転生ヒロインになれたのに設定が違います。
皆さんは乙女ゲーム転生と言うのを知っていますか?
なんと、この度、何の因果があってかわかりませんが、見事、生前に大好きだった乙女ゲームのヒロインに転生する事ができました。
ま、待ってください。ひかないでください。
正直な話、自分でも頭が大丈夫か? と心配になっているんですから。
こう言うのって、良くある話だと死ぬ前の行いとかが関係するのに私は普通の女子高生で目に見えた善行なんてしていなかったんですから。
……まあ、信じて貰えるかはわかりませんが、私はゲームの舞台になった高校に転校する事ができました。
だけど、転校してきて1週間……なぜか、目的の攻略キャラが見つけられません。
クールなドS系、生徒会副会長様が……言っておきます。別に私はドМだから、彼の事が好きなわけではありません。
大切な事なのでもう1度、言います。私はドМではありません。
ここだけはわかってください。お願いします。
正直、舞台に上がる前にこの世界で生きてきて、うすうす気が付いていたんですけど……私が知っている乙女ゲームの設定と違うところがあります。
何より、ヒロインと浮かれていたら……お腹周りとか乙女の秘密とか成績とか設定通りに行かない事があったから。
本当に勉強だって昔習ったからと甘えていたら、数学とか本当について行けないと思いましたとも、舞台だって進学校、編入試験、落ちなくて本当に良かった。
後、設定に誤差が出ると気が付いてから、気を引き締めたせいか、設定より、2.2cmほど設定に勝利する事ができました。
生前は友達から残念な胸と言われていたため、当然、歓喜しましたよ。
……話がそれましたね。
転校してから、起きる強制イベントで好感度など上げる事なく、最愛の男性を探しましたよ。
強制イベントで出会う他の攻略キャラは人気がある生徒達なためか、多くの女子生徒に睨まれながら……でも、でもね。
私はやっぱり、あの人に会いたいのです。
性格はドSじゃなくても、あの『顔』と『声』に再会したいんです。
……ひかないでください。仕方ないじゃないですか。
そのために頑張ってきたんですから、他のキャラやお友達に話を聞きながら、クラスを確認したりするとどうやら、彼は本来、ゲームでヒロインが解決する攻略ルートを自分でこなしてしまい。
性格がドSになる事無く、平穏無事に暮らしているようです。
そのせいか、男女ともに友人も多いのですが、特定の彼女は今はいないとの事、ただし、狙っている娘達は多いとの事。
居てくれて本当に良かった。
彼の存在を確認してからも、いきなり、会いに行くのは恥ずかしいため、ストーカー……もとい、設定との誤差を確認する。
3週間ほどストーカー……もとい、彼の観察を開始してしばらくしてわかった事は声と顔は設定通りドストライクです。
それになんと言っても性格が……噂通りドSではない。
言っておきますよ。
残念になんて、思っていませんからね。
ここは重要ですよ。
私は何度も言いますけど、ドノーマルです。
ののしられても喜びません。絶対です。
……こう言っていると私、ドМみたいだから、この話はここで止めましょう。
そして、お近づきになろうと決意し、いざ、彼の前に立とうとした時、私は気づいてしまったのです。
……『問題解決しているよ』と。
ど、どうするんですか。せっかく、見つける事ができたのに攻略キャラに攻略ルートが無いんですよ。
自慢じゃありませんけど、生前は彼氏なんかできた事もなかったですし……
告白ってどうするの?
流行りのライン? メール?
……無理だ。まだ、そこまでお近づきになれていない。
ゆっくりと機会を探って、見る? いや、声をかける勇気が出ない……
どうする? 考えろ。告白ってどうするんだろう?
マンガやゲームではどうやっていたっけ?
時間は朝? 昼休み? 休日? ……放課後かな?
場所は放課後なら帰宅途中? いや、これはストーカーっぽい。そうなると……体育館裏ね。
どうやって、呼び出そうか? ラインとメールは無理だし、声をかけるのは恥ずかしい……そうなるとラブレター?
ラ、ラブレターで呼び出しだと?
ちょっと、ヒロインっぽくないですか?
それなら、ラブレターの内容は……
それが昨日の夜ですよ。
ラブレターなど書いた事がなかった私は勝手がわからずに彼への想いを文面一杯に詰め込みましたよ。いつから、好きだったとか、ずっと、見ていたとか、私の熱い想いを可愛い便箋に34枚ほど。
冷静になってから、考えるとこんな女の子、怖いよね?
