お母様、お父様の月招きの儀(秘話)<聖歴2363年>
「今年で成人になるね・・・」
耳元で私の紅の守護者が囁いた。
サフラ巫子王国の王子ウンディは、嬉しそうに微笑んだ。
「僕達のお誕生日が秋で、えっと・・・
半年くらいしたら、
春の、お母様のお誕生日が来て、
一番目の王様、巫子王様のお誕生祭が、夏で、
ご先祖様のカルフォス様のお誕生祭が冬
でしゅから、
春も夏も、秋も、冬も誕生祭でしゅね」
何の拍子か、ウンディがそう言ったのに、
母女王、ルナは、苦い微笑を零した。
無邪気に何も変に思わずに今は
そう言っているが、賢いウンディの事、
まもなく、母親が16歳の成人の年を迎えてから
半年足らずで。自分達が生まれてきたのはおかしいと
気付いてしまうだろうと、ルナは、思った。
しかも、ウンディ達を産んだ、16歳の成人の年まではもちろん、
ルナは、これまで一度として婚姻の儀を挙げたことは無い。
もちろん生まれた子ども達は物凄く愛しているが、
自分や、子ども達の誕生日が来る度に、
国中の人達から、16の成人の前に
婚姻もしていないのに子を宿したふしだらな女と
見られているような気がして、物凄く恥ずかしかった。
返す返すも思うのは、
あの時は、女王として行っていた、
『月招きの儀』の潔斎で、お腹が空き過ぎて
薄着で寒くて、意識が朦朧としていた所を、
『今年でもう、成人』
『僕は、ずっと一途に愛してきたよ』
『ずっと、何千、何億の年月、僕は待って居たのに
君は、僕に答えてくれないの?』
とか、耳元でピーチクパーチクと
やられたのが不味かった。
更に、身体に栄養が行き渡らなくて
寒さを感じながら、神殿の禊の泉に漬かっている時に
温かい身体で後ろから抱きしめられたのも
随分不味かった。
その後、女神と交わすはずだった酒が未成年用の
葡萄ジュースでは無くて、本物の葡萄のワインで
ルナが酔っぱらってしまったのが、
駄目押しで・・・
儀式の最後の、冷たい石畳を踏みしめていた素足に
女神の湖の水が流れていく冷たい感覚で、
正気に返り、やってしまったことに気付いた。
私、何したの!?
ルナは、ある意味、神<紅の守護者>と、
大接近してしまった。