第5章 その19 ヴィー先生と炎の精霊(修正)
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後悔先に立たず。
このことわざが、今回すっごく身にしみました。
やっぱり初めて火の魔法を使うのに、キャンプファイヤーをイメージしちゃったのは、まずかったわ!
思っていたのより、かなり大きくなっちゃったの!
ものすごいことに!
全てを焼き尽くす勢いで太い炎の柱があがって、床一面に炎が這うように一気に燃え広がっていった。
なぜ『亜空間にある』隠し部屋で魔法の練習をするのか、よくわかったわ。
身を守るための防護円が部屋の中央に描かれている理由も。それと壁に特殊な魔法遮蔽効果が付与してあるということも。
これがなかったら、間違いなく大変な事態になっていた。
少なくとも、あたしは。
きっと髪が焼け焦げてアフロになったりしたはずよ。
(ここ、笑うとこだから!)
幼かった時のエステリオ・アウルのために、この部屋を作らせたカルナック様と、担当したドワーフの、スノッリさん? に、大大大感謝だわ!
これが外なら大火災よ!
でもリドラさんは涼しい顔をしているし。
ヴィー先生は「すごい、すごいよ!」って目を輝かせているの。
この二人なら防護円なんかなくても、これくらいの魔法くらい軽~く防いじゃうんだろうな。
(カルナック様は規格外すぎるから考えないことにしました)
「隠し部屋の中でよかった……」
気落ちしてしまった、あたし。
「どうしたアイリス。大成功だったじゃないか」
誇らしげに顔を輝かせているヴィー先生。
「ヴィー先生。だって、イメージしたのより何十倍もの効果になっちゃって。これ外でやってたら大変なことに」
しょげるあたしの肩を叩いたのは、リドラさん。
にっこり笑って、こう言ったの。
「うふふ、アイリスちゃんたら。最初から思い通りに魔法をコントロールできるわけないじゃない! 無理無理! そんなのできるのカルナック様くらいよ」
「そっか、そうですね」
最初だもの。
ちょっとだけ、肩の力が抜けて、気が楽になりました。
「まずは素直に喜べばいいのよ。成功したんだから」
リドラさんは、にかっと笑う。
「考えてもみて。最初なのよ! 普通は魔法を発動させるだけでも難しいことなのよ。普通の六歳児ならね。小さい火の玉を一つ作っただけでもう魔力を使い切って倒れるわ」
「え、そうなの?」
今まで感情にまかせて勢いで魔法放ったりしちゃったりしたことあったし。
リドラさんとティーレさんとかカルナック様にだけど。
「魔力が切れるなんて考えたこともなかったです」
「そこが普通じゃない証拠だよ」
ヴィー先生は呆れたように肩をすくめた。
「そうよ~。思ったようにできないのは、あたりまえなの! こんな大きな火は誰にでも出せるわけじゃないんだから。思いっきり魔力を発散しちゃいなさい! 心配しないで、なんだったら使い切ってもいいわ。そしたら魔力の巡りも、ぐっと良くなるわ」
「待ったリディ! これじゃ、どっちが家庭教師だかわからないよ」
ヴィー先生が拗ねるように言った。
あれ? 甘えてる?
こんなところ、あたしには見せない。リドラさんが歳上だからかな?
『ヴィーってば、相変わらずね、甘えんぼさん!』
突然、小さな声が響いた。
これって、妖精の声だ!?
ヴィー先生の肩の上に、赤い光が閃いて、きれいな女性の姿が空中に出現した。
「サラ!」
先生が叫んだ。
あっそうか、ヴィー先生には炎の精霊が守護についているんだったわ。
とっても野性的な美人。
燃えるような赤い髪と透き通った赤い目は、まるでファイヤーオパール。
『あはははは! リドラにかかったらヴィーも子供みたいだよ!』
「サラ! 生徒の前だぞ」
『ヴィーが自分からあたしを呼ぶなんて珍しいから、つい遊んじゃった。生徒って、そこのアイリスのことだったよね?』
「そうだ。サラの見立てではどうだ? 炎の精霊は来てくれそうかな。今、アイリスには守護精霊がいない。ひとりくらい護衛にいてほしいところだが」
『いいんじゃないかな。これくらいできるなら』
いまだ燃えさかっている炎の柱を見て笑う。
『これなら外で火を使えばすぐに誰かしら来るわよ。契約しにホイホイと』
サラは楽しそうに言う。
けれど、ヴィー先生は眉をしかめた。
「そこらの野良精霊じゃなくて。素性の確かなものに心当たりは? この子には、いいのをつけてやりたいんだ。可愛い教え子だからね」
『そうかぁ。精霊界に潜って見繕っとく。じゃ~ねぇ』
そう言って、ヴィー先生の守護精霊、火の精霊サラは帰ってしまったの。
現在は守護精霊たちがいない(卵に戻っちゃってるから)あたしに、火の精霊を?
ヴィー先生は、そこまで考えていたのね。
「先生、ありがとうございます。あたしのために。守護精霊のことを考えていてくださったんですね」
「うん。力をのばすのには現在の状態は歓迎できるのだが。そうはいっても、身を守るすべは、あったほうがいいからね」
「うふふ、お子ちゃまだったヴィーが、いつの間にやら、いっぱしの大人みたいなことを言うのねぇ!」
リドラさんは楽しげにころころと笑った。