分からないことがあるのです<聖歴2366年>
「僕、分からない事があるのです。」
なにやら難しいお顔をなさって
ウンディ様が私の膝に乗ってこられた。
この頃の私は、殿下達がお可愛らしくてしょうがない
初めて見た小さい子どもという訳でも無いのに
それに、私はほとんど成人したばかりの年で
子どもが居る年でも無いのに
不遜なことだけど殿下達が私の子どものように
思えてならない・・・宰相も・・祖父も
殿下達の母君達をそんな風に見ていたのだろうか?
とてもじゃないが私の日記も客観的に書けてはいないように思う。
「セイ・・・?・・・・尋ねても良いでしゅか?」
膝の上で私を見上げているウンディ様は
本当に本当にお可愛らしいと思う。
「はい?・・・・何ですか?ウンディ様」
笑顔が零れる。
「うう~ん・・・セイ~僕落っこちそうだから
その前に抱っこして欲しいでしゅ」
宝石のような緑の大きな瞳を細めておねだりなさるのに
私は、ギュッと抱っこして差し上げた。
ウンディ様達は抱っこして差し上げると
いつもほのかにお菓子の匂いがする。
「セイ、しんでんに行った時僕達のことをお家(王宮)に居る時と
皆違うお名前で呼ぶのは何故なの?」
「ウンディ様は、ウンディ・リュース=サフラ様と言うお名前ですよね?」
ゆっくりとかんで含めるように言葉を紡ぐ事を心がける
「・・・・うんと・・・そうでしゅ!」
「神殿の時は、リュース様っと呼ばれるのですね?」
「・・・うんん・・・そうでしゅ!
サーちゃんは、カルスで
シーちゃんは、ルミエラで
ノンちゃんはフィルでしゅ!」
「・・・・神殿の人・・・神殿では、下働きと呼ばれる人の他に、
神官、巫子と呼ばれる人が居るのですが、神官、巫子は、それになるまで
違う名前があったのだと言う事は知っていますか?」
神殿の人は、俗世から抜けるときに名前を捨てることを
先に教えた方が良いかも知れないとそちらの説明を始める。
ウンディ様は首を傾げ、眉を寄せ難しそうな顔だ。
「違う名前・・・・あったでしゅか?・・・知らないでしゅ」
「神殿の者になると言う事は、人間から神の使いに生まれ変わると
いうことです・・・・だから人間としての名前を捨てて新しい名前になります。」
「・・・・・・・・?」
「ウンディ様達は、・・・神の子の子孫であるサフラの王族ですから
人間であると同時に、神の子・・・だから、
王族だけは、初めから二つ名前があります」
「・・・・・・・・・僕も?」
「はい、ウンディ・リュース様でしょう?・・・神殿では、
人間としてのウンディ様というより
神の子のリュース様という立場がより重要となるから
リュース様と呼ばれるのですよ」
難しかったかな・・・と少し後悔する。
年齢に珍しく飲み込みの早い頭の良いお子だが
まだ今は、「神殿での約束事なのです」で済ませたらよかったか?
しばらく難しい顔をした後
「難しいから分からないでしゅが、
僕は、ウンディ・リュースだから間違いじゃないのです
お母様が僕をウンディって呼ぶけど
セイが僕のことウンディ様とか、殿下とか王子って言うのと一緒なのかなっと思います?」
確かにお子である立場と
私から見て主である立場で違うと考えたら・・・・
当たらずとも遠からずかも知れない。
「そうしておいてください」
私の言葉で大きく頷いてそれで良しになさったようだ。
「それででしゅね・・・も一つ分からないのでしゅ」
ウンディ様の瞳がキラリと光ったように見えた。
「お口とお口って・・・・・・?」