第5章 その12 専属メイド、リドラ(修正)
12
「すごい眺めねえ」
窓際に立っているあたしの傍らに、いつの間にか、ものすごい美女が立っていて、精霊火の描き出す光の河について感想を述べていることに、あたしは今さら驚かない。
長身でスタイル抜群、腰のあたりまで届く長いまっすぐな黒髪、黒い目、ミルクティー色の肌をして。エキゾチックな顔立ちの、ナイスバディな妖艶美女は。
黒いメイド服に、ぱりっと糊のきいた白いエプロンを着けている。
そう、彼女は、あたしの専属メイドだから。
「アイリスちゃんは本当に精霊火が好きなのね」
にっこりと微笑む。
誰を狙っているの?
あたしは幼女なのでターゲットじゃないと思う。
でも、もしもここにいるのが男性だったら、きっと瞬殺だわ。瞬時に恋に落ちてるわ。
「おはようございますリドラさん」
「おはようございます、お嬢さま」
メイドでなおかつ頼もしいボディガード。
その実、エルレーン公国魔導師協会に所属するフリーの腕利きの魔法使い、リドラ・フェイさんは、メイドらしく、深々とお辞儀する。
絶対、彼女はメイドの扮装をするのを楽しんでいると思う。
見た目年齢は二十歳そこそこ。だけど実際は、何歳なのかわからない。持って生まれた魔力が大きければ大きいほど、成人してからは歳をとることがなくなるから。
「あっアイリスちゃん! 今なんか不愉快なこと考えたでしょ! わたしは永遠の十八歳なんですからねっ!」
豊満な胸を張る、リドラさん。
揺れた! 揺れるんだ胸って。
あたしは六歳の幼女だから(肉体は)胸なんてないけどね。
ほんとに、誰を狙ってるのかなっ?
ちなみに、リドラさんも『先祖還り』で、21世紀の東京に住んでいた前世の記憶があるの。東京のこととか、たまに話したりできるのは、とっても嬉しい。
なんでも話せる、素敵なお姉さん。
でも、たったひとつ難点があるのよね……。
リドラさんの前世は……男性だったの。
38歳で死んだって、ちょっと微妙な年齢じゃない?
若すぎもしないけど、おじさんでもない。
枯れてはいないわよね……?
彼女は『前世ではずっと女子になりたかったのよう。だから転生サイコー!』って言うんだけどね。
「あたしが早く起きたから、リドラさんも起こしちゃったの? ごめんなさい」
「気にしないで。仕事だもん。それに夜はちゃんと休んでるわ。魔導師協会は交代制で完全監視体制が敷かれてるから」
さらっと言う。
あたしをというより実はエステリオ・アウルを狙った事件だったわけなんだけど、あれから我が家には魔導師協会の監視体制が敷かれて、24時間、見張ってくれている。
「ちなみに夜の担当は、カルナック師匠だから」
「え、そうなんですか? でも、カルナック様は、昼間も学院で教えてらっしゃるんでしょう。大丈夫なんですか。あんなに色が白くて」
色白なのは、この際関係なかったかもしれない。
するとリドラさんは、
「カルナック師匠には、睡眠は必要ないんだ」
真顔で、素の口調になった。
「あの人は、もうほとんど精霊と同じだからね……」