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第5章 その3 カルナック様との対面(修正)

          3


 アウラお母さまと一緒に来ていたメイドに連れられて、あたしは長い回廊を歩いた。


 回廊という、ちょっぴり仰々しい名称がぴったりくる、ゴージャスで伝統のありそうな邸宅。前世で21世紀の女子高生だったあたしには、中世ヨーロッパみたいな感じなのかなと思える。


 勉強は苦手だったから世界史に詳しくないんだけど。


 助けられてアンティグア家にやってきてから、少しずつ勉強もした。

 子どもの頃に見ていたアニメに出てきたような、とても礼儀正しい家庭教師の女性がついてくれて、常識的な基礎知識もまったくない幼児に驚きながらも、辛抱強く教えてくれたのだ。


 世界の名前はセレナン。

 それだけは、夢の中で、アエリア様という女神様に出会って教えてもらっていたけれど。

 別名を《蒼き大地ティエラ・デ・アスール》精霊の祝福を受けた清浄の新しき大地、とか呼ばれている世界。

 エナンデリア大陸と呼ばれる大陸が一つ、あとは小さな島々。

 もしかしたら他の大陸はあっても、まだ知られていないのかもしれないけど。この世界では大きな船は作られていないから。

 ここは、エナンデリア大陸西部にあるエルレーン公国首都シ・イル・リリヤ。

 他にもたくさんの国が在るんだけど、少しずつ学んでいるところ。

 読みも書きも計算も、これまでは全然教えてもらっていなかったのだ。


 あ、でも先生が感心したところが一つだけ。

 算数が得意なの。まったく教わってなかったのに基礎を学んだだけで、すぐに暗算とかできるようになって、すごいって。

 ……前世の記憶があるからなんだけどね。


 それに文字も、驚いたことにアルファベットそっくりだし。中世に転生したのかなって思ったくらい。

 まあ世界の名前とか違うし。

 決定的な違いを知ったのは、エルナト様に連れられて外を見たとき。

 それは夜で。


 二つの月があった。


 空高くかかっているのは、もとの世界とそっくりな白い月だったけど、地平から今しも昇ってきたばかりの、もう一つの月は、暗赤色で、小さかった。


『あれをごらん。真月まなづきの女神イル・リリヤ様は死者と咎人と幼子の護り手。きっと、きみを助けてくださる』


 やっぱり、女神様がおっしゃてたのは本当だったんだ。

 あたし、21世紀日本の女子高生だった相田紗耶香は、セレナンっていう異世界に転生したんだって、改めて実感した。

 誰にもかえりみられることなく死ぬはずだったクリスタとしての記憶もある。


 時々、夜中にひどく苦しくなって、それはクリスタが、殴られたり飢えたりした記憶がフラッシュバックしたときで。

 でも、いつも、エルナト様やアウラお母さま、メイドさん、誰かが付き添っていてくれた。大抵はエルナト様だったのが不思議なんだけど。すごく忙しい人のはずなのに。



「お客さまはこちらでお待ちです」

 メイドさんは告げて、少し身を引く。

 アウラお母さまが進み出て、「アウラです。入りますわ」


 重厚な木製のドアが、すっと開いた。内側から、見えない手で押されたように。


 エルナト様と、お父様のエルナンド様。

 そしてお客様らしい、初めて見るお二人が、ソファに座っていた。


 一人は背が高くがっしりとした体つきの壮年男性。褐色の肌は、日焼けのせいなのかしら。白髪で、豊かな顎髭も真っ白。まるで有名なフライドチキンのチェーンの……ううん、どっちかといえばサンタクロースに似てるかも。


 そしてもう一人。

 こちらも長身で、けれど筋肉質でも痩せてもいない。すらりとした印象。

 あたしの前世の記憶で一番ぴったりくるのは、スーパーモデル。

 床まで届くようなまっすぐで艶やかな黒髪と、漆黒の瞳、透き通るように肌の色は白くて、すべすべ。

 もしかして十代? 二十代?

 それより男性なの? 女性なの?

 どっちでもいいわ。すっごい美形!


「これはこれは、お可愛らしいお嬢さんだ」

 壮年男性が、顔をほころばせた。

「わたくしは深緑のコマラパ。エルレーン公国国立学院の院長をしております。こちらは、魔道学部の学長、カルナック・プーマ」


「待っていましたよ。クリスティーナ・アイーダ・アンブロジオ・ロペス・アンティグア」

 カルナック様が、すっと立ち上がって、言った。


 その瞳が、濡れたような漆黒から、ごく淡い青に。この世界では水精石アクアラと呼ぶ、アクアマリン・ブルーに、色を変えていく。

 それは強い魔力に満ちていることをあらわす。



 え?

 アンティグア?


 クリスティーナ・アイーダって、あたし?

 あたしのこと!?


 でもでもアンティグア家っていうのはエルナト様の家で……!?



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カルナックの幼い頃と、セラニス・アレム・ダルの話。
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