お母さまとお月さま<聖歴2366年>
「お母さま、お水に入るの?」
内気で心配性のノウムは、
新年の『月招きの儀』に向かう母女王に
そう言った。
女王は、努めてにっこり笑うと
「大丈夫、慣れてきたらそんなにも
感じないのよ」
でも、冷たそう・・・・・・・・。
いつの間にか遊ぶ手を止めて
集まった可愛いわが子達、
ノウムも含め、他に、サラム、シルフ、ウンディの
そう言いたげな瞳に
心から愛しさがこみ上げてくる。
「お月さまの湖の水ね、
最近、本当は、一度温めているの、
そのままの冷たい水ではさすがに冷たすぎるからね」
気にしないように代わる代わるの頭を撫ぜながら
女王は、そう言う。
実際の所は、温めているけれど、
儀式の最後のいざと言う時には大抵
冷めて生ぬるくなっているけれど・・。
「そうなの・・・?」
4つ子のうち3人までが、
ホッと安心したように納得しかけるが、
そこは、気付かなくても良い所を気付いてしまう
ある意味、賢い、そして、
別の意味では、(まだ幼いのに)苦労性のウンディが、
「でも、おゆって冷めるのでしゅよね?
直前にでも沸かさないと直ぐに冷めるでしゅ」
それに、締め切ったお風呂とか・・・・
げんせん かけながし の ゆ?
とかでないと・・・お月さまの湖の水に入る時は、
広い所の石畳に流すんでしゅよね?
とか、言っている。
何故、その年で「源泉掛け流し」とか、
『月招きの儀』の儀式を詳しく知っているのか
我が子ながらびっくりしつつも
どうして、この子は気付かなくても良い所をこうも
気付いてしまうのかとつくづく不憫になってしまう。
「でもね、本当に、気にしなくても良いの・・
本当にね、お母さまは、
サラムと、シルフと、ウンディとノウムのことを
考えてたら、
神殿でお祈りしている時も、
水に入っている時も何だかポカポカするのよ、
魔力の要らない不思議な魔法で
全然、寒くも、お腹空いたりもしないの・・。」
4人をギュッと抱きしめて、
母、女王は、儀式へと向かった。
子供達は、そんな女王の言葉と抱きしめてくれた
腕の温かさに、
冬だというのに、何だかポカポカした。