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第5章 その60 エステリオ・アウルの帰還


          60


 あたし、アイリスが自宅のセキュリティホールを利用した転移魔方陣でレギオン王国の……あれ? 何番目の王子だったっけ? 王位継承権は十五位のフェルナンデス君に誘拐されて、カルナックお師匠様に助けられて帰還してから数日が経過した。


 これも結局は、カルナック様が仕掛けた『囮捜査』だったのだけど。

 六歳誕生日のお披露目会での事件以来ちょっとした有名人になってしまったアイリス・リデル・ティス・ラゼル……公国有数の豪商ラゼル家の一人娘であるあたしを探るため潜り込んでいるであろう、ラゼル家および魔導師協会に対する敵を炙り出すため。


 当然ながらカルナック様は、今回の囮捜査に引っかかったのがレギオン王国の十歳の王子だとか、件の王子が自国では不遇で微妙な立場であり亡命を希望しているとかという、事件の真相をエルレーン大公や外交大臣に報告すると共に事実の隠蔽をするため、色々な方面に頭を下げて回ったらしい。

 ……らしい、というのは直接お師匠様に聞いたわけじゃないから。

 コマラパ老師と、エーヴァ・ロッタ先生から『内緒だぞ』とか前置きして、教えてもらった。

 そして、あたしは『漆黒の魔法使いカルナック』を顎で使って関係者に頭を下げさせた幼女として勇名を轟かせているという。


 ……ちょっと待って? なんでそうなるの?

 そういう意味で有名になるとか意図してなかったんだけどなあ。


 コマラパ老師は、更にこう付け加えた。

「そうそう、カルナックは言っとったぞ。アイリスの鉄の拳で殴られたら負ける、とな。幼女とは思えんえげつない魔法と同時に弱みを突く心理攻撃を絶妙に織り込んでくるそうではないか。なかなかやるのお!」

「そっち~!?」

 がっくりきた、あたしなのです。

 確かにフェルナンデス君を殴ったときは自制がききませんでしたけどね。あれも、カルナック様が原因なんだから。


「まあまあ、腐らんでも良い。あれが褒めるなど、滅多に無いことなのだ」

 最後にはコマラパ老師もフォローしてくれました。


「そうですわよアイリス嬢」

 動転していたときに『素』の口調になってしまって本音をぽろぽろ漏らしたのは無かったことにしたのか、エーヴァ・ロッタ先生は、いつものネコを被っている。


「機嫌を直す材料がありますよ。リドラから連絡がありました。魔導師協会の特別任務が終了したそうです」


「えっ、本当ですか先生!」

 小躍りしそうになったあたしは、エーヴァ・ロッタ先生の前だったので、懸命に取り繕ってみた。


「うむ。良かったではないかアイリス」


「もう少しでエステリオ・アウルが帰ってきますよ」

 満面の笑みで見守るエーヴァ・ロッタ先生とコマラパ老師。

 嬉しいですよ。

 嬉しいですけど。

 なんか誤魔化された気がします。


 それから更に数日後。

 

 アウルが乗った馬車が、我がラゼル家の邸宅の前に止まった。


 転移魔法陣でならすぐ帰還できるけれど、魔導師協会の特別任務で大勢が招集されたことは首都シ・イル・リリヤでも多くの人が知っているから、ちゃんと人目に触れる方法で帰ってくる必要があった。

 公式には国外出張だったわけなので。


 だから、馬車を降りたエステリオ・アウルは、大きなトランクなんか持って、旅行帰りの雰囲気を演出していた。


 ……どうしよう。顔が熱い!


 一ヶ月ぐらいアウルに会っていなかったってことを、久しぶりに顔を見て、改めて実感したの。なんだか彼が眩しくて、彼の留守にどこかの末席の王子を拳で殴り飛ばしたことなんか思い出すと自分が恥ずかしくて。

 でも、早く近くに行きたくて。

 こんなふうな葛藤したの、初めて。


 出迎えしているお父様やお母様やメイドさんたち。その一番前に仁王立ちで立っている、あたしを見て、アウルは、一瞬、息を呑んだ。なぜかしら。

 それから、破顔して。

 懐かしい! いつもの優しい笑顔だ。


「ただいま! 有栖ありす

 って、言ったの。

 有栖っていうのは、あたしの前世での名前だけど、きっと聞いた人は「アイリス」と口にしたのだと思うはず。


 だから、あたしも。

 満面の笑みで応えた。


「お帰りなさい! アウル!」



 この後は、いろんなことをお話ししたり、晩餐にはエルナトさんやヴィー先生も来てくださるって聞いてお母様が絶句したり。


 今夜の晩餐会、すっごく楽しみだわ!



この章、もう少しだけ続きます。

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