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第4章 その65 嵐山律はいかにして転生したか(2)(修正)


『面白い反応ね。さっきのがもし質問なら、答えは、イエス。わたしは、世界セレナンの本体に深くリンクしているエイリアスなの』


世界セレナン?」


『結論から言った方がわかりやすそうね。嵐山、律さん。あなたは死んだ。そのことは覚えているわね』


「ああ。よく覚えている。いや……覚えています」


 目の前の美人は、女神だという。

 彼は、言葉遣いをあらためた。


「もしかして自分は死んで、そのセレナンという世界に生まれ変われる、というお誘いを頂いているんですか?」


『話が早いわね。ときどきそんな人間がいるのよね。どうしてかしら』

 女神は首を傾げる。


「ああ……自分のいた世界では、そういう物語が流行っていたんですよ。好きで、よく読んでいましたからね」


『なるほど、そういうことね』

 女神は笑顔で頷く。


『では、あなたは、これから、わたしの管理している世界、セレナンに生まれ変わります。もしも希望しないなら、前世を思い出さない選択肢もあるけど、そうすると生きのびるのが大変になるから、おすすめしないわ』


「……ってことは。生まれ変わるのは大前提? もう決定事項?」


『そうよ』

 女神は心なしか嬉しそうに言った。


『でも、あなた、生まれ変わった後の人生も不遇なのよね。何度かやり直してみたんだけど、いつも早死にしてしまうの。せっかく生を受けるのに、残念じゃない?』


「何度もやり直した!?」


『あ、そこ突っ込まないで欲しい!』


「え? え?」


『嵐山律さん。とにかく、わたしたちセレナンは、あなたが気に入ったから。できるだけ幸せにしてあげたいの。だから今回は、前世の記憶を持ったままの生まれ変わりを試してみない?』


「え……? それって、なんか、いいことあります?」


『あるわよ。律さん、彼女もセレナンに生まれ変わっているの。でも、今のままでは、あなたは彼女に会えないままで早死にする。会いたいでしょ?』


「彼女ってまさか」


『杉村操子さん。あなたの前世の上司。そして』


「言うな!」

 思わず彼は耳を塞いだ。だが意味は無かった。女神の言葉は、塞いだ手のひらなどすり抜けて耳に、胸に届くのだから。


『ストーカーにつきまとわれ、刺殺された人よ。そしてあなたが、ただ一人、本気で愛していた人』


「ちがう! 自分は、女なんか好きじゃない」


『男性が好きな男性、ゲイということ? でも、彼女だけは特別だったのでしょう? 認めなさいな。わたしたち、世界は、あなたの幸せを願っているのよ』


「認めたら。彼女に、また会えるんですか?」


『ええ、もちろんよ』


「よかった。それなら、女神様の言う通りにします」


『ご理解いただけてよかったわ』

 満面の笑みで、女神は言った。


『生まれ変わった彼女と再会したら、お互いに相手の前世のことがわかるようにしてあげましょうね。これは特別よ? めったにしないのよ?』


 いたずらっぽく笑う。

 もし自分がノーマル男性だったら、絶対、恋に落ちるな。この笑顔。


『転生先の世界のことを少しお話ししておくわね』


 と前置きして、女神様は説明してくれた。


 世界の名前はセレナン。意識を持つ世界。

 人の望みを叶えるために具現化したという。


(この部分は彼にもよく理解できなかった。だがまあ、後々わかっていくだろうと思い、うろ覚えのままに聞き流してしまう)


 エナンデリア大陸という、送ってくれたイメージによれば南アメリカ大陸に似ているような形で。いくつもの国がある。

 大陸最北端の地には、巫術を使う王の統治するアストリード王国、エルフに似た精霊枝族や脳筋な傭兵達を輩出するガルガンド。中央部には古い歴史を持つレギオン王国。そこから派生したエルレーン公国。南にグーリア帝国、小国キスピ、魔法を禁じているサウダージ共和国。


「禁じ? っていうことは魔法がある世界?」


『ええ。特にレギオン王国とエルレーン公国では盛んね。エルレーン公国には、魔導師協会があって、無料で入れる学校もある。あなたは、そこへ行きなさい。彼女も、その学校に入るから』


「本当ですか! すごいやる気出ました!」


『では、お元気で。最後に、忠告を。生まれるのはサウダージ共和国だけど、貧富の差があって生活が苦しいわ。早めに見切りをつけて、魔法使いが優遇されるエルレーン公国に亡命しなさいね』


「はい……!?」


 亡命って!

 なんか生まれ変わりの人生ハードモードの予感しかしないぞ。


「あ、そうだ。もしかして、俺が殺した、あいつも生まれ変わる?」


『いいえ。何かしらの生き物には転生するでしょうけど。彼はこれまでにも小動物をたくさん殺しているの。世界にとっては、人間も、動物も、同じ生命。大量殺戮者を世界は愛さないわ』


 そのときだけ、女神の表情は厳しく、恐ろしくさえ見えた。


『では、いってらっしゃい。律。世界は、あなたたちを愛しているわ。楽々ではなくても、あなたなら、楽しみを見いだせるはずよ。がんばって。わたしたちに、美しい魂の輝きを見せて』


 でも人生はハードモード。


 嵐山律は、リドラ・フェイとしてサウダージ共和国に生まれ落ち、精神は男でホモなのに身体は女性だという苦労もすることになるのだが。


 膨大な魔力を持って生まれたのに、サウダージ共和国は、表向きは魔法を禁止していた。そこから抜け出すのが、一番苦労したことかもしれない。


 だが、彼には希望があった。


 生き延びてエルレーン公国にたどり着き、公立学院に入れれば。

 彼女に、また会えると、女神に教えてもらったのだから。


 こまかいことは、生まれ落ちたときにずいぶん忘れてしまったけれど、それだけは心から離れなかった。



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