第6章 その21 指輪の改造はカルナック様にお任せで
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「婚約指輪をアイリスの成長とリンクさせて常にサイズぴったりにする事は、まあなんとか可能だと思いますが」
いくぶん控えめに請け合うエステリオ・アウル。
「ですが同時に『帰還』とか『転移』とか、さらに他の魔法を重ね掛け!? そんな高度な魔法、わたしにできるはずが無いじゃないですか!」
課題のハードルをいやがおうでも高く上げ続ける師匠カルナックに、エステリオ・アウルはついに、情けない声をあげた。
「おや、そうかね?」
カルナックはきょとんとして。
「じゃあ、こうしよう!」
大きく頷いたのであった。
「アイリスの婚約指輪に手を加えるのは絶対に必要不可欠だ。だから私がやる。エステリオはそれを見て術式を分析しなさい」
「ええええっつ!?」
予想もしていなかったカルナックの申し出にエステリオ・アウルは驚く。
「まじですか」
外見は天使のような、金髪の6歳幼女にして、中身は25歳ニューヨーカーでキャリアウーマンだったイリス・マクギリス嬢は呟いた。
「ほら、私は天才だから」
カルナックは当然のように笑って言う。
「どんな魔法だって呼吸するみたいにできてしまうからね。それじゃ参考にならないだろう。私も人に教えるなんて面倒だし」
公立学院で講座を持っている学長とも思えない言動である。
「例えばデジカメの『Pモード(プログラムオート)』でカメラにお任せして撮っておいて画像情報を見て『マニュアルモード』で撮る時の参考にするというやり方だ」
「その例え、全然わかりませんよ!」
エステリオ・アウルは呆れる。
「デジカメって。ないわ~!」
イリス・マクギリスも大いに憤慨した。
「いいじゃないか、おさな児たち。この子に任せておきなさい」
グラウ・エリスがその場を納める。
500歳超えの『黒の魔法使いカルナック』も、この世界における人類の歴史の始まりに立ち会った第一世代の精霊グラウ・エリスにかかれば『この子』なのだった。もちろん生まれてたかだか数年や数十年のアイリスやエステリオくらいでは嬰児のようなもの。
「じゃ、始めましょう!」
明るい声をあげて進み出たのは『最も若き精霊』ラト・ナ・ルア。外見は十四歳ほどの銀髪で華奢な美少女である。
「指輪を見せてちょうだい、アイリス。それにエステリオ・アウルのもよ」
尊大な口調でうながした。
それにつられて、まずエステリオは自らが左手薬指にはめていた銀色の指輪をはずして提出した。
皆が囲んでいる丸いテーブルに、絹地のリングピロー。そこに銀の指輪が鎮座している。
「これは合成された物質ではないな」
「はい。魔力で造ったものではありません。いずれ何かに役立つだろうと、兄マウリシオが用意してくれていたものです」
「弟思いのお兄様だな。良かったなエステリオ・アウル」
こう言いながらカルナックは指輪をつまみ上げ、手のひらにのせる。
次の瞬間。
指輪は、『溶けた』。
「わあっ! な、なななななにを! お師匠様っ!」
「あわてない。エステリオ。これはお兄様の『思い』が籠もった素晴らしい指輪だが、逆に、『縛りの呪』となっている」
「呪縛?」
「いったんエネルギー変換してから純粋な『物質』に精製しておく。アイリスのと同様、成長しても指に合うようにする。もちろん『帰還』および『転移』の機能も組み込んで」
カルナックの手のひらに、光が凝縮していった。
まばゆさがおさまっていくと、そこには銀色の指輪があった。
「え、これカルナックが作り直したの? ふつーじゃないの!」
ラト・ナ・ルアは相変わらず遠慮なしの物言いである。
「いえ! これは……す、すっごい……です」
指輪をとり、手に乗せたエステリオ・アウルの顔色が、変わった。