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プロローグⅡ ~接触~


 強い風が吹いたと思ったら、遠くでドカンという音が微かに聴こえた。


 海岸沿いをずうっと北へ進んだところに位置する小高い山から聴こえたように思えた。


 よく見るとその山の中腹付近が、ぼやりと赤く光っている。


 「なんだろう」と凝視する間もなくその赤い光はすぐに消えてしまった。


 輪鯉は今起こったことを確認するべく、階段下で海を見ながらタバコを吸っている竹市に話しかけた。



「竹市さん、いま、ドカンというような音が聴こえませんでしたか」



 竹市は一瞬顔をこちらに向けたのだが、すぐに海の方へ視線を戻した。


 彼の携帯電話の着信音が鳴る。


 彼はポケットから携帯を取り出し、画面を見た後、なにもせずにそれを横に置いた。


 竹市は時々、平気で人を無視(しかと)する時がある。


 ボーっとして聞いていない、などではなく、意図的に人を無視するときがあるのだ。


 タバコを吸いながら、食事をしながら、または会話の途中に突然それは行われる。


 竹市は相手と目が合いながらでも、たとえ相手が社長であったとしても、無視する時は平然と無視をするのだ。


 社長ですら、竹市の無視が発動すると溜息をつき、怒ることすらせずに席を外すし


 その逆で、社長が話している途中に竹市が突然何も告げずに出て行っても、社長は溜息をつくだけで怒らない。


 「竹市の身なりや言動には怒るのになぜ?」 と事務員の新田にったさんに聞いたことがあった。


 新田さんは、顔を引きつらせ、怪談話でもするかのような口調で話した。



 「まずは四年前、無視する度に殴り続けた社長の拳が先に根を上げたのです。

 そして三年前、メリケンサックを装着した社長の拳は再び(イカ)れてしまいました。

 二年前、金属バットが、くの字に曲がったのを最後に社長は

 竹市の無視だけは、怒るのを諦めたのですねぇ」



 とのことだった。


 新田さんは竹市のそれを“無視の境地~まだまだだね~”または、“ゾーン”と呼ぶ。


 それを発動した竹市を止められる、というか、反応させるには

 

 特定の条件を満たさなければならないのだが、輪鯉はその条件を満たすに恵まれた人間ではなかった。

 

 竹市に話しかけた自分が悪いと思い、周囲に別のスタッフがいないか見渡してみたが


 大きな声を出す必要のある所にしか皆はいない。

 

 それにどうやら竹市もスタッフも、先程鳴った音に気付いていないようだった。


 この後のスケジュールは民宿に戻って昼ごはん休憩の後、民宿内にて撮影、という流れだった。


 昼ごはんは抜いてダイエットかな、と自分に言い聞かせ

 

 仕事用に支給された携帯のGPS機能をONにし


 バッテリーの残量がまだ80パーセント以上もあるのを確認したあと

 

 輪鯉は海岸沿いの道を、北にある山の方へ向かって歩き始めた。




 30分ほど歩くと山の麓へ着いた。

 

 右手には雑草とヤシの木が生い茂り、その先に砂浜が見える。


 海岸沿いからまっすぐ続いた道はここで左へと曲がっていた。


 どうやら山を旋回するように斜めに登っていかなければならないようだ。


 この道を行かないと山へは登る事ができないと思えるほど


 目の前は木々と雑草が壁をつくるように立ちはだかっていた。


 輪鯉は竹市に山を探検してくること、昼食はいらないこと、次の撮影までには帰れることをメールしておいた。


 携帯の電波は画面のアンテナが一本しかたっていなかった。


 その道を歩いていく途中、わざわざ旋回する必要がなさそうな、ここから山の中腹、先程の赤い光を見た地点まで、真っ直ぐと


 一気に登れそうな細い道を発見できた。



 その道は急斜面だったが、ヤシの木が生い茂り、ヤシの葉が、道にアーチを作っているように見えた。


 歓迎されているような気がして、調子よく山を登ってゆくと、急斜面もしだいに緩やかになってきた。


 木々の間隔も広くなり、視界は広くなっていった。


 登り始めて20分を過ぎたくらいだった。


 何かにぶつかったように折れたヤシの木々たちが見えた。


 折れた木々を辿ってゆくと、大きな物体を引きずった後のように、土がえぐれており、その先を見ていくと


 黒く丸い形をした物体が姿を現した。


 その黒い球体は直径3メートル程の大きさもあり、異様な雰囲気を醸し出していた。



 「なにかしら。赤い光を放っていたのは、これ……?」



 輪鯉は近くに折れた枝を見つけ、その球体に向かって投げつけてみた。


 枝は球体に当たるとカコンと音をたてて落ちただけで、何の反応もない。


 輪鯉はその球体との距離を少し縮めた。


 すると球体の中心から下の部分まで長方形の白い線が次々と浮かび上がった。



 ガシュンガシュンガシュンガシュンガシュンガシュン。


 

 白い煙がたち、音を放ちながら球体から長方形の突起物が次々と飛び出し


 階段が造られてゆく。


 階段の先はこの物体の搭乗口なのだろうが、煙がモクモクと吹き出し、内部が見えない。

 


 パラララ~ラ~ラ~パッパラ~!



 この場に相応しくない明るい音が辺りに響いた。


 次は、機械音声が流れてきた。

 


 『オタカラハッケンオメデトウゴザイマス。オメデトウゴザイマス。

 アナタハエラバレタノデス。エラバレタノデス。サァコノヒコウキニノッテ、ワレワレノモトヘオイデクダサイ。

 オイデクダサイ。アナタハジンルイガツギノステップヘトススムタメノカギヘトナッテモライマス。

 ナッテモライマス。ノッテノッテサァノッテ。』


 

 輪鯉の体に戦慄が走った。



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