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第6章 その5 《サンプロイド》の魂


          5


 気がついたら、あたし、アイリス(+有栖)は、意識の内側にいた。

 自分の身に起こっていることは見えるし聞こえる、感触もあるのだけれど、身体を動かすことはできない。

 システム・イリスが、表層に出ているせいだ。


『驚いたわ。何これ! 成長してるし! 表層意識が交代したからって、通常の空間にいるのに身体年齢まで変化したのは初めてじゃない?』

 すぐ近くで、声がした。

 とてもよく知っている成人女性の声。


「イリス・マクギリスさん! 直接お話しするの初めてですね!」

 興奮して話しかけたら、


『ちっ』

 いらっとしたように舌打ち。

『さん付け、やめて。同じ自分なんだから』


「だってイリスさんは大人の女性で年上じゃないですか」


『そりゃそうだけど。今さら、あたしたちが前世で死んだときの年齢差は縮まないんだから。そうね、身体が成長すれば、あたしと融合して、あんたたちの精神年齢も大人になるかもね。その点、アイリスと有栖はどうなの?』

「はい。あたしは有栖なのか、アイリスなのか、だんだん、はっきり区別できなくなっています」

『やっぱりそうなのね。ところで、この状況どういうこと。ちょっと疲れて寝てた間に、何がなにやらだわ』


 いらいらしてる~。

 ごめんなさい!

 あたしはイリス・マクギリスに、手短に事情を説明した。


『そういうこと。じゃあ今のところあたしたちにできることは何もないわね。……見守るくらいしか』


「そう思います?」


『カルナック様も「お手並み拝見」なんて言ってたんでしょ。いざとなったら、どうにかしてくれるわよ! あの規格外の魔法使い様と、ちっちゃい護衛騎士がね』


 というわけで、アイリスの意識下では、本来のアイリスとほぼ同一化しているあたし、有栖と、イリス・マクギリスが、手に汗握って見守っている状態。


          ※


 わたし、システム・イリスは、素足で床を踏みしめて歩く。

 よく手入れされた滑らかなフローリング材の感触が足の裏に伝わってくる。

 どちらかといえば柔らかくてあたたかい。クルミの無垢材ね。実物に触れるのは初めてだけれど知識としては知っていた。


 背後に控えてくれているのはお師匠様、『黒の魔法使いカルナック』と、まだ八歳ながら師を生涯にわたって守ると誓い、魔力でできた『成長する炎の剣』を授かった護衛騎士、マクシミリアン・エドモント。これほど力強い援護はほかにない。


 わたしの目の前にいるのは、床に倒れ込んだまま起き上がれないでいるレンガ色の髪をした、美形ではないが実直そうな青年と、彼を支え、手を貸そうとしている巻き毛の青年だった。巻き毛の青年のほうは整った容貌をしている。都市の基準で区分すれば、かなりの美青年に分類される。

 データベースを参照して確認。

 キリコ・サイジョウ。

 ジョルジョ・カロス。

 二人とも同時期に《合成された》サンプロイド。……キリコのほうは外見の姿が一致しないが、魂に刻まれた識別コードを判別した。間違いない。


 あらためて二人の青年を『見る』と、陽炎のように映像が揺らいで二重にぶれた。


『やっぱり……あなたたちは、ダブルね』


『何を言ってるんだい、システム・イリス』

 焦燥した顔で、ジョルジョが問いかける。


『管理局の人間は、キリコもジョルジョも含めて全員、過去の人類の遺伝子をもとにサンプリングして作られた合成人間サンプロイドだから。あなたがたの魂は《合成されたレプリカ》だ』


 魂のレベルでのレプリカ。そしてわたしは《完全な人間》を目指して、以前に存在していた、優れた女性科学者と、過去の人間からランダムにピックアップされた魂を融合させ改良された魂と、器としての肉体までも細胞から造り上げられた《合成人間》だ。


『二人とも、管理局員には《一ヶ月に一度程度》と規制されていた仮想空間への度重なるダイブを繰り返した結果、仮想空間の中に存在しているコピー元の自分自身に接触して、融合してしまった。だから存在が《ダブル》になった』


「……それは、たいそう興味深いな」

 カルナック師匠が、深い息を吐いた。


『興味深い? お師匠、《ダブル》とは、確定していない時空を跨いで存在している個体です。放置すれば、この時空連続体の存在を脅かす。早期に対処すべきです』


『では、きみが死神か?『執政官コンスル』システム・イリス』

 レンガ色の髪の青年が、笑った。

 まるで救済されるとわかったかのように。


 ……解せない。

 理解できない。

 彼らの存在を抹消しろと、わたしは推奨しているというのに。


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カルナックの幼い頃と、セラニス・アレム・ダルの話。
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