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第5章 その54 フェルナンデス王子の『従魔』(改)



          54


「そうだね、昔からの知り合いだよ」

 まるであたし(アイリス)が考えていたことを読み取ったみたいに、カルナック様は、答えた。


 あたりから銀色の細かい光の粒子がどんどん集まってきて、カルナック様の全身を包み込んでいく。これは魔力かな。世界に満ちている力をカルナック様は呼吸するみたいに自由に取り入れて使えるの。


 お師匠様が……文字通り、眩しい。

 そこへもってきて青白い精霊火まで出現してカルナック様を取り巻き、白い肌に触れたかと思うと、すうっと溶け込んでいくの。

 以前、あたしの六歳のお披露目会でも見かけた光景だ。

 カルナック様の内部に満ちている生命エネルギーは、精霊火そのものなのだって。


 お師匠様にとっては精霊火が、体内を循環しているエネルギー……


 ……ん~、想像しにくい。


「昔からのって……お師匠様は五百年以上は生きてるって、前におっしゃいましたよね。その『ハイイロ』さんも同じように長生きなんですか?」


 あたしはお師匠様の眩い光から目をそらす。

 精霊火があたりに満ちてきたせいで、部屋の中は昼間みたいに明るくなってきた。


 六畳間くらいの小さな部屋、中央には魔法陣。

 魔法陣の前に十歳の王子、フェルナンデス・アルシア・ロン。レギオン。

 名前からわかるようにレギオン王国の、何番目かの王子。王位継承権は十五位だっていうから、王族の中ではあまり権力はないのではないかしら。

 王子の横にいるのは、灰色の衣に身を包み、顔を隠している中年らしい男性のまじない師。

 けれどもし、お師匠様と同じくらい生きているのなら中年ってわけじゃないのね?


『同じようにとはなんだ! 一緒にするな! この我の方が長寿! カルナックを倒して生命力を奪えば、更に我は不老不死になり、この世界に並ぶ超越者として……』

 激高するハイイロさん。


 不老不死?

 カルナック様の生命力を奪い取る?

 

 そんなことできるわけないじゃない。


 どんなに規格外、常識が通用しない人なのか、知り合ってから三ヶ月もたっていないあたしみたいな幼女にだってわかることだわ。

 あたしはハイイロさんの異常なほどの熱意に、げんなりしてしまった。


 カルナックお師匠様は、ため息をついた。

「ハイイロ。それを、あなたに吹き込んだ者のことを覚えているかい?」


『なに!?』

 一瞬、彼はひるんだ。

 確信が揺らいだのだろうか。


「聞いてないぞ!」

 フェルナンデス・アルシア・ロン・レギオン……もうめんどくさいからフェルなんとか王子でいいや……少年王子は声を荒げた。

「グレイム! おまえは、おれに協力するのは、母上に恩義があって返したいからだって言ってただろう? あれは嘘か?」


 事情がありそうだわ。

 王位継承権が上の方ではないことから推測すると、母親の身分が低め……有力な貴族ではないとか?


「カルナックを倒すなど、おれとは関係ないだろ? それより、アイリスをおれの側女にすれば父王の覚えもめでたく、母上の待遇も良くなると、その言葉は真実か?」


 母親に対する真摯な気持ちだけは、あたしにも伝わってきたわ。

 フェル王子の動機はそれなの?

 あたしは同情する気持ちも少しだけ湧いてきたけど、『ハイイロ』さんは、馬鹿にしたように、掠れた声で笑った。


『我の甘言に乗って護衛も側仕えの目もくらまして、この開かずの『虚空の間への通路』に入り込んだことが明るみに出れば継承権さえ失うとも気づかず、愚かな王子よ。今や、望みを叶えるにはアイリスを手に入れるしかない。手立ては先ほど与えておる故、試してみるのだな』


「くそ! おれが自分でやるのか」

 フェルなんとか王子は苛立ちを隠せず、腰に提げていた小さな巾着を開けて中身の、小さな珠のようなものを地面に叩きつけた。

 濃い灰色の煙が生じた。

 みるみる膨れあがっていく煙は、やがて大きな動物……熊? グリズリーになった!?

 たぶんツキノワグマだかグリズリーみたいなものに。


 そいつは、ゆっくりと、こっちに顔を向ける。

 目が妖しい暗赤色に光っている。

 魔獣!?

 まさか王子の『従魔』なの?


「行け! おれの『獣王』! 獲物を生きて捕らえろ!」

 中二病感いっぱいな口調で叫んだ、フェルなんとか王子。

 もっとも転生者でもないはずの王子は中二病なんて知らないだろうけど。


「なんでよ、あたしが獲物なの!?」


「おや、何やら少しは楽しいことになってきたねえ」

 カルナック様は余裕の笑みを浮かべた。


「あたしは楽しくないです! 生きて捕らえろとか獲物だとか、穏やかじゃないわ! こういうとき助けてくれるのが『シロ』と『クロ』だったんじゃないんですか?」


「そうだけど。私が止めていたのだよ。せっかくだろう? 主人である君の命令で登場するとかだと、かっこいいじゃないか」


「そうだけどって! お師匠様!」

 すっごく納得した。

 あたしに危険が迫ったら自動的に敵をやっつけてくれるはずの従魔『シロとクロ』なのに、なんで今回、出てきてくれなかったのか。


「カルナック様の意地悪! スパルタ!」


「いいから名前を呼んで」

 にやりと笑う、カルナック様。この場で一人だけ楽しそう。


 そんな会話を交わしている間にも、グリズリーもどきは、どんどん迫ってくる!


 しょうがない!


 あたしは覚悟を決めて、カルナックお師匠様に貸していただいた二匹の従魔を、呼んだ。


「出て来て! 『シロ』『クロ』! 助けて!」



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