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第5章 その18 魔法の隠し扉を造ったのはドワーフ?(修正)


          18


 あたしの目の前には銀色に輝く大きな扉がある。


 エステリオ叔父さんの書斎の突き当たりの壁。

 その前に、あたし、ヴィー先生、リドラさんの三人で立ったら。

 銀色の扉が現れたのだ。

「なにこれ!」

 あたしは驚いて声をあげた。

「こんなの見たことないわ!」


「隠し部屋だよ」

 自慢げにヴィー先生が胸を張った。

「エステリオ・アウルが子供の頃に魔導師協会がドワーフに依頼して作ったんだそうだよ。魔法を使う練習をするときに、保有する魔力が大きすぎることを外部に漏れないようにね。へたなところに知られると厄介だから」


 あれ? ドワーフ? なんか今、さらっとドワーフって言ったよね?

 そんなファンタジーな存在がいるの?

 考えてみたら女神さまや精霊様がいるんだもの不思議はないかも!

 覚えておいて後で詳しく教えてもらわなくっちゃ!


「この扉を『見る』には条件があるの。それはね、まず平均よりもかなり高い魔力を持っていること。そして……ここに『扉がある』って知っていることよ。今日は、わたしたちが一緒だからアイリスちゃんにも見えたの」

 リドラさんは艶っぽく微笑んだ。

「ローサちゃんには見えないし扉をくぐることもできないから、今は他の仕事にまわってもらったのよ」

 あたしの専属小間使いのローサは、魔力を持っているけれど、ほんの少しなの。

 それで、ローサには控え室に戻ってメイド長のトリアさんの指示を仰ぐようにって伝えたのね。


「じゃあ行くよ! 神秘の扉よ開け!」


 右手を前方に突き出して叫ぶリドラさんはとっても凜々しくてかっこよかった。

 すると「カチャリ」と扉の中からカギが外れる音がした。

 やがてゆっくりと、内側に向かって開いていく。


 くすすっ、とリドラさんは笑う。

「OK! さあ、中へどうぞ」


「リドラさん、かっこよかった!」

 興奮しているあたしに、リドラさんはいたずらっぽくウィンクして。


「いやぁ~恥ずかしいわ。ほんとは開けるのに呪文なんていらないんだけど、つい調子にのっちゃって」


「えええええ!?」


「あら、ヴィーったら教えてないの? 魔法を発動させるのに決まった法則とか呪文とか必要ないのよ」


「そのうち教えるつもりだったんだよ! ほんとだよ!」

 ヴィー先生は、あたしの勉強をみてくれているときより、ずっと幼い感じになってリドラさんに接していた。


 そうか、あたしの家庭教師になってくれる前は、冒険者で、リドラさんとティーレさんと三人でパーティー組んでたんだっけ。

 するとヴィー先生が一番年下だもんね。


 扉はごく普通の扉だった。

 中に入るときに妙な感じがしたりするわけでもなかった。


 けれど内部は……とんでもなかったわ!

 そこには意外なほど、だだっぴろい空間があった。

 白い壁には何も置かれていないし飾りもない。

 ただただ、広い広間があるだけ。


「え? え? おかしいわ、どうしてこんなに広いの?」

 動転して叫ぶ、あたし。

「ありえない! 書斎の隣の部屋は、書庫だったはずよ。カギの掛かった大きな本がぎっしり詰まってた。その向こうはリネン室で、お布団とかシーツとかがいっぱい入ってた。どこに、こんな余裕が?」


「しようがないなあ。ナイショよ」

 前置きして、リドラさんは人差し指を立てて、ウィンクした。

「これは亜空間ってヤツなのよ! あ、引いてるわね。二十一世紀で流行ってたゲーム風に言えば、無限収納とかストレージってやつ……だったっけ?」


「なんとなくわかりました」

 よくわからないけど受け入れる。

 そうしないと先へ進めないもの。

 きっとあれね。前世で有栖が見たことがある有名な青い猫ロボットの、なんでも出てくるポケットの中みたいなのかな?


