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第5章 その20 魔力を使い切ってみよう(修正)


          20


「アイリスちゃん、今度は消火してみて。消えろって」

 リドラさんの指導で、あたしはイメージする。


「はい! 炎よ、消えて!」

 思い切り、叫んでみた。


 その瞬間!

 炎は、きれいに消えてしまった。

 あとかたもなく。


「あれ? 消えちゃった! あんなに大きかったのに!?」


「ほう! たいしたもんだ!」


「へええ。さすがじゃない!」

 ヴィー先生もリドラさんも惜しみない讃辞を送ってくれた。


「じゃあ次は水でも風でもなんでもいいから、やってみて。出して、消す」


「やってみて、って」

 簡単そうに言うけど。

「ヴィー先生。お手本見せてください。あたし、何も見ないと、やりすぎちゃう気がするんです」


「やりすぎでも構わないのよ。気にしないで」

 答えたのは、リドラさん。

「試したみたいで悪かったわ。アイリスちゃんのような保有魔力の大きい子は、先に手本を見てしまうと、無意識になぞろうとしてしまうから、個性や可能性を殺してしまいかねないのよ」


「今、言うところだったのに」

 ヴィー先生は咳払いをして、先を引き取る。

「というわけだ。手本なし、制限なし。まずは、ありったけの魔力を使い果たしてみないか?」


「わかりました、やります!」


 気を取り直した、あたしは。


 とりあえず、水!

 それから風!

 意外と頼れる土!

 基本は光!


 でかい魔法をイメージして、遠慮無くバンバンやりました!


 我ながら自重は忘れました。


 洪水で溺れるかと思ったけど優秀な防護円(これも魔法陣なんだって)のおかげで溺れなかった。

 レンガやコンクリートみたいに固くした土壁をいっぱい作ってみたり。

 で、それを突風で壊してみたり。

 砕け散っている土壁っていうより日干しレンガみたいなヤツ、きっと吹っ飛んだ欠片にでも当たったら大怪我しちゃうわね。


「アイリスちゃんが本気出すと、ほんとにものすごいわ~」

 リドラさんがしみじみ呟いたので、ちょっとやりすぎたかなと思ったんだけど。


 次に、それを全部、すっぱりと消して。

 あれ?

 さすがに息切れしてきちゃった。


「ちょ、ちょっとつらいです先生」

 口にしている間に、目の前がぐるぐる回ってきた。


「いいよ、倒れて!」


 お言葉に甘えました。

 倒れかかったあたしを抱き止めてくれたのは……。


「ありがとうございますリドラさん」


「どういたしまして。気にしないでいいからね。一般的な『魔力持ち』なら、もっと早く魔力枯渇して死んでるから。それくらい凄いことしたんだよアイリスちゃんは」


「そう……なんですか」

 考える気力が出ないくらい、今のあたしも疲れ切っているのだけれど。

「魔力の使いすぎ……なの? ですか?」


「実はカルナック師の指導なの~。アイリスちゃんには、枯渇寸前まで魔力を使わせてみるようにって。そうすれば『魔力栓』発生も防げるというわけ」


「……な、なるほど~……」

 納得したわ。

 あたしの生まれつきの持病『魔力栓』の原因は、保有魔力が多すぎて詰まってたんだった。

 確かにこれなら一石二鳥ね。


 リドラさんに抱っこされたままのあたしとヴィー先生は、銀色の扉をくぐって、もとの、エステリオおじさんの書斎に戻ってきた。


 よく知っている眺めに、安心感を覚える。

 エステリオ・アウルはまだ入院中だけど。

 書斎には、彼の好きなローズマリーの香りが漂っていた。


 ソファに横たえてもらって、ほっとした。


「もうしばらく休んでいるといいわ。いいものあげるから」

 リドラさんは、空中から、手のひらサイズの瓶みたいなものを取り出した。

「すぐ効くドリンク剤とはいかないけど」


 よくみるとそれは透明度の高い水晶でできていて、中に空洞があって水が満ちている。水筒みたいなもの?

 そこから細長いグラスにペリエみたいな発泡水を注いでくれた。

「飲んでごらん。元気になるよ」


 ……どこかで見た?


 ああそうだ。半月前の、あたしの六歳のお披露目会のとき、カルナック様が飲んでらした水だ。

 こんなふうに細かな泡の粒が、グラスの底からたちのぼっていたわ。


「カルナック師匠からアイリスちゃんに魔力切れの徴候が見えたら与えるようにって預かっていたわけよ~。ゆっくり飲んでね。水のように見えるけど、ただの水じゃないの。高エネルギーそのものだから、急いで取り入れると酔うの。乗り物酔いみたいな感じ」


 あたしは返事をする力もなくて少しずつ、お水を口に含んだ。


 ふしぎな水が、じんわりと身体じゅうに染みこんでいくのを感じた。


 魔力と呼んでいる、エネルギーが。空っぽになっていたんだわ。

 やっと、それが身体で理解できた。



「明日からは、魔法の制御方法の練習だよ」

 ヴィー先生は、軽くウィンクした。

「そのときは手本を見せるよ。それに、テキストも持ってくるね」


「え! テキスト在るんですか」


「まぁ、ね」

 ばつが悪そうに笑うヴィー先生。

 さっきはないって言ってたのに。

「魔力の少ない子には、師匠がまとめた教本を見せている。魔力を節約して効率的に運用できるようになっているから、アイリスに最初から使わせるのはどうかと思ってね。呪文も記されているよ」


 ……最初から、それ教えて欲しかったです。


 あ! そうだわ。

 ドワーフよ!


「そうだリドラさん! さっき、隠し部屋を作ったドワーフさんのこと言ってましたよね。この世界には、ファンタジーみたいな、そんな種族のかたたちが、いるんですか?」


「あ~、それね?」

 リドラさんは、ふっと笑った。

 ちょっぴり微妙な表情で。


    

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