第5章(新)その0 黒竜の独白(修正)
その0
黒髪に黒い目の、白い肌の少年が登場する。
年齢は十二歳かそこら。
もちろんそれは外見の年齢にすぎない。
その証拠に、あなたを見上げる少年の顔は、妙におとなびた表情をしている。
落ち着き払い、王者のような風格を漂わせている。
けれども同時に、人をくったような蠱惑的な笑みさえ浮かべている。
彼にとってこの世のすべては、遊び。
どうせいつかは皆、塵に還ってしまうのだと。
無常感に包まれている少年。
ここは一つの亜空間。
おそらくエナンデリア大陸の東を南北に貫く二つの山脈のうち東に位置する『夜の神の座』と呼ばれる黒の山脈ソンブラの、地下深く、または遙か上空に位置する場所だ。
※
やあ、ようこそ。
はるばる、ぼくを訪ねてきてくれたのかい?
さてさて、どこから話そうか、お客人?
ぼくは、黒竜……ater draco……。
まだ物語の舞台には登場していない。
あ、でも、噂くらいは聞いてくれたかな?
『色の竜たち』ってのは、噂好きだからね。
おしゃべりな、銀竜あたりは、口にしてるかもね。
あいつ、ぼくのことを「アーくん」とか呼ぶから、ちょっと苦手さ。
竜たちのご多分に漏れず、ぼくも、ものぐさだから。
積極的に『ヒト』の歴史に介入するとか、面倒くさいよ。
そんなのはセラニス・アレム・ダルにでも、まかせとけばいいのさ。
知ってる?
あいつと、ぼくのプログラムは、元々は同じなんだよ。
だけどあいつは、生まれるときに、ひどい『怨み』を抱えているから。
歪んじゃったわけだ。
他人事みたいだって?
だって他人だもん。
ぼくは、セラニス・アレム・ダルじゃない。
……スペアだって?
そんな言い方、きらいだな。
いつか、責任ってやつが降りかかってくるかもしれないけど。
まだモラトリアムを享受していたいんだよね。
お昼寝、午後寝、朝寝も大好き。
こんなぼくを、いつか引っ張り出すようなことがあるとしたら。
よっぽどのことだよ。
はあ。
この世界セレナンを揺るがすような事件?
やだな。
そんな日は来ないといいな~。
なんちゃって。
ま、いつか起こるんだろうけど。
そのときは、ぼくを、よろしくね!
自分で言うのもなんだけど、ぼく、けっこう可愛いし、役に立てる、いいヤツだよ!
ふふん。
セラニス・アレム・ダルが、ぼくを、どう思うかは、わからない。
そのときは、みものだけどね。
対決してみたいって気持ちも、ちょっとは、あるんだ。
そうそう、さっきまでここで、以前の5章と6章で、あなたが見ていた物語についても、触れよう。
「そして、みんな、いつまでも幸せに暮らしました」
ざっくりすぎたかな。
この続きは「黒の魔法使いカルナック」で、綴られることだろう……。
この章では、今後は、主人公アイリスの物語が、彼女自身の口から語られることになる。
あの子も苦労しているけど、良い子だから。
どうかみなさん、よろしくね。
黒竜の独白です。
いずれ彼は登場しますが、近い未来ではありません。