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第5章 その25 よけいなことを、とカルナック様は言った(修正)


            25


「ほうほう。よけいなことじゃったかの?」

 スノッリさんの笑みが、深くなった。


「わたしは事件によって破壊されたラゼル邸の改修工事を依頼した覚えはあるが、令嬢とおしゃべりに興じてもよいとは言っていない」

 すっごく冷ややかな表情を浮かべたカルナック様の足下には影がない。


 魔法使いたちは、こういうとき「影を飛ばす」「目や耳がある」という言い回しをする。テレビや隠しカメラ、マイクが仕掛けてあるってこと。

 動力は「魔法」なのだけれど。

 立体映像と音声を伝えているけれど実際にはこの場に来ていないのだ。


 隠居していた、お爺さまが起こした非常識な事件のせいで、ここ半月の間、カルナック様やリドラさんたち魔導師協会の人たちは、昼夜を問わず見張ってくれているの。

 現にカルナック様は夜間の見張りを担当してくれていて、夜明けと共にリドラさんに交替している。


「まあまあ固いことを言うでない。それにつけても、おまえさん、相変わらず目上の者に対する礼儀がなっとらんな」

 スノッリさんの黒い目は、怒っているわけでは無いことは、よくわかる。

 叱っているようでいて、表情は、ものすごく楽しそうだから。


「……スノッリ殿」


「ちがうじゃろ」


「……舅どの」


「それに自分の休みはどうだね。リドラの話では、夜も寝ていないそうではないかの」


「関係ない」


「いや、関係あるじゃろ? おまえさんがそんなでは、あれも、おちおち死んでも、おられぬわい」


「それには触れない約束だ。舅殿」


「わしはな、そろそろ、おまえさんも」


「アイリス! 顔色がよくない。まだ回復が充分ではないな」


 カルナック様が、突然、あたしに声をかけた。

 気のせいかしら。なんだか、スノッリさんの言いかけた話題を逸らそうとしてるみたいに思えるわ。


「もう興味は満たされただろう? 休みなさい。リドラ、ヴィー。彼女に休憩を取らせなさい」


「はい、お師匠様。親父さん、ではまた、いずれ」

 リドラさんは、スノッリさんに会釈をし、あたしを抱いたまま、広間を離れようとする。ヴィー先生も一緒に移動を始めた。


「カルナック! カル坊!」


 スノッリさんが呼びかけているのが背後で聞こえるけれど、カルナック様は、スノッリさんに向かって一礼し、あたしたちと並んで歩き出した。


「またいずれな。舅どの」


「カルナック様」

 あたしは心が騒いで、黙っていられなくなっていた。


 ……舅? スノッリさんが?

 えっと、それって……!?


「スノッリさんから聞いたのです。いつか、きかせてくださいな。公女さまのこと。《影の呪術師》さまのこと。学院をお作りになられた方なんでしょう?」


「アイリスが、良い子にしていたらね」

 カルナック様は約束してくれた。


「ルーナリシア公女さまのお嫁入りは、絵本やお話になっているよ。こんど絵本を持ってきてあげる」


「ありがとうございますカルナック様」

 呪術師さまと公女さまが、どんな巡り合わせて結婚したのかしら。


「それよりリドラ、今後の予定だが……」


「はい、休んで、昼食、午後はお昼寝してからマナーレッスンで、神話の勉強です……」


 並んで歩きながら(足は動いてないカルナック様です)魅力的なご褒美を約束してくれるカルナック様。

 そのきれいなお声を聞いているうちに、あたしはなんだか、眠くなってきた。


「リドラ、詰め込みすぎだよ。この子はまだ六歳で、身体の丈夫でないお嬢さまだ。君の場合とは、状況がいささか異なる」


「そうでしょうか?」


「鉄は熱いうちに打て!と」

 ヴィー先生は、きっとこぶしを握ってるに違いないわ。


 あたしはスケジュールに異議を申し立てます。

 予定の中に、入院しているエステリオ・アウルのお見舞いがないの。


 早く元気になってほしいから、ぜったい、お見舞いを勝ち取るの。


 ほんの少しでいいから。

 アウルの顔が見たいなぁ。


 できたら一日一回は。


 レンガ色の髪を、照れたようにかきむしって、にこっと笑う。

 バカだなあ、アウル。

 もっと、身だしなみをちゃんとして。ちゃんとしたら、それなりに大人の魅力があるんだから。

 ……たぶん。

 

 だから、きょうも、がんばるの。



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カルナックの幼い頃と、セラニス・アレム・ダルの話。
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「黒の魔法使いカルナック」(連載中)の、その後のお話です。
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