第6章 その23 アイリスの指輪
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「良い返事だ」
カルナックは満足げに微笑み、アイリスの指輪をつまんで手のひらに載せた。
アイリスとエステリオ・アウル。
グラウ・エリスとルーナリシア姫。
カルナックのすぐ側で、固唾を呑んで見守るラト・ナ・ルア。
皆の注目を集めている中で、指輪全体が銀色の輝きに包まれる。
アイリスの指輪は、エステリオ・アウルの場合とは違い、金属が溶けてしまうということはなかった。
繊細に仕上げられたリングの形を保ちつつ、銀色の台座に一粒、嵌められた小粒のエスメラルダ(地球でいうエメラルド)に、虹色の光が宿り、きらめく。
やがて、しだいに光はやわらぎ、凝縮していった。
カルナックは手のひらに乗せた指輪をアイリスに差し出す。
「これがきみの指輪だよ、ごらん。エステリオ・アウルが造った土台はそのまま、魔法の効果を加えた。それと、宝石には別に効果を付与しておいた」
おそるおそる指輪に手をのばしたアイリスは、大切そうに受け取って、手のひらの上で転がし、じっとながめた。
「きれい……」
ため息がもれた。
プラチナのような金属部分の繊細な造形はそのままに、エメラルドは一回りくらい大きくなっていた。さらに石の内部に虹のような光沢があり、さらに青い光が表面に浮かんで見える。
(まるで石がグレードアップしたみたいだわ)
そう思ったが、アイリスの中の『有栖』は、黙っていた。なんとなく、アウルに悪いような気がしたのだ。
(ま、正解じゃない? エステリオはヘタレだから。こじらせると面倒よね)
こう考えたのは、イリス・マクギリスである。
ちなみに先ほど精霊グラウ・エリスに『整理』してもらってから、アイリスは一人脳内会議ができるようになっていたのだ。
(忠告しておくわ、前世の元カレがこれまた、ヘタレでデリケートでね! こりごりよ)
前世での経験からの赤裸々な言葉だった。
あんたも男には気をつけなさいよ、との忠告に、
(は、はい~!)
頷くしか無い有栖だった。
カルナックは結果に満足しているようだ。
「どうだい? 指輪全体に組み込んだのは『帰還』いかなる状況であれ、どこからでも森に戻れるし『転移』で思いのままの場所に行けるよ。『解毒』『炎・熱耐性』『精神攻撃・操作耐性』それから、石にはちょっとした『収納』もつけといたからね。ん~、アイリスの子供部屋くらいの大きさの」
「す、すごくない?」
アイリスは軽く、引いた。
「あの~、お師匠様。わたしの指輪より、ずいぶん盛りましたね」
エステリオ・アウルは、呆れる。
「ああ、もちろん」
カルナックはきっぱりと言い放った。
「だってアイリスは女の子じゃないか! 守ってやりたくなるのは当然だろう」
女の子には過保護なお師匠様です。
お読みいただいて、ありがとうございます。がんばります!