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アヤカし草子

作者: アヴェ

この作品は「マクラな草子」の別編です。物語の舞台は「マクラな草子」と同様夢見里と夢見里高校です。

この作品は一話のみの読み切りとなっているため、詳細な説明を省いている部分がありますので簡単に。

登場人物

音木彩香 おとぎあやか  主人公 妖怪

古屋敷奥良 ふるやしきおくら 音木の友人 驚異的観察眼の持ち主

神楽里勝子 かぐらさとしょうこ 音木の友人 ミス研部長

宮司康紀 ぐうじやすのり ミス研副部長

浅野鉄平 あさのてっぺい 勝子の幼馴染


という感じ。

マクラな草子とは現時点であまり関係はありません。読み切りなため。



その内続きを書くカモシカ。

 とある生き物の生態を探るなら、その生き物が生息している「巣」に近づいて調べるのが一番だろう。あまり近づきすぎると、その生き物が臆病なら逃げ出すし、凶暴であるなら襲ってくる。或いは勇敢なら、巣を必死に守ろうとするだろう。

 それらの行動から、その生き物の生態としてそれら三つの内のどれかがあてはまり、調査として得るものが最低でも手に入ったということになる。まあこんなのは予め調べておくべき事であるが、予めるその前の段階の調査ではそんなこと分かる由も無く、初対面での相手方がどのような行動に取るかなんて行ってみないと分からない。

 行き当たりばったりな調査。

 それは妖怪の調査にも当てはまる。その妖怪がどんな妖怪かなんて実際会ってみないと分からない。人間は妖怪の持つ「本質」から様々な空想と想像をめぐらせて妖怪に姿と形を定め、それを危険視してきたが、科学が発展していくにつれ妖怪たちが起こしてきた現象には全て理由をつけられた。そのため現代では妖怪という存在は淘汰されていて、人間たちは妖怪の事を詳しく知る機会が少なくなった。

 でも人間の世界から淘汰されたのは人間が想像した姿と形であり、妖怪の「本質」そのものは最初からそこに在ったものだから、妖怪というのは今でも人間の生活圏のすぐ隣に暮らしているのだ。

「なるほどねえ、相変わらず面白い事を考えるよね、彩香は」

 私こと音木彩香はミステリー研究部部長の神楽里勝子は私が持っている妖怪に関する知識をそう評価した。勝子は私の友人なのだが、私が話した「知識」をどうやら「知識」とは受け止めた風ではないらしい。私の個人的な考えだと思っているようだ。

「じゃあ今回の調査もそれに当てはめると……。これから行く廃屋には何らかの妖怪が住んでいて、そいつは良い妖怪か悪い妖怪かは分からないってこと?」

「有体に言えば、そうね」

 私の結論としては、例え妖怪が住んでいたとしても姿までは現さないだろうと思っているのだが、勝子にはそれは言わない。妖怪というのは本来姿も形も無いもので、大体が大体、人間の想像通りの姿をとることが多い。それらは基本的に人間に淘汰されたもののため、人間の前にはうかつに姿を現せないのだ。

 別に妖怪側にそういうルールはないんだけど。そもそも人間の世界で暮らしている妖怪なんて珍しいにも程がある。用が無ければ基本、「あっち」で暮らしているほうが平和だしね。

 私たちが暮らす夢見里という町は、大昔、五つの町から成る都市だった。中央に夢見里、その四方にそれぞれ、青峠、杜白、大路、黄泉浜という町が囲んでいた。それは今でも変わらないのだが、昔は全部ひっくるめて夢見里と呼んでいたらしい。夢見里では今でこそ考えられないが、妖怪と人間とが一緒になって暮らしていたという。それぞれの町から五人の人間と五人の妖怪の代表が選出され、彼らにより統治されていた。夢見里を訪れた旅人たちは始めは驚いたものの、活気溢れ争いも無く、平和に暮らす人間と妖怪の姿を見て、ここは桃源郷だ、と評したという。

