第6章 その26 新しい仲間
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「やっぱり行っちゃうのね」
精霊の白き森の木々を背にして。
ラト・ナ・ルアは佇んでいた。
すごく、寂しそうだ。
「カルナックなんて帰ればいいわ。儚き人間の世界へ。精霊に比べれば人間の一生なんて瞬き一つの間でしかないのに」
悔しそうに、うつむく。
「いつか必ず親しい人間たちに先立たれて取り残されて孤独になって。……そんなの、可愛そうだから。あたしが側に居てあげても、いいわよ」
ピシッと人差し指を伸ばして、カルナックの胸を指し示す。
「待ってるがいいわ!」
あたし、アイリスとエステリオ・アウル、マクシミリアン君、それに光、風、水、土の守護精霊たちは、カルナック様に連れられて、アイリスの自宅であるラゼル家に帰還するための魔法陣に乗せられたところ。
まだ起動はしていない。
見送りに来てくれているのはラト・ナ・ルア(様、をつけるのがなぜか似合わない感じ)と、レフィス・トール様、グラウ・エリス様とルーナリシア姫様のカップル、それに精霊のキュモトエー様、ガーレネー様。
他にも精霊様たちは見送りになのか、いらしているけれど、姿をはっきりと顕わしてはくださらない。
「きっとまた、気軽に遊びにいらしてね。いつでもかまいませんわ」
ルーナリしア姫様は優しく微笑んだ。
「ラト。そんなに睨むのではないよ」
グラウ・エリス様は苦笑している。
「だって!」
寂しいのに素直になれないラト・ナ・ルアを見やり、グラウ・エリス様は、鷹揚に頷いて、あたしたちをちらりと見る。カルナック様と、目線のやり取り。
ん? これ、何か動きがありそう?
「カルナックの側に居たいんだろう。いいよ、今、行くかい」
「え?」
きょとんとしているラト・ナ・ルア。カルナック様を育てたといっても見た目は十四、五歳の銀髪美少女だ。すごく可愛い。
「このわたしが許可する」
「だって長老たちが、人間に関わりすぎるなって」
「あれらはもはや根が生えて動こうとはしない、お飾りだ。第一世代の代表たるわたしが許すのだから気にすることはない。カルナック、いいね? この子ひとりくらい、一緒に連れていっても、守れるだろう?」
「私に聞くのですか? そんなの、もちろん」
カルナック様は笑って、ラト・ナ・ルアに手を差し伸べた。
「魔導師協会の長である私が、きみを守る。さっき、来てくれと言ったのは本心だよ、ラト姉。いっしょに来てくれ」
「うん! 嬉しいっ! あ、でも、アイリスはどうなの?」
「あたしも、ラト・ナ・ルアが大好きだもの! うれしい!」
人間界にセレナンがやってきて住む。ラト・ナ・ルアは、好きだからというだけではない、ただならない決意をしているに違いないのだ。
内心、誓いをあらたにする、あたし。
ぜったいに、ラト・ナ・ルアを守り切れるようになる!
「もちろんわたしも!」
エステリオ・アウルも請け合った。
こうしてあたしたちの仲間に精霊族で最も若い者、ラト・ナ・ルアが加わったのです。
銀色に浮かび上がる魔法陣。
カルナック様は、おっしゃった。
「いやあ、私にはこんなの必要ないんだけどね。同行者も連れて『翔べる』から。だけどなんか形があったほうがいいかなって。対外的にさ」
それ、言わないほうが盛り上がったなぁ……
カルナック様の、お茶目。