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転生幼女アイリスは、異世界の女神様に人生やり直させてもらってます  作者: 紺野たくみ


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第2章 その14 エルレーン公国の食生活事情


           14


 ローサと一緒に、中庭から館に戻る。

 食堂に向かう途中、乳母やのマリアと、メイド長のトリアさん、館のメイドさんたちに揃って迎えられた。

「お目覚めですか、アイリスお嬢さま」

 乳母やが、あたしを抱き上げた。

「昼食のご用意ができております」


「おかあさまは?」

 朝食のときに聞いたからお留守なのは知っているけど、いちおう尋ねてみる。

 もしお母さまがいらしたら、あたしの守護精霊のことを一番にお話しするのにな。


「奥さまは園遊会においでです。旦那さまは商会で、お戻りは夕刻でしょう。こちらで昼食を召し上がるのは、お嬢さまだけですわ」

 メイド長のトリアが言う。

 もちろんあたしは三歳児だけれど、メイド長さんは最初から、幼児言葉を使ったりはしなかった。大人へ対するように話してくれる。


 今朝のお着替えファッションショーは別として。

 ちなみにこの翌日から、お着替えは毎朝の恒例行事となるのだけれど。


 ……あれはメイド長さんたちの趣味だよね?

 みんなが楽しんでくれるのなら、付き合うのも悪くない。


『そうそう、アイリス。楽しければいいのよ!』

『メイドさんたちはアイリスのお着替えのとき本当に楽しんでいたわ』

『幸せをふりまく幸運のお嬢さまって呼ばれているのよ』

 シルルとイルミナ、ディーネも嬉しそうに、妖精の姿で、あたしの周りを飛び回る。

「えっそれ、ちょっと恥ずかしいな」


『いいじゃん。好かれるのが一番だって』

 テーブルに置かれたミルクマグの側で、あぐらをかいているのは、ジオ。


「そうね。きらわれるよりは何倍もいいわね」

 そこは同意せざるを得ないわ。

 たくさんの人に囲まれた、今生の生活が、あたしはすごく好きで、幸せだもの。


 いつもの広いテーブルを前に、あたしは子供用の椅子に腰掛ける。

 執事さんが席を引いてくれて、乳母やが座らせてくれるのだ。

 昼食をとるのがあたしだけなので、メニューの種類と量は少なめだ。

 白パンのバタートースト。紅茶みたいなお茶と暖かいミルク、ジャガイモっぽいイモや野菜が入ったスープが並べられた。

 三歳児のあたしに食べ切れる量はごく僅かなので、どれも少しずつ、陶器の器に盛り付けられている。陶器の器も、贅沢品だ。

 料理は少しだけ余分に作って使用人たちにお裾分けされるとローサが言っていた。


「いただきます」

 家族全員が揃う朝夕の食卓では、お父さまがお祈りをするけど、お昼はお祈りを省略します。だってまだ、神さまの名前はよく覚えてないんだよね。

 朝と夕と昼とは、違う神さまに感謝を捧げることになってるの。

 朝は「青白く若き太陽神アズナワク」、昼は大地と海の女神「セレナン」、夜は、真月の女神「イル・リリヤ」に。

 実はしっかり全部覚えているけど、三歳児がひとりで流暢なお祈りとかしたら、ちょっと普通じゃないし。


 お母さまがいる日は、もう少しメニューが増えるのだろう。

 もっともお母さまが自宅で昼食をとられることは滅多にない。昼食も午後のお茶会も、上流、中流階級にとっては重要な情報交換が為される社交の場であるからだ。

 例外は、我がラゼル家が主催者側になるときだろう。


 お父さまは大きな商会の経営に尽力し、お母さまは、我が家の社会的地位にふさわしい貢献を求められることに、応えていらっしゃる。

 遠縁や近いのや、親戚もいっぱいいるらしい。親戚づきあいも大変だって、いつかお父さまがこぼしていた。

 目上の親族で何かしら祝い事があると、お金持ちでなおかつ当主が若い我が家からは、沢山の贈り物や祝い金を届けなければならない。おじいさまたちは引退して田舎に住まわれているんだって。面倒なことは全部お父さまに任されているみたい。

 あたしはまだ、あまりたくさんの人と会ったことはない。誕生のお披露目には大勢来たそうだけど。

 そのときは、生まれたばかりで目が開いてなかったものね。


 ちなみに昼食をとることは、王侯貴族や富裕層に限られた習慣である。

 一般家庭では食事は朝と夜だけで、午後にビスケットのような軽いものを食べる。

 外で労働している人たちは、午後の半ばにシードルと言うリンゴ酒やアルコール分の弱いエールを飲み、黒パンと腸詰め肉や白身魚のフライとかを食べるそうだ。

 これはエステリオ叔父さん情報。


 ラゼル家では、使用人たちは午後のお茶の時間に、サンドイッチ(この世界での名前は知らない)やホットビスケットにジャムを添えて主人用とは違う安い紅茶と食べる。

 ホットビスケットは柔らかくて、パンに似た感じ。


 前世の記憶と照らし合わせてみる。

 以前にいた世界と、野菜の種類や料理の仕方、食生活は似ているようだ。


 あたしの記憶に強烈に刻まれている、世界の終末が迫っていた時代とは、何もかも全く違うけど。

 あの時、あたしには身体がなかったし、そもそも食糧も乏しかった。

 管理者の同僚たち、生きている人間でも、摂取できるのは合成された糧食だけだった。

 味気ない終末世界だよね。

 いくら文明が進んでも、行き着く先が地球滅亡ではね。


 食事から推測すると、 かなりおぼろげな記憶だけど、このエルレーン公国の生活は、18、19世紀頃のイギリスに似ているかしら。

 他国の事情はわからないけどエルレーン公国では、生活水準はかなりよさそうだ。

 使用人さんたちの表情も明るいのが嬉しい。


 生まれた環境に恵まれているのは、女神さまに感謝しなくては。

 

 あたしはゆっくりと食事する。

 お母さまと叔父さま。どちらが先に帰ってくるかしら。

 きっとエステリオ叔父さんだな……。


          ※ 


 あたしの期待は裏切られなかった。


「お帰りなさいませ坊ちゃま」

「ただいまトリアさん。しかしですね、わたしもいい年なんで……坊ちゃんと呼ぶのは、そろそろやめてください」

 玄関から近づいて来るのは、エステリオ叔父さんとメイド長のトリアさんの、いつものやりとり。


 ムダな抵抗よ叔父さん。

 トリアさんはエステリオ叔父さんが中年になっても、きっとそう呼ぶに違いない。


 ゆっくりの昼食を終えて一休みしていた、あたし。

 叔父さんが学院から帰ってきたら、シルルたち守護精霊さんを見せるんだ。

 期待でいっぱいになって、落ち着かないからローサに頼んで、面白そうな絵本を探してもらっていたところ。

 もちろん今夜、エステリオ叔父さんに読んでもらうんだから。

 せっかくの姪っ子ポジション。

 これは新鮮な経験なので、満喫させてもらいます!


「おかえりなさい、おじさま!」

 走り出す、あたし。

「ただいま、イーリス!」

 なんて幸せそうに笑うの。

 もしかしたら叔父さん、姪っ子バカ?


「あのね、おじさま! あたしの妖精さんたちが、しゅごせいれいになったの。それで大きくなったのよ!」

 エステリオ叔父さんの、思いっきり驚く顔が、早く見たい!






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