 これが現代までに伝わる夢見里桃源郷伝説。人間が知っている範囲での知識はここまでだ。人間が知らない知識を話すなら、その後夢見里の外の町でもそうだったように、夢見里の妖怪たちも人間の側から離れざるを得なくなった。故に妖怪たちは夢見里の隣に妖怪と人間とがひっそりと暮らせる世界、桃源郷を築いた。隣、というのは人間が住むこの空間とは別にもう一つの空間を作り、そこに夢見里の町をそっくりそのままコピーしたという意味だ。妖怪たちの間では人間界の方を単に夢見里と呼び、そっち側を桃源郷と呼ぶ。

 人間の知らない伝説の続きをどうして私が知っているかって?

 その答えは単純明快。

 私自身が妖怪だからだ。

「でさ、そこにはなんの妖怪が住んでるの?」

 それに勝子は気づいていないし私も教えていない。当たり前だ、私の姿形は人間と全く同じだからね。

「さあね。僕が聞いた話だと、その廃屋に入ってきた人間を驚かせる幽霊みたいなものらしい。……むしろ幽霊なんじゃないのかな」

 勝子の問いに同じくミステリー研究部の古屋敷奥良が答える。古屋敷君は人間離れした観察眼の持ち主で、私が妖怪だと知っているのはミス研の部員では彼だけだ。始めて会った時に思い切り見破られてしまった。

 人間と違わない私の事を妖怪だと思い、思うだけならまだしもそれに確信を持って私に確認をしてくる人間なんて古屋敷君くらいのものだ。

 その観察眼を買い、私は古屋敷君をミス研に誘い込んだのである。

「幽霊なんているの?」

「妖怪よりはよっぽど現実的でしょう」

 と、他ならぬ妖怪の私が言ってみる。

 因みに私という妖怪自体に名は無い。私自身にはなんの力もないし、人間に危害が及ぶような「本質」で成り立っているわけでもない。大昔から人間と一緒に生活を営んできた妖怪の一種だけれど、あまりにも人間と同じ姿であるため元々区別がつき難かったのだ。それでも妖怪に定まった形なんてないわけだから、人間の姿というのは「本質」を隠すためのカモフラージュのようなものだ。

 カモフラージュでも、ずっとその姿をしているとそれが定着してしまうのだが。言ってみれば人間の想像通りの姿をとってきたわけだから、想像する人間が減ってきた現状、妖怪はそのままの姿で生き続けてきたというわけだ。

 じゃあ私の「本質」ってなんだろう。

 これが結構複雑な事情があるらしく、私はただ人間と共に生きていれば良いと、おじいちゃんに言われているだけだった。

 妖怪なのに「本質」を知らないなんて。

 まあ、知っていたところでこの時代、あまり意味は無いだろう。それこそ桃源郷に住んでいる妖怪たちでさえ自分がなんだったか覚えていない者たちが多いくらいだし。

「でもよう、もしそれが幽霊だったらどうすんだ? この中に霊能力者でもいるのか?」

 部員の一人、浅野鉄平が言う。浅野君は短気だが人は良い。でも特に不思議な事に興味があるわけじゃなく、ただ単に幼馴染の勝子が居るからという理由でミス研に居るらしい。勝子はその事を知っている。二人は大変仲が良い。ついでに浅野君はかの有名な瀬川奈々実とも顔見知りであるらしく、何度か話をしているのを見たことがある。

「ゆ、幽霊なんていないよね。結局噂でしょう?」

 ミス研副部長の宮司康紀が言う。宮司君はガタイの割に臆病で、幽霊だとか妖怪だとかは苦手らしい。それでもミス研一の体力の持ち主なため、力仕事では専ら宮司君の出番だ。

「その噂の真偽を確かめるのもミス研の役割よ。でもって部誌発行。結構楽しみに待ってくれている人も居るからね」

 私たちの活動は主に、夢見里に知られている伝説や日常の不思議の探求と考察だ。その考察を元に部誌を発行するのだが、これが校内では中々に好評であるため、勝子はこうして張り切っているのだ。因みに部誌を纏めるのは主に私と古屋敷君だ。

