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プロローグ ~四季富士輪鯉~

初の投稿です。

改稿が何度かあるかもしれません。

よろしくです。

 昭和20年8月15日。

 

 東アジアに属する小さな島国「日本」は第二次世界大戦と呼ばれる戦争に敗北を喫したが、戦後、「奇跡の復興」と、後世に語り継がれるほどの驚異的な経済発展を遂げ、世界有数の経済大国となった。


 しかし、そんな激動の時代「昭和」が過ぎ去れば、順調にみえた日本の好景気は、


 「男前(イケメン)なんて興味ないんだ。アタシは内面重視なの。」

 とか言っていたのにイケメンと仲良くなれた途端

 「なんか冷めた。」

 などとよくわからない事を言い始め、話し合いの要求も拒否して一方的に別れた数日後、そのイケメンの腕を胸の間にはさみ込み、さも処女のような(つら)をして歩く女のように、気持ちを弄ぶだけもてあそび、日本のもとを「好景気」は去って行った。


 

 そして「平成」という時代に改元され、LINEのトークにおいてメッセージが既読なのに返信がなかったからといって、

 

 「無視しないで」と泣きながら寝てる最中に電話かけてきては

 「本当にアタシのこと好きなの?好きって言って!でないと死んじゃうよ?」とか言ってくる女


 もしくは「だって女の子だもん」が口癖の女、「だって女の子だもん」という言葉を使う自分自身が好きな女、つまりは「不景気」が日本に訪れた。


 不景気が訪れてからの20年以上の期間を、人は「失われた20年」と称し、現在でもなお、失い続けていた。

 


 失い始めてから20年目の平成23年3月11日。


 日本周辺における観測史上最大の地震、東北地方太平洋沖地震が日本を襲う。巨大地震によって太平洋沿岸は大規模な津波に襲われることになるが、人々を襲ったのは地震と津波による「自然災害」だけではなかった。

 地震により、東京電力福島第一原子力発電所(通称・原発)が、全電源を喪失。

 原子炉は冷却不可能となり、1、2、3号機でメルトダウンが発生。

 水素爆発により原子炉建屋を失った原発は、大量の放射性物質が漏洩、66年ぶりに日本を「核」が襲った。


 東北地方太平洋沖地震による東日本大震災と福島第一原子力発電所事故

 

 対極にある自然と科学のダブルパンチをくらい、ダウンした時の日本を、政府は“戦後最大の国難”と称した。



 大雑把な日本の歴史と余計な情報はもうどうでもよい。


 とりあえず時は平成26年、東北地方太平洋沖地震から三年、戦後から70年の節目を来年に迎えるこの小さな島国は、「アイドル戦国時代」と称される内乱が、収束に向かっていく最中にあった。



 

 日本、沖縄県某島、某海岸。

 

 太陽は雲に隠れ、毎日休むことなく空が雨を流している東京とは別世界のように、もしかしたらこの日本に太陽は一つではないのかもしれない、そう思わせるほどの陽光が海岸を煌めかせていた。

 地球が気持ちよく寝息をたてているかのように優しく、一定のリズムで波が近寄って来ては、遠くに去っていく。

 

 四季富士輪鯉しきふじりんりは、よせてはかえす波に膝まで漬かり、目を閉じ耳を澄ませ、自然にとけ込むように、地球の呼吸に意識を集中させていた。

 いつもなら海を見ただけで気分が悪くなるのだが、この青い空、柔らかそうな雲、元気よく叫んでいるような太陽、その太陽に返事を返すかのようにキラキラと輝く透き通った海、優しく自分を受け止めてくれる砂浜が、自分の存在すら忘れさせてくれた。

 

 

 パシャリ、という音が聴こえると、輪鯉は自分がグラビアの撮影でこの場所に来た事を思い出した。



 「きれいらねぇ。りんしゃんの美しさは、自然のなかれこそ際立ちゅよれぇ。アーモンドみらいな形で綺麗な二重のお目めしゃんに、滑り台の様に滑らかれいて謙虚な小鼻しゃん。ピンク色の小さらお口。顔も小しゃいらぁ。細見で美乳に張りのある可愛いお尻しゃん。おいさん今年で65歳になるけろさぁ、オスになっちゃうぅふふふふふふふふ」



 カメラマンの下柳の滑舌の悪さと、汚い声と言葉は、撮影中ですら不快でしかないのに、気を抜いている休憩中に聴くと吐き気がしてくる事に気付かされた。

 


 「下柳しもやなぎさん、今は休憩中ですよねウェ。勝手に撮らないで下さいよ……ウォェ」

 

 「いや確かり休憩中ちゅうちぇいちゅうらけろもぉ、今のりんしゃん、普段見せれくれない顔してたかりゃ、ちゅいねぇ、カメラランのしゃが……だよれぇ」

 

 

 自分の職業名すらまともに言えない下柳が、ザバザバと音を立てて波の中に入ってくる。自然になかでこそ際立つその汚らしい姿は、輪鯉の嫌悪感と吐き気に拍車をかけた。



 「私はアイドルなんですよ。美しく撮るよりも、可愛く撮ってくださいよ……ウップ」

 

 

 輪鯉は口元を手で隠しながら、入れ替わるように波から砂浜へと歩みはじめた。

 

 

 「まぁそれはわかっているんらけろさぁ。

 りんしゃんの……笑っている時の顔、はっきり言って苦笑いにすぃかみえないすぃ、無理しれつるった笑顔よりも、時折ちょきおり遠くを見ている暗い表情ちょうちょおのほぉがなんか、こう、しゃまになっているというか、美しく思えるんらよれぇ。

