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第2章 その6 メイドさんがいっぱい



 ベッドに入ったのは、朝早くから起きていたのをごまかすためだったのに、いつの間にか本当に眠ってしまっていたようだ。

 目が覚めたときには部屋にローサがいた。あたしが目覚めたのに気づいて、明るい大きな声で言う。

「おはようございます。アイリスお嬢さま」

 癖の強い赤毛を後ろで一つにまとめ、三つ編みお下げにしている。大きな黒い目の下あたりには、薄いそばかすがいっぱい。日に焼けているのは洗濯の手伝いや庭の草刈りみたいな外仕事も任されているから。

 ローサはあたしより七歳上で、現在、十歳。よく気がつくし、とても働き者だ。

 もともとお母さまが結婚するときに実家からついてきたメイドの子供で、小さなうちから見習いメイドで雇われたのだ。

 あたしが生まれたので、あたしの専属小間使いになり、仕事が楽になりましたよと屈託無く言う。


『あーあ。ローサったら、ちょっと正直すぎるかも』

 あたしの肩の上でシルルが楽しそうに笑う。

『そのぶん信頼できるわけだけどねー』

 イルミナも嬉しそう。


 残念ながら館の使用人、メイドさんたちには、あたしの妖精たちがそもそも、いるのかどうか、わかる人は、ほぼいない。

 ローサには魔力が少しだけあるから、妖精がいることはわかるみたい。だけど話している内容までもはわからない。エステリオ叔父さんは、あたしと同じように妖精が見えて、会話もできるけど。


「お嬢さま、今朝も妖精さんがご一緒ですの? また早起きなさいましたね」

「わかるの?」

 わくわくしているローサに応えてあげると、嬉しそうに、にっこり笑う。

「一度、ゆうべ私がご用意しておいたお洋服に着替えてらっしゃいますもの。また寝間着にお着替えなさったんですね」


「えー、ちゃんとたたんでおいたのにぃ」

「ええ、きちんとされてますけど。でも、たたみ方にはコツがありますから!」

 満面の笑みで言うローサ、かわいい。


「そうよね。少し前から自分で着替えてみてるけど、着付けてもらったときみたいにきれいに着られないし。これもコツなの?」

「もちろんそうでございますともアイリスお嬢さま。では、今朝は……」

「うん、お願いね」 

 そう応えた、そのときだった。


「おはようございます! アイリスさま」

 メイド長のトリアと5人のメイドたちが、ドアを勢いよくあけて入ってきたのだった。


「おはよう、みなさん」

「お嬢さま! 今朝こそ、わたくしたちがお着替えをさせていただきますから!」

「ええ、おねがいね」

「まあお嬢さま! 感激ですわ」

「やりがいがございますわね!」


 それからみんなでよってたかって、ファッションショーになりました。

 ローサがせっかくそろえておいてくれたコーディネートも、お嬢さまには地味じゃないかしら、の一言でキャンセルです。

 ですがローサは不満そうな顔は見せません。

 メイド長たちはローサの大先輩だものね。


 それにしても何回着替えするんだろう。

 リボンからドレスから靴下、足下のくつまで。


「お嬢さまは何を着てもお似合いですわ~」

「奥さまによく似ておいでですわ」

 お世辞でも嬉しい。お母さまは本当にきれいな人なのだ。


 髪もとかしたり編んだり、いろいろな髪型を試している。

「お嬢さまはせっかく精霊様のようなきれいな髪をしておいでですのに、日々のお手入れも、おろそかですわ。少しブラシでとかすだけで、ずいぶん違いますのよ」

「それもおねがいします」


 何度も着替えを試してみてから、結局はローサの案に近いものになった。

「ありがとうみなさん。きちんとなってます」

 お礼を言うと、みなさんとっても喜んでくれた。

 それになんて言うか、時間と体験を共有できたのが、うれしいな。


 ひとりでできる、なんてがんばりすぎても、可愛くなかったかもね。


「ではアイリスお嬢さま、食堂にまいりましょう。みなさんおそろいですよ」

 今朝はメイド長さんたちの笑顔がキラキラだ。

 うふふふふ。



「おとうさま、おかあさま。おはようございます」

 食堂に入ると、大きな長いテーブルの端に、お父さまとお母さまがいらっしゃるのが見えた。

「おはよう、アイリス。昨夜は良く眠れましたか?」

「ありがとうございます。だいじょうぶでした」

「魔法や勉強も始めたがっていると聞いたが、無理はいけないよ」

「はい、おとうさま」


 食卓につきたいのだけれど、あたしは三歳児である。もちろん子供用の椅子が用意される。


 おとうさまの名前はマウリシオ・マルティン・ヒューゴ・ラゼル。茶色い髪とおひげ。大きな商会の会長だから、威厳を出すように大人っぽく整えてるけど、まだ三十歳。

 おかあさまの名前はアイリアーナ・ローレル・ラゼル。

 女性の年齢は秘密です……けど。確かお父さまより五歳年下だったはず。

 長い金髪と緑の目は、あたしと同じ。

 もっとも、あたしの目は、妖精を見ているときは色が違うらしい。水精石みたいな淡い水色になるのだそうだ。


 だから将来有望だと、魔法学校の名誉教授とかが言ったらしい。

 生まれて一ヶ月のあたしを見て大騒ぎして弟子にほしいと望んだ、おじいさん。

 そんなに子供を見込むのは滅多になくて、すごく光栄なことらしいの。

 でも、あたしは、いや。

 悪い人じゃないんだろうけど、いきなり魔法使いの弟子になるなんていや。

 もっともっと、普通の暮らしを体験したいんだから。


 席についているのはお父さま、お母さま、それにあたし。

 最後に、エステリオ叔父さんが遅れてやってきた。


「ごめんごめん」

「いいからテーブルにつきなさい。学院に遅れてはいかんからな」


 家族が揃うと、食事のお皿が運ばれてくる。


 まずはスープから。

 朝食は少し軽い。コンソメに似たスープ、前菜、サラダ、ゆでたまごやジュース。

 パンを盛った大皿。炒めたベーコン。

 お父さまと叔父さまだけが飲む、食後のカフィ。

 黒くて刺激的な匂い。

 コーヒーを思わせる香りだ。


 ああ、これは前世の知識ね。

 まだ三歳。先は長いみたい。


 ともかく、目の前のごはんに挑まなくちゃね。


 それにしてもお父さま、お食事の量、多すぎない?

 パンとベーコン山盛りよ。

 となりのお母さまはまるで精霊さまのようにほっそりして、たおやかな美人なの。気をつけないとお父さま、中年太りになっちゃうわ。

 今のところはお腹も出ていなくて引き締まった、ガッチリした筋肉質の身体。

 三十代だからいいけど、お父さまのお食事のこと、考えておかなくちゃ。

 将来は、リアル『美女と野獣』だわ。


 たぶんみんな、幼児用の椅子にかけて足をプラプラさせているあたしが、そんな事を思ってるなんて、想像もしてないでしょうね。


 あっ。いま叔父さんが笑った。

 あたしを見てた?

 心の中身がだだ漏れだったら、どうしよう!




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