「今日も噂の真偽の見極めは頼むぞよ、奥良君」

「うん。まあそれなりにがんばるよ」

 古屋敷君には日常の会話である程度の妖怪の事を話しているため、多分何が出ても動じないだろう。そもそも古屋敷君は人間であるため、姿無き妖怪を認識できるわけも無いが。

 勿論、姿さえあれば人間にも認識できるだろう。でも今回の件には目撃報告が一切無い。本当に幽霊みたいだ。

 幽霊も妖怪の一種ともとれるけど。

「さてと、着いたわね」

 今回の活動は幽霊が出るといわれている廃屋の調査。つい最近広まってきた噂ではあるが、どうやらここになんらかの妖怪が出るらしい、とのこと。

 幽霊じゃなく、妖怪と人々は言う。夢見里にはそういった噂や伝説が絶えないのだが、それが幽霊か妖怪かは毎回はっきりしている。それもある意味不思議といえる。

 だから今回も、人が妖怪だというのなら妖怪なんだろう。

 とはいっても、部誌を纏めるのは私たちなので、実際に妖怪がいたとしてもその妖怪の望みであるならば存在をぼかす程度の事はする。妖怪にもそれくらいの権利はあるのだ。

「さてと、なんだっけ?」

「この妖怪は人が来ると、縄張りを走り回るようにして人間を驚かせるようよ。その姿は見えないのに、自分の周りを何者かが駆け回っている、そんな感覚がするそうね」

 私はとりあえず噂どおりのことを勝子に教える。

「なるほど。走り回る妖怪ね」

 勝子は持ってきたノートに調査結果を記す。勝子のノートは大変見やすくて毎回助かっている。

「……音木さん」

 勝子が周囲を見回しているとき、古屋敷君が私に耳打ちした。

「どうやら一人じゃないみたいだね。家族かな」

 古屋敷君にはもう妖怪の姿が見えているらしい。ということは姿を持つ妖怪ということだ。こうして人前に現れているという事は、それなりに無邪気な妖怪ということかな?

「どこかしら」

 私は彼らの気配を探る。私は妖怪なので、妖怪である彼らの位置は目を瞑っていても分かる。感じ取れる。これは妖怪たちが共通して持っている能力だ。野生動物も同様の力を持っているという。

 結果、私は廃屋内に計四人の妖怪の気配を感じた。

「彼らはどういった妖怪なんだい?」

「物に宿る妖怪、物の怪、といったところかな? 外国風に言えばポルターガイスト。姿が見えないのに周囲を駆け回っているような気配を感じるというのは、彼らが物から物へ移るとき、わざと音を鳴らしているからみたいね。ラップ音、ってやつかな」

 基本的に人間に害は無いタイプの妖怪だ。ただの悪戯心で驚かそうとしているだけの妖怪。やはり外国風に言えば妖精というやつだろう。

 本質的には変わらない。

「おっけ、この辺は特に異常なんてないわね。部屋もいくつかあるみたいだし、分担して調査よ」

「ちょ、ちょっと、なんかでてきたら怖いじゃん」

 勝子の提案に宮司君は驚く。というか怯えている。廃屋に入ってから異様に静かだったのはそのせいか。

「うーん。じゃあ宮司君と鉄平は二人で調査して。部屋の数も多いみたいだし、私たちは一人一人やる方が効率は良いでしょ?」

「僕の方に異存は無いよ」

 古屋敷君は勝子の提案を呑んだ。単独行動とみせかけ、私と話し合いをするためだ。古屋敷君が目配せをする。

「そうね。噂によればここに住んでいる妖怪はそれほど危険でもないでしょうし、いいんじゃない?」

「俺は構わないぞ」

 浅野君も承諾し、浅野君と宮司君が組んで、他はそれぞれの調査を開始した。私と古屋敷君も始めは何かを調べている振りをしていたが、他の三人の姿が見えなくなった頃、一つの部屋に入った。

