第6章 その24 生命の司ナ・ロッサ
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「だってアイリスは女の子じゃないか! 守ってやりたくなるのは当然だろう」
当然だろうとばかり、きっぱり言い放ったカルナック。
「……なんて、残念な」
六歳幼女アイリス(+有栖)が呟いた。
アイリスの中のイリス・マクギリスも同意見だった。
「黙っていれば超絶美形なイケメンスーパーモデルに見えるのに! 中身は気まますぎる小さい男の子なの!?」
「まぁ、そうだね」
答えたのは、グラウ・エリスだった。相変わらずルーナリシア公女と永遠の新婚さん的ラブラブモード全開で。
「人の世でどれほどの年月が流れようとも、カル坊は精霊の愛しい養い子。われわれが育てていたこの白き森では、幼き頃に還るのも無理からぬこと。大目に見てやってくれないか、おさな子たちよ」
大精霊のグラウ・エリスは、落ち着き払っている。
「ふふっ」
ルーナリシア公女は鈴を転がすように笑った。
「カルナック様は昔から素敵な殿方でしたけれど。心の中に幼心をずっとお持ちでおられました。気まぐれでいたずら好きで行動力に富んで、それに女の子も大好きでしたわね。……そして、そこがまたカルナック様らしい魅力でもありますでしょ?」
「ルーナ様は、カルナック様をよくご存じなのですね」
アイリスは感嘆した。
「小さい頃から存じ上げておりますもの。グラウ・エリス様との婚姻も、カルナック様のおかげですから。とても感謝していますわ」
このやり取りにエステリオ・アウルは加わらなかった。
師匠の子ども時代に興味がないわけではないが、へたに口を挟めば藪蛇になるかもしれないと用心していたのだ。
「私の小さい頃のことなどアイリスに言わないでくれないか。それより指輪の改造もできた。エステリオ・アウル。付与した術式の分析はコマラパとエルナトにも立ち会ってもらって後でやりなさい。まずは晩餐会に戻ろう」
カルナックはアイリスとエステリオ・アウルを促した。少しばかり顔が赤い。
「マクシミリアン! 戻るぞ! おや、どこに行った?」
幼い護衛騎士の姿を探した。
「はい、カルナック様! ここに」
マクシミリアンはすぐさま駆けつけた。
「待たせたね。マクシミリアン、きみは退屈だっただろう?」
「いいえ、退屈なんてしませんでした」
「そうか?」
「あちらのテーブルで、精霊さんたちにお茶を頂いてました」
振り返ると、二十代と見えるたおやかな美女と、それより幾分か年下の美少女が、にっこり笑って佇んでいた。
彼女たちはガーレネーとキュモトエーという。
先ほど、客人たちのもてなしに加わってくれていた、グラウ・エリスと同じく第一世代の精霊である。
カルナックがテーブルについて二人の指輪の改造にとりかかっている間、声をかけてきたのだ。
「せっかくいらしたお客様を、放っておくわけにいきませんわ」
「ま、雑談くらいだったけど!」
お茶を淹れてくれ、マクシミリアンから見たカルナックの様子や、家族のことなど、話していたのだという。
「どうせ『長老』様の指令だろう」
カルナックは、ひやりとした眼差しを森の奥に向けた。
「さあ、どうかしら」
客人に気を配るよう二人に言いつけたのは、ヒトなるものを厭い、白き森の奥に座して、滅多に人前には出てこない、《生命の司》ナ・ロッサ・オロ・ムラトだろうと、カルナックは推測していた。
もっとも、人前に出て行ってはばからないグラウ・エリス・ケート・オロ・ムラトこそは、ナ・ロッサの直接の上司である《生命を司どるものたちの長》であるのだが。
精霊たちも、一枚岩ではないのだ。
かつて遠い昔には、ナ・ロッサもまた人間達に姿を見せることもあった。
カルナックは自らの弟子であるエステリオ・アウルとアイリス、育ててくれた義理姉ラト・ナ・ルアを。
そして白き森における厳しくも優しい教師だったグラウ・エリスを見やった。
「では戻ろう。外界へ……懐かしき人間たちの世界。社交界とやらにね」
生命の司ナ・ロッサは、スピンオフ「精霊の愛し子」の第3章その20にも登場しています。
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