2話「無駄すぎる」
私は、昔の自分を思い出していた。どこか小生意気で、自分が建てた計画通りに物事が進まないと不機嫌になる自分を。無駄が嫌いだったあの頃を。嫌いだった。あの頃を。
「無駄すぎる」
これは私が若かったころの口癖だった。何事も計画通りに進めて自分の思い通りにいかないと、ひたすらその事を気にして前に進めなかった。その性格は今でも変わることなく、今の自分にとって一番無駄な一面である。無駄なことだと私自身思っていても、上司はそれを受け入れてくれない。このループによって発生するストレスが僕の心を埋めてゆく。ストレスを持たない人などどこにもいない。ただ、私自身がそれを感じすぎてしまうだけなのだ。
「無駄すぎる」
私は小声でそう言い、今回の堀越さんの計画への不満をこぼし、溜まったストレスをスプーン一杯ほど発散した。
「ねえ君。紺能君?」
私の隣に座っていた女性が突然に話しかけてきた。そして私は彼女のことを覚えていない。そこで私は彼女のことをまるで覚えているかのように振る舞おうとした。
「ああ、君か。久しぶりですね、君と会うのは。」
「ええ、貴方は変わらないわね。その赤い眼鏡。」
彼女は昔から私のことをよく知っているらしい。
私はふいに耳を触り、そこに大量の汗をかいていることに気付く。私は昔から嘘をつくと耳に汗がたまる体質なのだ。
「ええ、この赤い眼鏡は僕の宝物ですから、、、。ええ、、。」
と言ってみるものの、この場をどう処理するか、と考えてみたものの答えは一向に出てこない。私はそっと口を閉じ少しの間の沈黙の中に浸ろうとした。と、そこに彼女の声が僕の計画をまた狂わせる。
「堀越さんが発表した計画。どう思う?」
言葉にはやわらかい言葉や鋭い言葉などが存在するが、彼女の今の言葉は私の心を完全に通って行くように響いた。普通の言葉なのに、どこか私を動かしたような気がする。
「無駄すぎる」
「犯罪者をとっ捕まえるだけならば、警察の特別班を指揮していけばいいだけなのに、なぜわざわざ一度捕まって心が折れた人間を使う必要がある。非効率な上に、非計画的だ。」
私は一度思ったことは口に出さないと気がすまない。そう、まるで言ってはいけないことと言っていい事を判断するフィルターがないかのように。
「私もそう思う。私も堀越さんの計画にはあまり賛同できない。」
珍しい。あまり彼女のことは覚えていないが、少し彼女の性格が見えてきた。
冷たい。
そんなことを考えているところで堀越さんがマイクにそっと口を近づけ、こう言い放った。
「これより、厳しい選考を潜り抜け、選ばれた君たちに育ててもらう者たちを発表する。それぞれにメンバーが書かれた紙を配布する。どうか君らに与えられた者たちを清く正しく教育させることを約束してほしい。」
私には教員に携わったこともなければ、教えることができる知識量が少ない。たとえそんな状況だとしても、私はこのプロジェクトに手を貸さなければいけない。
「仕方ない。」と小声で愚痴をこぼしながら今日も私は罪に錠をかける。
堀越さんの発表により明らかとなったメンバーを僕はそっと確認し、自身の机にもどりそのメンバーの詳細を探った。そして気付いた。自分のメンバーのほとんどに共通の病をもっていることにー