「……いつも思うんだけど、わざわざ古屋敷君が付き合うことはないのよ?」

「なんとなく。興味はあるしね」

 私はミス研の活動の中で妖怪たちの存在を確認すると、こうして話し合う機会を設ける。本当は必要ないのだが、こんな機会でもない限り妖怪と話せる機会は少ないのだ。

「まあいいけど」

 古屋敷君はその度にこうして一緒についてくる。別に迷惑ではないが、そのせいで人見知りな妖怪とは話せないことが多い。

「えーっと。とりあえず皆さん姿を現してくれますか」

 小さな部屋は静かだ。だが暫くしてパン、パンというラップ音が鳴り響き、乱雑な雑貨の一つから声が聞こえた。どうやら一家の主らしいその声は古屋敷君には聞こえない。

『そこの人間は我々のことを感じ取れるのか』

「いいえ。単に観察眼が優れているだけです。まあ、物に宿っているあなたたちを認識できるという時点で少し異常ですけど」

『ふむ。こうして現れてもなんの驚きもしていない、か。ということは君も、彼には妖怪である事がばれていると』

「そうです。別に隠す必要も無いですし、隠しても無駄なような気がしたので早々に諦めました。そのおかげでこの夢見里に住む妖怪に興味を持っているんです」

 古屋敷君には物の怪の声が聞こえていないので、私が独り言を喋っているようにしか見えないだろう。一応、雑貨たちは宙をふわふわと浮いているが、それには全く動じていない。

『じゃあ彼にはおおっぴらにしていいわけだね? まあ人間には我々の声など聞こえないだろうが。娘さん、彼に聞いてみてくれないか、妖怪を目の当たりにした感想はどうだい?』

「古屋敷君。彼が、妖怪を目の当たりにした感想はどうだって」

 古屋敷君が妖怪と会うと妖怪たちは決まってこの質問をする。そのため古屋敷君も決まって同じ答えを返すのだ。

「特別な感情なんて抱かないですよ。音木さんと初めて在ったときも同じ感想でした。あなたたちは人間となんら変わりの無い一個の生命です」

『ほう。人間からそんな台詞を聞かされるのは久しぶりだね。懐かしい。我々があの頃の夢見里に暮らしていた時、人間たちがよく言っていたのを思い出す』

「……そうですね」

 この物の怪のおじさんはあの時代から夢見里に住んでいるのだ。だから桃源郷に移り住む事に躊躇いを抱き、人間が寄り付かない廃屋を転々としていたのだろう。

 妖怪の寿命は長い。というより、寿命なんてない。その「本質」がなんらかの原因で消失するか、自らの意思で消滅を選ばぬ限り死は訪れない。子孫を残すことも基本的にはできない。妖怪というのは突如として生まれるものだ。今日雨が降るか降らないか。その程度の確率で新しく妖怪が生まれ、そして同じ数だけ死んでいく。一年間で生まれる妖怪の数は世界で数十体ほど。人間によって淘汰された妖怪は世界にとってその程度で十分という認識をされているのだ。

『それで今日は人間たちを連れて探険かね。この少年以外の子らにも気づかれているのか?』

「いいえ。私のことを知っているのは古屋敷君だけです。あの子たちはただの好奇心旺盛な人間たちですよ」

『はっはっは。人間は若いうちからこういうことをしないと損をするらしいからな。いいだろう、存分に探検していくが良い』

 この物の怪はどうやらとても恰幅のいいおじさんらしい。おじさんたちにとっては私たちなど縄張りを漁りに来たも同然だというのに。

「……私たちは部活動の一環として、この廃屋で噂される妖怪の調査に来たのです。調査結果を部誌として学校の生徒たちに見せる事になっているんですが、なにか不都合でもあれば言ってください」

