第6章 その27 美少女な女神たちの対談
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「あ~あ、やっぱりだわ!」
何もない真っ白な空間に、少女の声が響いた。
「まただわ! あたしってば、また『それ』を選択しちゃったんだ」
銀髪の美少女が、空間に浮かぶ、柔らかな銀色の光を帯びた『姿見』に映し出される情景を見て、嘆息する。
外見は十四歳くらい。
人間ではあり得ないほど、神々しいまでに美しい少女。
「でも、しょうがないわ! カルナックに『きみが来てくれるなら、嬉しいなあ』なんて言われたら。うんって答えるよりほかの選択肢はないわ! あそこで引っ込んでたら恋のライバルに負けちゃうし! マクシミリアンって坊やは自分の気持ちにも無自覚なだけに始末が悪いんだから」
自分で言って、自分にツッコミ。
鏡に映る、心当たりのありすぎる眺めをつきつけられて、恥ずかしさのあまり、穴を掘って過去の自分を埋めたいと叫ぶのは、ラト・ナ・ルア。
ため息は尽きない。
「そうですねえ。頭まで埋まるのでしたらいったいどれくらいの深さの穴が必要なのでしょうか」
独り言だったはずのラト・ナ・ルアの叫びに答えたのは、透き通るような美しい幼女の声だ。
「まともに答えてくれなくていいのよ、スゥエ」
振り返ったラト・ナ・ルアの前には、十歳ほどの幼い少女がいた。
青みを帯びた銀色の長い髪。淡い青の光を宿す瞳。華奢な肢体。相対しているところを見れば、二人の美少女は双子のようによく似ていた。
それもそのはず、少女達は同じく女神であるのだから。
違いは年齢と、表情だろう。
「それとも皮肉?」
肩をすくめるラト・ナ・ルア。
「そんなことはないです」
澄み切った声を返し、微笑むスゥエ。
「わたしは、あの選択は間違いではないと思いますよ、ラト」
「本気で言ってるの?」
「ええ。カルナックは孤独だった。たとえ自らの『魔力核』を削って分け与えた、生命という意味では『分身』のような子がいても。実の父が、そばにいても。あのときラトが一緒に行かなかったら、どうなっていたことでしょう」
「……そうなのよねぇ」
ラト・ナ・ルアの表情が、沈む。
「けれど、いったい、私たち『女神』に何ができるでしょう。彼らは運命を自ら選び切り開く。先へ進み、思いもよらなかった遙かな地へ手をのばし、足を進める」
次に加わったのは、ラト・ナ・ルアやスゥエよりも少し年上、十六、七歳とおぼしき美少女。アエリアである。
三柱の女神が、ここ、『神々の座』に揃ったのだ。
神々の座。
あるいは、いくつもの時間と空間が交差し通常空間ならあり得ないことに異なる可能性の存在が同居してしまう『特異点』であるジャンクション。
それは、人智を超えた巨大なる女神……別名を《大いなる世界の意思》。その真なる名は『セレナン』である。
ただし、すでに一つの惑星や世界の枠組みにはおさまりきらない。進化して『超意識』『神を超える神』となった意識(生命)の在る『場』だ。
「今はただ見守りましょう、ラト・ナ・ルア。スゥエ。今回は、悪くない未来に結びつくかもしれませんよ」
アエリアは、静かに言った。
「ところで今回、私はマクシミリアン君にも期待しているのですけれど」
柔らかに微笑む。
「はぁ!? アエリアあんたね。エステリオ・アウルの転生のときだって、もう少し手助けしてやればよかったんじゃないの。あんたは放任主義すぎるのよ!」
「人間達も悪人ばかりではありません。もう少し信用してもよいのでは?」
「ばかじゃないの」
ラト・ナ・ルアは吐き捨てた。
「信じて良いのはカルナックとアイリスだけよ」
「前回までは、ですわね」
スゥエは性善説であるようだ。
アエリアは、セレナンの女神という身分を自覚し、人間達への対応にも公平を期すつもりでいる。
「……いいわよ、今のところは様子見でも」
ラト・ナ・ルアは不満を残しつつも、頷いた。
「頼んだわよ、イリス。アイリス。……有栖。幸せに、なってよね」