 りんしゃんだって、明るい性格しぇいかくじゃらいれしょ?冷たくはないけろ、クーリュな女の子じゃらい。

 ありろ~ままろ~すがらみせ~てぇよ~それを~僕は~撮りたぁいらぁ~。」



 背中越しに言われた言葉に、頭を優しく小突かれたような気がした。何か言葉を返そうと少し振り向いたところを―パシャリ



 「えへへぇ。まらいいの撮れちゃっらぁ。そうゆう顔、ちょっと影のありゅ顔が、りんちゃんらすぃなぁ。あはは」



 青空と太陽を味方に付けたような下柳の満面の笑顔を見て「……はぁ」と溜息をつくと、言い返そうと思った言葉も一緒に吐き出してしまったのか、忘れてしまった。


 輪鯉は休憩所として用意されたパラソルの下へ行き、下柳のせいで、酸っぱくなった口の中を洗い流すように水を飲んだ。

 次の撮影は海岸から上がってすぐの民宿で行われるため、数人の撮影スタッフは次の現場へと移動の準備を進めている。

 先に民宿へ行ってようと、輪鯉は水着の上に短パンと半袖のジップフードを着て、砂浜からあがる階段を登り始めると、マネージャーの竹市が大声を上げた。


 

 「ちゃーんりー! ターンポーン! セーリなんでしょー!?」

 

 「……は?」


 

 汚らしく日焼けした細い体でクネクネと走りながら、左手に煙草を持ち、右手で目にかかるまたもや汚らしい茶色の髪の毛を、腕を振りあげると同時にかきあげながら向かってくる。

 彼の姿は何時見てもゴキブリを連想させる。左手の煙草を走りながら吸うと、咳き込み始めた。

 砂浜を走っていたことで、咳き込んだ拍子にバランスを崩して転ぶ。

 マネージャーの竹市たけいち

 「にせホストかぶれもどきだまし」というあだ名を事務所の社長から貰っている。

 そのあだ名の通り、彼の言動は、人に何も期待をさせない。

 金色の高価なネックレスにピアス、腕時計を着用しているのだが、竹市が身に付けると犬の糞、それ以下の価値にしか思えてならない。事務所の社長と同じブランドの腕時計を竹市が買ってきたことで、それを知った社長が無言で竹市を殴った現場を思い出した。

 咳き込み、涎を垂らしながら輪鯉の許へ到着すると、息を切らしながら



 「ひぇあ、ひぇあ、ひゃあ。……ヤギシモっち(下柳)がさぁ……ちゃんりー(輪鯉)が口元抑えて気分悪そうだからたぶん生理だろうってぇ、だからメイクさんにタンポン貰ってきたのよぉ。んあぁ~マァジだりぃ。」



 気付けば周りのスタッフが気遣うような目を向けている。下柳と目が合うと、娘を見るような目をしながら、親指をこちらに向けて立てた。


 血が沸騰し、腸が煮え、頭から血が噴き出るのではないだろうかという感覚を久しぶりに味わった輪鯉だが人に対して怒るという事が苦手であり、不快感を示すしかなかった。


 

 「生理じゃありませんから」


 

 竹市からタンポンを奪い取ると、メイクの川田の許へ行き



 「既にご察しだと思いますが、マネージャー竹市さんの頭の中は脳みそではなくゴミが詰まっております。おそらく下柳さんもだと思います。ご迷惑、共にご心配をおかけして申し訳ございません。これはお返しします。」



 頭を下げてタンポンを差し出す。誠心誠意、謝罪することも久しぶりだった。



 「……あはは。やっぱり生理じゃなかったんだね。そう思ったんだけどもしもの事もあるから渡したの。下柳さん女性の顔色が悪いとすぐに生理?って思うらしいのよ。」



 川田は苦笑いをしながらタンポンをカバンに締まった。



 「自分がどれだけ人に不快感を与えているのか、自覚がない人って本当に迷惑ですよね。」



 川田は二度しっかりと頷いた後、



 「今日は糞ゴキブリホストだましもどきのマネージャーに糞変態爺しもやぎに、女性にとっては難儀ふぁっくな仕事よねぇ」


 「そうですね。あ、ちなみに正式名称は、にせホストかぶれもどきだまし、です。でも、ゴキブリをあたまに付けるのもありですね」


 「髪がゴキブリみたいな色だったから」


 「それ、私も思っていました。」


 

 ふふふ、と川田と笑い合った事で不快感も落ち着いた。

 


 「次の現場へ先に行ってます」と一時の別れを告げ、輪鯉は民宿へ向かった。再び砂浜を歩いて、階段をあがり始めると



 「ヤギシモっちにもメーワクかけてサーセンって言っといたほーがいんじゃねぇ?」



 ゴキブリにせホストかぶれもどきだましが声をかけてきた。



 「あれは新手のセクハラなんですよ」


 「あぁあ~そうなんだぁ~。っへぇ~。」

 


 この生物に何も期待してはいけないと社長からも言われたことが思い出される。階段を登りきり、民宿が見えた時だった。


 強い風が吹いたと思ったら、遠くでドカン、という音が微かに聴こえた。音のした方は、海岸沿いをずうっと北へ進んだところに位置する小高い山があった。よく見るとその山の中腹付近が、ぼやりと赤く光っている。なんだろう、とそれを凝視する間もなく、赤い光はすぐに消えてしまった。




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