「さて! 今日からは実践よ!」

 リドラさんが高らかに宣言する。

 なぜかしら、彼女の口から聞くと『実践』じゃなく『実戦』って言ってるような気がしてしかたないのだ。


 あたしたちは部屋の中央に進んだ。

 床に、円形が描かれている。

 えっと、これは確か……ちょっと前に教えてもらったわ、円形の中にいる者を守るための防護円だ!

「これまでに学んできたような座学も大事だが、今日からは魔法を実際に行使してみよう。これは、そのために、昔、幼かったエステリオのために作らせたものだ。内壁は衝撃や音を吸収し、部屋の外からでは何が起こっているのかわからないぞ! こいつはドワーフ、ガルガンド出身の一族の力作だ」

「あなたの自慢するとこじゃないでしょ。そこは細工師スノッリの腕がいいってとこなんだから」

「ちょっと、言ってみたかっただけだから」

 リドラさんの間髪入れずのツッコミに、ヴィー先生は、てへっと笑った。


「魔法について、おさらいをしておこう」

 ヴィー先生が、これまで座学で教えてくれたこと。


「魔法の行使のやり方はひとりひとり違う。たとえばカルナック師匠だ。あの人は、呪文なんていらない。無詠唱で自由自在。自分の手足を動かすみたいに使いこなしてる。ただ、初心者はそうもいかない。大事なのはイメージだ。イメージを固めるために必要なら魔法に名前をつけて叫ぶのもいいだろう」


「あのっ! ヴィー先生、呪文はオリジナルでいいってこと?」


「もちろんさ。きみの前世の言葉でもいい。月宮有栖なら、日本語? イリス・マクギリスは……英語? とかいう言葉で構わない」


 とすると、英語かな。

 ラテン語ってかっこよさそうだけど、よくわからないし。

 あたしの中に居る『イリス・マクギリス』はニューヨーカーだから英語は母国語。

 アイルランド系だって。じゃあゲール語? これも有栖にはわからないからダメだわ。


 あたし……二十一世紀の東京に住んでた十五歳の女子高生、月宮有栖は、今世の自分であるアイリスと、かなり同化してきたみたい。

 ときどき自分のことがわからなくなる。

 身体年齢四歳のアイリスに影響されてるのかな。


 あたしの中のもう一つの前世……ニューヨークに住んでいた、二十五歳のイリス・マクギリスは、現時点では、意識の底で眠っている。危険があるときとか、有栖やアイリスでは対処できないときは意識の表層に浮かび上がって、助けてくれるの。


「使ってみなさい。そのための施設だ。きみは今、守護精霊がいない。卵に戻っているわけだが。これはむしろチャンスだ。精霊スピリットは甘やかすから、これまで自分で魔法を使う必要はなかっただろう。今のうちに精神の力を鍛えておくんだ。そうすれば後でいずれ守護精霊が復活したとき、彼らと力をあわせれば、よりいっそう、すごいことができるよ」

 ヴィー先生は、目をキラキラ輝かせていた。

 すごいこと、って何かしら?

 なんか怖くて聞けません。


「はい、ヴィー先生」


 最初は何にしよう。


 そうだ、あたしは『火』の妖精を持っていなかったけれど、全てのエレメントに対応できる素質はあるって教えてもらった。

 空気、水、火、土、光、聖、緑。

 闇だけはタブーだから触れないようにと注意を受けている。


 まずは火を試してみようかな。

 片手を差し上げて、意識を集中して……。

 あたしは叫んだ。

 昔、見たことがあるキャンプファイヤーの燃えさかる炎を、思い描いて。


「炎(Fire)!」



 あ。

 まずかったかな。

 いきなりキャンプファイヤーって、規模が大きすぎた?


 後悔先に立たず。



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