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転生幼女アイリスは、異世界の女神様に人生やり直させてもらってます  作者: 紺野たくみ


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第3章 その9 我が家の晩餐会


          9


 主人であるお父さまが帰宅し、お母さまの精神状態が好転したことで、館は、ようやく、いつもの日常に戻り始めている。


 ここに至るまでには、精霊火の奔流が館を呑み込み、すべてを浄化して去っていったことがあるのだけど。

 そのことには誰も触れない。表面的には。

 我がエルレーン公国では、精霊火を畏れていない者はいないそうだから。

 精霊火は人間の内面を突きつけてくるという。その体験を思い出し、考えるのも、怖いのだろう。

 メイドさんたち使用人の間で、今日ラゼル家の館で起こったことは、しばらくは話題にのぼるかもしれない。

 あたし、アイリスは、みんなに考えてほしいし、忘れてもらいたくはない。


 お母さまは園遊会から戻って以来、あきらかに異常だったし、平静を取り戻したのは、エルナトさんのおかげでもあるけど精霊火の働きが大きかったと思うのだ。


 少しくらい感謝してもいいじゃない。

 精霊火を畏れるだけじゃなくて。

 どうしてみんな怖がるのかな。

 あたしには、セレナンは恩人(?)だもの。女神さまも優しいし怖くないわ。溢れるような恩寵に戸惑うくらい。


『しかたないよ。普通の人間は、アイリスみたいには、いかないんだよ』

 どこか諦めたようにジオは言う。


『そうよ、アイリス。あなたに最初に出会ったとき、わたしとイルミナがどんなに驚いたか。けがれのない澄み切った目が、妖精の姿をとらえたばかりか、本質まで見抜くのですもの。びっくりしたわよ!』


『そうなの。それに、アイリスの目は、とってもきれい。アイリスの望むことも、とても、きれいだわ。助けてあげたくなっちゃうの』


 シルルとイルミナの言葉に、ディーネもそっと、言い添えた。

『アイリス。さっきのこと覚えてるでしょ。わたしたち、あんなに怒ってる女神様、ラト・ナ・ルア様を見たことはないわ。あのまま人間世界を滅ぼしてもおかしくなかった。怒りを鎮めたのは、アイリスなのよ』


「ありがとう、みんな。でもね、買いかぶらないで。あたしがもし、50年後にラト・ナ・ルアが殺されるのを防げなかったら、それは現実になるわ。人間は、セレナンの怒りをかっては、生きられないのに!」


 あたしのすべてを賭けて誓う。みんなが幸せになれる未来を願う。


          ※


 あたしは妖精達に囲まれながら、眠っているお母さまの寝室に付き添っていた。

 とても心配だ。悪意に染められたのは、魂に疲れが蓄積しているからなのだと、女神さま、ラト・ナ・ルアに教えてもらった。

「お願い。みんな。お母さまに、光の粉を振りかけて」

『わかったわアイリス』

 妖精達はがんばって、いっぱい、人を癒やしてくれる光を降らせてくれる。


「おかあさま。げんきになって。もとの、やさしい、すてきな、おかあさまにもどって。アイリスは、いつもおそばにいるわ」


 ここは精霊火に、セレナンに、清められたところ。

 それでもお母さまが元通りにならなかったら?

 ううん、そんなことないはず! 祈りながら、そばにいた。


 いつの間にか眠っていたみたい。

「アイリス」

 起こしてくれたのは、お母さま!?

「おかあさま! おかあさま!!」

 よかった。お母さまだ。大好きな、あたしのお母さま!

 

 あたしが飛びついて、恥ずかしいけど、泣きじゃくっているので、お母さまはずいぶん困惑したようす。

 目覚めてから、小間使いたちに話を聞いて、覚えがないわ、と、首を傾げている。

 そもそも園遊会に出かけたこと自体、記憶にないようなのだ。



 晩餐の準備が整ったと、ローサが報せにきた。。

 今夜はエルナトさんも加わっている。

 お母さまも同席する。エルナトさんがいるなら、安心だ。


 まるで何事もなかったかのように晩餐会は始まり、お父さまとお母さまと、エステリオ叔父さんも、なごやかに語り合い、滞りなく終わった。



食後のお茶のとき。

 あたしの魔力栓の治療の報告と、薬の服用について教えてもらった。

 煎じ薬で、毎日、朝と夜と飲むのだって。煎じ方はトリアさんとローサが、後でエルナトさんから教えてもらうことになっている。

 一服目を、その場で、飲む。

 かなり苦い。

 我慢して、飲み込んだ。

 身体が温まってくるような感じがした。

 毎日、飲まないといけないらしい。

 これで魔力栓を気にしなくてよくなるなら、とても安心。


 そのあと、お母さまは、休んだほうがいいとエルナトさんの忠告で、先に退出した。

 あたしは、残っていると、わがままをいったのだけど、やっぱりだめ。

 寝室にもどることになった。


 今日は、エステリオ叔父さんが絵本を読んでくれるのも、ない。

 叔父さんは、お母さまに気を遣っているのか。あたしに笑いかけてくれたけど、絵本を読んでくれるとは口にしなかった。

 あたしが叔父さんに読んでもらう絵本を選んでいたのを知っているローサは、かわいそうに思ったのだろう、

「今夜は、おやすみなさいまし、お嬢さま。また、このお屋敷も、じきにいつものようになりますよ」

 と、なぐさめてくれ、絵本の最初の1ページ目を読んでくれた。

「ローサ。アイリスだいじょうぶよ。ひとりでねられます」

 ベッドに潜り込んだけど、実は、寝たふりなの。


 お父さまがエルナトさんと話していることが、聞きたいのだ。

 幸い、守護精霊たちが、会話の内容を耳に届けてくれる。


「まだ首都の中心部に近いところに住んでいたときのことです。エステリオは、五歳のとき、誘拐されかけたのですよ。当時の乳母が、買収されて手引きをしたと」

「エステリオ・アウルについては、わたしの側近が身元を調べさせていただいたもので。事件について報告を受けています」


 初めて聞いたわ。


「犯人は不明のままです。おそらく、サウダージの者だろうと」

「彼の国は『先祖還り』を狩り集めていると聞き及んでおります。自国の利益のために、有効利用するのだとか」

「いやな話ですが、事実でしょう」

「グーリアの動きも疑わしいですが」


 いやな話は世間に満ちあふれている。

 お父さまたちの話は続いた。


 最後に、一つ。

 気になることが話題になった。


 それは、あたしに、エルナトさんが、家庭教師を紹介してくれる、ということ!

 家庭教師よ!

 興奮しちゃった。

「お嬢さま、寝てますよね?」

 ローサがドアを開けて確かめに来たので、寝たふりをした。


 でも興奮はさめないの。

 どんな人がやってくるのかな。


 その日が、とっても待ち遠しい!






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