私がラブレターを受け取った側なら、怖すぎて絶対にこの場に来ないだろう。
だけど、彼は私の呼び出しに来てくれたのである。
もう運命だよね。
「あの、急に呼び出してしまって、ごめんなさい。あの、ラブレターにも書いてあったと思うけど、ずっと前から好きでした……私と付き合ってくれないかな?」
ラブレターを読んでくれた上で来てくれた事もあり、勇気を持って告白をする。
当然、私の心臓は張り裂けそうな勢いでなっている。
しかし、返事はなかなかない。
「あのさ。どうして、俺なんだい? 正直、君が転校してきて、俺は君と特に何か話した記憶もないし、噂を聞いた限りだと昔から俺が好きって言っていたらしいけど、俺は君と会った事はないと思うけど」
「それはあなたが私がずっと大好きだった。乙女ゲームの攻略キャラだから」
不安げに彼の顔を見上げると彼は転校生である私から告白される理由がわからないためか、確認するように聞いてくる。
……鼻血がでそうです。
大好きだった彼の声に思わず、体中の穴と言う穴からいろいろな物が噴き出そうになってしまい、何とか我慢するが本心ははみ出してしまった。
……不味い。彼の顔が完全に引きつった。
「ご、ごめんなさい」
「ど、どうして!? 私、せっかく、このゲームのヒロインに転生したんだよ。好きな攻略キャラとハッピーエンドを迎えるために必死に探したんだよ。設定と少し違うから、見つけるのも苦労したのに」
彼は頭を下げると後ろを振り返り、私から全力で逃げ出そうとする。
その姿を見て、私は慌てて彼の腕をつかんだ。
ど、どうしよう? 私、本心が漏れすぎた。
このままだと、振られるだけじゃなく、キチガイだと思われてしまう。
「……仮に君の言う通り、この世界がその乙女ゲームの世界に似た世界だとしよう。君も言ったけど、俺は君の知っているゲームの攻略キャラと違うんだよね。それなら、君の想い人は俺じゃないよ」
「そんな事はない。絶対に私の運命の人はあなたなの!!」
「……一応、聞いて良い。運命とかは置いておいて。俺のどこが良いの? さっきも言った通り、初対面だよね?」
「顔と声!! って、どこに行くの? 待ってよ。一緒に帰ろうよ」
しかし、なんと、彼は私の言っている事を理解してくれようとしてくれているのだ。
これはもう運命としか言えない……そう思った瞬間、私の口からはまたも本心が漏れ出てしまう。
それも気合が入りすぎたようで拳を握り締めてである。
手を放してしまうと同時にまたも彼は全力で逃げ出してしまう。
私は自分の失敗に気が付き、慌てて彼の後を追いかける。
「悪いけど、絶対に無理。俺はこの世界がゲームとは思えないし、会ったばかりの君に!?」
「それなら、お試しで1週間でも、ヒロインに転生しているから、顔、スタイル、頭、性格と私は何でもそろっているから、18禁ゲームじゃなかったし、私、未経験で死んじゃったから、あっちの方向はわからないけど、好きになって貰えるように頑張るから」
「な、何を言っているんだよ!?」
前を進む彼が上げる声に私の想いは膨れ上がって行き……私、Sの部分もあるのか?
いや、そんな事はない。
私はどちらかと言えばエ……ノーマル、ノーマルに決まっている。
頭をよぎったおかしな事を振り払うように全力で走ると足がもつれてしまった。
バランスを崩してしまったのだが、そのせいでなんと彼の背中に抱き付いてしまう。
さすが、乙女ゲームの世界。
ヒロインの都合の良いようにラブイベントが起きるんだけど……やってしまった。
私、今、もの凄く恥ずかしい事を暴露してしまった。
顔が真っ赤になるのがわかる……このドキドキはМだからではない。
だ、断じて違う。
「あ、あの。ちょっと、お互いに落ち着こうか?」
「う、うん」
彼が私の様子に気が付いてくれたようで落ち着こうと気を使ってくれる。
その提案に私は小さく返事をすると彼と一定の距離を開けるが失言のせいで彼の顔を見る事ができない。
「……あのね。さっきのは失言だったけど」
「と、とりあえず、時間をください。仮に君の言葉を信じたとしても、俺は君の事を知らないわけだし」
「う、うん。それじゃあ、改めて、よろしくお願いします」
「そ、それじゃあ」
このままでは変な女の子だと思われて進展などあり得ないと思う。
どうにか状況を好転させようと失言に付いて謝ろうとすると彼は困ったように笑いながら、友達から始めようと言ってくれた。
その表情と声に私はゲームとは違ったドキドキを感じました。
そして、彼が私の知っている攻略キャラとは違うと自覚しました。
……今、思えば、乙女ゲームの世界に転生したとしても、彼には失礼な事をしたと思っています。
だからこそ、彼の事をもっと知りたいと思えました。何より、血の通っていなかった攻略キャラの彼より、今の彼の事がもっともっと好きになりました。
そして、その日から5年目の日の明日、結婚します。
だけどね。結婚ではまだエンディングは迎えません。
だって、私はこれからもずっと彼の側に居て、今より、もっともっと、彼の事を好きになるんですから。
……後、すいません。否定していたけど、私、М気質だったみたいです。