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第6章 その30 アイリスの晩餐会デビュー?


          30


 会場に近づくと、人々のざわめきが伝わってきた。


 あたし、アイリスは、ドキドキしてます。

 こんなに大勢のお客様がいらっしゃるなんて、お披露目会以来だもの。

 アイリスが人前にちゃんと顔を出すのも。

 今までは、幼いし病弱ってことで家に籠もっていたけれど。顔出しも、そのうち慣れていかなきゃいけないのよね。


「大丈夫だよ、アイリス」

 あたしの左手を握っているエステリオ・アウルが、笑いかけてくれる。

「わたしも、みんなも一緒にいるから」


 あたしは、こくんと頷く。

 だいじょうぶだいじょうぶ。自分に言い聞かせる。

 そうよ、お披露目会だって、やりきったじゃない。あのときもお爺さまの邪魔さえ入らなかったら全部うまくいってたんだから。

 今は、守護精霊たちも戻ってきてくれたし。

 カルナック様も、マクシミリアン君もついてる。それに……ラト・ナ・ルアも、いるんだから。

 回廊を進んでいく。

 執事のバルドルさんが差配して。

 メイド長のトリアさんも、頼もしく笑ってる。

 ローサもいたわ! お給仕をしてる。


 それに、会場には、お母様とお父様も、待っていてくれた!


「皆様、ご紹介致します。我が家の一人娘アイリス。そして許婚のエステリオ・アウルです!」

 誇らしげな、お父様の声が、広間に響いた。

 メイドさんに先導してもらって、あたしたちは、ゆっくりと(できるだけ優雅にって、エーヴァ・ロッタ先生に言われたように)進んでいった。


 大広間に入る。

 招待客達が、こちらに注目しているのがわかって、あたしは少し、ひるんだ。

(こんなのなんてことないわ。大丈夫よ)

 あたしの中の、イリス・マクギリスさんが、力強く、励ましてくれる。どうしても無理なら自分が表に出ようか、って。あたしは首を振る。


 できるだけ、自分でがんばってみようって、思った!


          ※


 入場してきたアイリスたちを見て、スノッリたちは目を見張った。


 アイリスに護衛として付き添っているカルナックが、ラゼル家の晩餐会に精霊族セレナンの少女を伴って来ている。


 その重大さを最もよく理解しているのは、晩餐会に集った人々の中でもガルガンド出身である彼ら、スノッリ、エーリク、ティーレの三人。

 そして、リドラだった。


「こりゃ大変なことになったわい」

 スノッリが顎髭をしごく。


「面白そうだね。客の反応がみものだ。まだ気づいた者は少ないかな」

 エーリクは、くすくすと笑う。


「おじさんたち、楽しんでるだろ」

 ティーレは文句を言う。


「しょうがないわよ、おじいさんたちには責任ないし!」

 リドラが『おじいさん』と言ったのはわざとである。スノッリとエーリクは敢えて反論しなかった。リドラ相手にそんなことをすれば即座に何倍もになって返ってくるのがわかっていたからだ。

「まーね、普通の人間で精霊族セレナンを実際に見たことがある人って、まずいないでしょう。客たちの話題になるとしたらカルナック様が女性をエスコートしてるってところと、アイリスちゃんの周りに守護精霊エレメントがいるってことね。見えなくても何かしら、神聖な感じは受けるはずだわ。アイリスちゃんの社交界再デビューに強い味方ってとこね!」

「まだ社交界デビューはしてないだろ。お披露目会はしたけど」

「ああらティーレったら。そんなこまかいことはどうでもいいのよ!」


「また始まったわい」

「相変わらず仲が良いのは何よりだね」

 スノッリとエーリクは顔を見合わせ苦笑した。


「ところで」

 スノッリがこっそり持ち込んだ強い酒を見とがめ、ティーレが飲まないように牽制して自ら杯を干した酒豪のリドラは、広間を見回す。

「招待客の中に、ちょっと怪しいのも混じってるわね。お披露目会の時にはいなかった顔ぶれがある」


 飲み足りなそうな顔で、スノッリは豊かな顎髭にこぼれ落ちた酒の滴をテーブルに置かれた布巾でぬぐう。

「晩餐会の始まるぎりぎりになって、どうしてもとねじ込んできた輩もいくたりか、おるようじゃな」


「は? そんなごり押しを通そうなんて」

 ティーレは吐き捨てるように言った。


「あいつよ。ポルトマンさんとこの主取引銀行メインバンクの経営者。出資もして口出しできる立場みたい。断るのが難しいから、どうにかして参加させてもらえないかって、ラゼル家のご当主に頼み込んできたようよ」


 リドラは事情通ぶりを発揮する。


 ポルトマンは中堅の事業家である。

 ナタリーという七歳の娘がおり、アイリス六歳のお披露目会に連れてきていた。その際、友人になる約束をしたのである。

 もっともいまだにアイリスは館から出ない生活をしているため、交友はまだできていない。

 今夜もポルトマン氏は善良そうな顔にいっぱいの汗をかきつつ、娘を伴ってきている。


「ふむ。敏腕銀行家のごり押しか。そこに便乗した輩も多数、おったようじゃの」

 髭を拭きながら、スノッリ。


「群れの勢力を頼みにしている小者。隙あらば食い込んでくるんだろう」

 額に落ちかかってくる金髪を気にしているエーリク。


「愉快な話ではないが、カル坊はもちろん承知しておるさ」


「はははは。そうだろうな」

 スノッリとエーリクは酔っていた。

 持ち込んだ酒はリドラに取り上げられているが、二人ともすでにたんまり火酒をあおった後である。


「もう! 水だけにしなさいよ」

 リドラは顔見知りになっている給仕に頼み、大きな水差しをテーブルに持ってきてもらった。彼女はアイリスお嬢さま専属のメイドとして普段はこの館で働いているのである。潜入捜査ともいう。


 リドラとティーレ、スノッリたちの話題に上がったのは、今宵の晩餐会、当初予定されていた招待客リストにはなかった者たちだ。


「怪しい人物の筆頭はあの銀行家。パブロ・ファティマ」



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