Re.スタート
物語は主人公が死んだ後から始まる。
「――――――――――――っ!」
目を開けた先には、見慣れない風景が広がっていた。
まるで「地獄」を絵に描いたような景色。
黒い岩で固められれた壁。
天井も同じような構造で、洞窟というのに相応しいものだった。
前に見えるのは一本の道だけ。
その道の奥からは灯りというには頼りない程度の光が覗いていた。
きっとこの先には何かがあるのだろう。
なくては困る。
念のため後ろを振り返って他に道は無いか確認してみるが、同じような壁が立ち塞がっているだけだった。
つまり、今の俺には2つの選択肢がある。
1つは、このまま動かずに何かが起きるのを待つ。
もう1つは、この道に沿って先に進んでみる。
もしかしたら、まだ選択肢はあったかもしれない。
だが、きっと今の俺にはその選択肢を見つける程の余裕は無かった。
冷静でいられる筈が無かったのだ。
――――――だって俺は、ついさっき殺されたのだから
手が大量の汗で濡れていた。
体も歯もガタガタ震えている。
頭の中は真っ白で、ただ残っているのは体に残る電流が流れた感触。
電流の正体はスタンガンから流れた電流。
そして、それを持って俺の首もとに押し当てたやつが――――――
―――誰だっけ
おかしい。
俺はそいつの事を知っている。
だが思い出せない。
そいつがどんな性格だったか、俺とどんな関係だったのか。
肩まで伸びた黒い髪の毛に、狂気に満ちた黒い瞳、男だけど中性的な顔立ち。
俺はこいつと一体――――――――
俺は、俺は―――――俺...?
誰だ俺は。
名前は?
顔は?
声は?
...何一つ思い出せない。
「―――――うぁあああああああああああああっ」
暗い洞窟の中で、自分自身すらも分からず、ただ残る死の感触。
それが体の中を蹂躙して、思わず叫ばずにはいられかった。
ここは何処だ
俺は誰だ
何で死んだ
どうして俺はあの時―――――――――――
何かが頭の中でフィードバックした。
何か思い出しそうだった。
思い出してはいけない気がした。
だが、知らない自分を知ろうと必死に、掴みかけた記憶を引き抜こうとした。
でも、「それは」あまりにも大きくて俺の力だけじゃ引き出せなかった。
一瞬の間に起きた事に頭がついていけず、再び辺りを見回した。
黒いゴツゴツした黒い岩で形成された壁に、一本の道。
この先には一体何があるのだろうか。
立ち上がった俺は、俺を知るために、たった一つの道を歩き出した。