出会い、そして決別
(あぁ~~…なんで来ちゃったかなぁ…)
追いかけ始めて五分しか経ってないのに、早くも後悔していた。というのも見なければ良かったという思いでいっぱいになっていたからだ。
歩いているだけで手を繋ぎ、よくそんなくっついて歩けるな…と感嘆するぐらいの密着度、人が少なくなれば街影でキス…と僅か五分なのに、挙げればキリがないほどのバカップルだったからだ。
「帰ろ…」
あの顔を見れば分かった。もう自分の戻る場所は無いことが。もうアイツの心が私にはなんの未練も無いことが。これ以上見ていても、自分を傷付けるだけだ。
来てしまったことに後悔しながら、帰路につこうとしたとき――
「あれ?久しぶりじゃん!元気ー?」
アイツの声が聞こえてきた。聞くだけで幸せになれる、ホッとできる声。今まで寂しくなった時には何回も慰めてもらった声。
だったはずなのに、今は心が痛む。新しい恋人といるところを見てしまったから?それとも、自分以外の異性といるのを見たからなのか。
「う、うん。元気元気!そっちも元気そうじゃん」
話ながら今更ながら身だしなみを整えている自分に嫌気がさす。これではなんだかアピールしているみたいではないか。
「ふーん…なんだかやつれてるみたいだけど、無理しないようにね。体壊さないようにしなきゃダメだよ」
そういう優しさが心に刺さる。ひょっとしたら…という期待が心を過る。
でも、違うことには気づいている。アイツはこういう奴なんだ。誰にでも優しく接してくれる。けどそれが時に刃に変わることはアイツは知らない。
「う、うん!ありがとね。そっちも新しい恋人が出来たからって連れ回して熱中症とかにならないようにね?」
あははは…と笑い話にできた。傷付いたことはバレてないだろうか、上手く誤魔化せただろうか。出来ればこのまま帰りたい、話を打ち切らねば…
「じゃあ、お二人の邪魔になってもいけないからそろそろ――」
「ねぇ、コイツ…誰?」
徐に、口を出してきたのは新しい恋人さんだった…
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なんというタイミングの悪さか、帰ろうとしていたこのタイミングに聞くことではないだろうに…
「あぁ、ゴメンゴメン。こっちは前の恋人で…こないだ話したじゃん?」
思わず気になってしまった。今の人に対して自分はなんと伝えられているのか、アイツはなんと自分の事を思っていたのか?
「あぁ…あの…」
だが、それも目を見て分かってしまった。同性だからかもしれない、少し前まで同じ立ち位置に居たからかもしれない。
もの凄い敵意、嫌悪感、「お前はここにいるべきじゃない」という威圧が自分だけに向けられていた。
だが、圧されてはいられない。何故なら圧しきられてしまったらアイツを奪われた上に人としても負けてしまう気がしたからだ。
「どーも。元恋人です、こうしてお会いするのは初めてですね…?」
「どーもー。今の恋人ですー。以前はコイツがお世話になったみたいでー」
お互いが笑顔なのに、周りの空気が悲鳴をあげている感じ、ゴゴゴゴゴ…と擬音が聞こえてきそうな状況にただ一人空気の読めていない馬鹿が
「ねーねー、この後皆でお茶でも――」
「「はぁ?ありえないし」」
馬鹿だな、ホントに。別れたばかり恋人同士を同席したお茶会がどれだけ場の悪いことか分かってないのか…
二人の威圧感に臆したのかそれ以上は口出しをしようとせず、只々お互いに目で訴えあう陰鬱な時間が過ぎ…
「はぁ…いーやもう。帰ろ?暑いし疲れたし。」
まさかの喧嘩を売ってきた相手が降参したのだった。もしかしたら単に自分の粘り勝ちかも知れないが。
「ウチんちに来て遊ぼー?【あんな】奴ほっといて…さ?」
否、自分が持っていた圧倒的なアドバンテージに気付いただけだった…まあ、それも暫くの間だけ。
何故なら同じ地元とは言え、これから暫くは夏休み。会う機会もないはずだし、そこでゆっくりと心の整理をつければいい…
そう思って別れ、自宅に帰ったのだった。
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