだ」

「え~、けち!」

 口を尖らせる。完璧な美女の姿がガラガラと崩れるのを目撃した、あたしは、すっごく残念な気持ち。


 ハンサムウーマンだと思ったのに、我が家にやってきた家庭教師のヴィー先生は、キス魔の美女だったのです!


「いいから帰れ!」

「私はアイリスのご両親のお招きで来ているのよ。アウルに断る権限なんかないでしょ。だいたい、アウルこそ、ケダモノみたいにアイリスに襲いかかってファーストキスを奪ったそうじゃない」

 エルナトから聞いたわよとヴィー先生は胸を張る。

 エステリオ叔父さんは、取り乱した様子で、懸命に言いつのる。

「誤解だ! そ、それは治療のためで、不可抗力で」


 あ、ちょっと、傷ついたかも。

 だって、あたしには、初めてのキスだったのに。


 やっぱりエステリオ叔父さんには迷惑だったよね?

 前世でも今生でも彼女いなかったんだし、どうせなら魅力的な「大人の」女性とお付き合いしたいよね。

 あたしみたいな身体の不調を抱えた子に、ずっと付き合わせてしまってたんだと、思い当たってしまった。

 学院に通うほかには長期休暇になってもどこへも出かけず、両親が留守がちだからと、いつも気にかけて。寝るときは絵本も読んでくれて。


 なのにあたしは、叔父さんがいつもいてくれると安心して「世界が滅びる」って悪夢を見て泣いては困らせていた。

 今度のことだって、あたしが、魔力が多すぎて塊ができやすかったから、それが大本の原因だ。

 ……悪かったわ。立派に公国立学院で研究室も持っているのに、実家から通うのは、親に置いてかれた寂しい子どものお守りのためだったの?


 そんな、あたしの思いを知ってか知らずか、ヴィー先生は、エステリオ叔父さんの顔に人差し指を、ぐいっと押しつけて、にんまりと笑う。


「あら。じゃあ、治療のために必要だから、したくもないのに無理矢理キスしたっていうの? 女の子のキスを何だと思ってるの。ひどい男ねえ!」


 するとエステリオ叔父さんは、むきになって、立ち上がる。


「違うんだ! いくらヴィーでも。したくもないだなんて、誤解されるようなことを言うな!」


「ふっふ~ん。ほら、やっぱり」

 我が意を得たり、と、ヴィー先生は勝ち誇る。

「やっぱリアウルはアイリスのこと本気で好きなんだ。うふふふ、エルから聞いたときは半信半疑だったけど」


「あ……」

 エステリオ叔父さんの顔が、真っ青になり、次に、真っ赤になった。

「……違う、違う! わたしはアイリスの叔父だ。そ、んな、ことは……望めるわけが、ない」

 そして急に、首を左右に何度も大きく振る。

「ただ彼女には、幸せになってほしい。そのためなら、どんなことでもする」


『アイリス、今の忘れてよ』

 ジオが、あたしに呼びかける。

『聞かなかったことにして、忘れてやって。武士の情けってやつさ』


『『『わたしたちも薄々わかってたわ。でも、知らないふりをしてたのよね。エステリオが、かわいそうだから』』』


 守護精霊たちに哀れまれているわよ、叔父さん。

 あたしは、どうしたらいいのかな。

 知らなかったふりって。無理です。


「アイリス。こっち見て」

 ヴィー先生の声に、あたしはぼんやりと、顔をあげて、彼女の目を見た。

 金色の瞳だ。

 あれ? さっきは緑の目だったような気がしたのに。

 その瞳があたしを射すくめて、みるみる迫ってきて。


 唇が、重なった。

 何かを思う間もなかった。

 大人のキスだと彼女が言った意味が、わかった。

 エステリオが、本当に前世でも今生でも、彼女もいなかったんだってこともわかった。初めてだったんだ。エステリオも。だから、あんなに乱暴で、性急な感じがしたんだわ。ヴィー先生に比べたら、彼はまだ、ほんの少年だった。


 何かを、奪われた。

 あたしは戦慄する。

 唇の間を割って侵入してきたものは、なに?

 それは、あまりに濃密で、深く入り込んできて。あたしの身体のしくみを根こそぎ書き換えてしまうような。

 これは魔力なのだろうか?

 抵抗することも、一切、できなかった。

 身体の奥に生まれた熱に、あたしは呑み込まれて……意識を、手放した。


           ※


「どう、気持ちよかったでしょ。私に乗り換えない? アイリス」


「……ごめんなさい、これじゃ、身体が持たないわよ。やれやれだわ。有栖もアイリスも、こんな激しいキス、経験したことがないからパニックよ。失神しちゃったじゃない。おかげで、あたしが出てこなくちゃならなくなったわ」


 赤毛の美女に抱かれていた、黄金の髪をした幼女は、頭をゆっくりと振る。金色の光の粉が、朝露に濡れた大輪のバラが露を払うように、あたりに散った。

 同時に、おびただしい魔力が、ほの青い光の奔流のごとくに飛び散る。


「アイリスじゃない……あなたは誰!?」

 驚きのあまり、抱いていた幼女を取り落としそうになる。


「あら。だめよ、いい女は、そうそう驚く顔なんて見せないものよ、ヴィーア・マルファ・アンティグア。素敵なキスだったわ。もっともあたしは、初めてじゃないけど。こういう遊びも嫌いじゃないわ」


 腕の中で、クスクス笑う、黄金の髪の幼女。

 見たこともない生き物を見るかのように、ヴィーア・マルファは、目を眇めた。


「どうしたのヴィーア・マルファ? あたしに会いたかったんじゃないの? この身体に宿る魂の中で、いちばん大人で、いい女なんだから。あたしが生きていたのは、ご想像の通り、ここ(セレナン)ではないどこか遠く、ソルと呼ばれていた白い太陽の輝く異世界で、二十歳で突然死した。で、あなたは何を知りたいの」


「アイリス?」

「イーリス、なのか?」


 呆然として幼女を見る、エステリオと、ヴィーア・マルファだった。

 目の前の存在は、自分が知るアイリスではないことを、エステリオは、よくわかっていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スピンオフ連載してます。もしよかったら見てみてくださいね
カルナックの幼い頃と、セラニス・アレム・ダルの話。
黒の魔法使いカルナック

「黒の魔法使いカルナック」(連載中)の、その後のお話です。
リトルホークと黒の魔法使いカルナックの冒険(連載中)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