『なるほどなあ。人間の学校ではそんなこともできるのか』

「というか、面白半分ですよ。やっぱり妖怪の事を心のそこから信じている人間なんて少ないです」

 私の知る限りでは、古屋敷君だけ。

『それは残念だ。時代も移り変わってきたな。いやなに、我々は特に不都合などありはせんよ。むしろ面白おかしく書いて、人間の客人を集めてくれ。何分退屈しているのでな』

「……わかりました」

 私と物の怪の叔父さんはそれから二言三言言葉を交わし、会談を終了した。結局今回も古屋敷君は妖怪と会話らしい会話をしていない。本当に私の独り言に付き合わされているみたいで不憫だ。

「古屋敷君も妖怪と話せれば良いのにね」

「音木さんとは話せるのにね」

「大抵の妖怪は実体を見せてくれないから。妖怪同士ならそれこそ口を開かなくたって会話くらいできるんだけど」

 実体が無ければ人間とは話せない。

「まあいいや。後で詳しく聞かせてよ」

「うん」

 こうして私たちは廃屋の調査を終えた。調査の結果、物の怪は古屋敷君の周りに現れたということにしておき、勝子は部員たちから得た情報をノートに纏める。

「はい彩香。考察よろしく」

 部員たちの中では様々な噂に詳しいとされている私は勝子からノートを受け取り、さりげなく内容を眺める。中には勝子なりの解釈が含まれていて、それは的外れでもあるし、的を射ているものもあった。嘘をつくには真実も半分くらい混ぜるのが有効的だそうだから、私はいつもそうしている。

 ところで、嘘の中に半分の真実を含めてもそれは嘘なんだろうか。嘘五割、真実五割だと嘘のほうが優先されてしまうのはどうしてだろう。私としては完全に嘘をついてはいない、というより、その真実は完全ではない、という言い方のほうが正しい気がする。人を騙す事前提なら前者のほうが優れるだろうけれど。

 嘘は言っていないが本当のことを言っていないという感じ。

 表が五割で裏も五割。

 コインと同じだ。

 違うかもしれない。

 そんなことはどうでもいい。

 どうでもいいことを考えるのは好きだ。人間らしくて。

「音木さん?」

 学校への帰路に着きながら古屋敷君が私に声をかけた。

「また何か考えてたの?」

「うん。相変わらずどうでもいいことを。ところで古屋敷君」

「なに?」

「人間らしいことってなにかな。私はもうずっと人間と同じように暮らしてきたけど、それが当たり前すぎてよく分からない」

 当たり前になると分からない事がでてくる。当たり前になる前の自分と、当たり前になった後の自分との違い。私は妖怪としてこの世に産まれたけれど、人間として生きてきた歳月のほうが長い。人間が私の事を妖怪だと区別できていた頃の私はどんな風だったろう。

「人間らしいって言葉自体がおかしいと思うよ。人間らしさなんて妖怪から見たらよっぽど妖怪じみている。宇宙人からみた僕たちは宇宙人であるというのと同じようにね。だから人間は基準じゃない。人間と一緒に暮らせば、同じ住人であるというただそれだけのことだよ」

「うーん。分かるような分からないような」

「音木さんはそのままでいいとおもうよ。今更妖怪だなんだなんて誰も気にしないだろうさ」

 夢見里はそういうところ、寛容だと思うよと、古屋敷君は言った。

 それは古屋敷君が夢見里を観察してみた上での考えだろうか。それとも、そんなことは関係無しの思いつきなんだろうか。

 やれやれ、深く考えるというのは脳が疲れる。妖怪というのは考える生き物じゃないっていうのに。それこそ野生動物並みに、「本質」に極めて従う生き物のはずだ。

 人間と一緒に暮らしているからか。妖怪が人間から受けた影響というのは姿や形だけじゃないんだ。

 私はその後、古屋敷君に自分が考えた変な事を喋りながら学校へと向かった。

 どうでもいいお喋りは、好きだ。



 後日、「廃屋の妖怪」という記事を載せた部誌はやはり好評だった。夢見里高校の生徒たちも何かと噂話が大好きらしい。何分、変り者の多い学校だ。

 私自身、その一員なのだろう。

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