第2章 その20 魔力障害の治療をします!
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エステリオ叔父さんとエルナトさんが書斎に入って、他の使用人たちを閉め出すのは、秘密を守るため。
そのかわりにローサとトリアさんに、治療の立ち会いをお願いしている。
「ローサ、トリアさん。アイリスが痛がる治療なんてかわいそうで嫌だと、兄も義姉も、絶対反対していたから、今まで治療を先延ばしにしてきた。今日の治療のことは、兄たちには内緒にしていて欲しいんです」
「わかっております、坊ちゃん。良薬は口に苦いものです。若旦那様も本当はわかっていますよ」
「あたしもアイリスお嬢さまが痛いのはいやです。でも、治療しないと死んでしまうんだったら……お元気になられて、立派なレディにおなりのところを見たいです」
目を閉じたあたしは、二人の思いが嬉しくて、涙が出そうになった。
そうか。みんな、知っていたのね。
詰まっている魔力の塊を治療しないと、あたしは大きくなれないで死んでいたのか……。
それも、すごく怖いわ。
あたしは長椅子に寝ているだけでいいと言われ、そのまま横になっていた。
エステリオ叔父さんとエルナトさんが長椅子の近くに椅子を持ってきて腰掛ける。その両脇にトリアさんとローサが佇む。
「治療を始めるよ」
エルナトさんの合図で、エステリオ叔父さんはあたしの両手を握った。
左手と右手を。右手と左手を、つなぐ。
一方で、エルナトさんは、あたしの額に触れた。
額には、シルルとイルミナが、生まれたばかりのあたしに贈ってくれた、目に見えない妖精の守護印がある。
「ここで、アイリス嬢の魔力をあらかじめ活性化しておくね」
額が熱くなってくる。
同時に、心臓の痛みは更に強くなる。
「アイリス嬢。アウルが魔力を左手から流し込んで、心臓のあたりにある塊を溶かす。その後、右手から魔力を回収する。親族の魔力なら近しいものだから、効果があがりやすい。お湯を注いで氷を溶かすような感じで、イメージしてごらん」
「あ、た、しが、イメージ、するの?」
「きみの協力があれば、楽に、早くできるよ」
それって、あたしが非協力的で何もイメージしないと、時間かかるし痛いのが続くってことでしょうか。
……だよね?
イメージします! だって今もすっごく心臓が痛いから。
あたしは集中して、イメージする。お湯で氷を溶かすのね。それとか、お湯で角砂糖を溶かす、とか?
考えていたら、ふいに、左手から、暖かいものが流れ込んできたように感じた。
「……あっ……いたたたたたた」
そうだよねー。
思い出した。これってエコノミー症候群?
血栓が血管の中を運ばれていって心臓に引っかかると、すっごく痛かったはず。
えっと、それか、足裏マッサージ?
肩こりとか、ひどいコリほど痛いんだよね!
「魔力の塊が溶ければ流れもよくなる。疲れやすいこともなくなるよ」
懸命に、この治療はカンタンなんだ、肩こりみたいなものなんだと、あたしは努力してポジティヴなイメージをしつづける。
そうしないと、痛いなんて考えたら、もう、耐えがたいレベルの苦痛に襲われる。
「あいたたたたた!」
そうすると、だんだん腹が立ってきちゃうんだから。
ああもう!
歯の治療でもないのに、なんでこんなに痛いのよ!
早く終わって!
『アイリス怒るな。魔力が固まってしまうぞ』
ぷんぷんしていたら、ジオに怒られた。
精霊たちには、あたしの考えていることがバレバレなのです。
がまんするしか、ないか……ああ、それにしても。
「おじさまのバカ!」
思いっきり言ってみる。
「ええっ!? どうしてなんだいイーリス」
悲しげなおじさま。
……バカ!
おじさまなら、あたしがいくらあくたいをついても、きらいにならないわよね?
そして、あたしは。
1時間くらい続いた治療のあいだに、意識がもうろうとしてきた。
もう、体力の限界だったのかも……。
「ごめ…なさい。おじさま。あとは…おねが…」
それとも、寝落ち!?
寝落ちだったのかな!?
もっと『先祖還り』と前世の記憶のことを聞きたかったのに~!




