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婚約破棄ざまぁシリーズ

婚約破棄された守銭奴悪役令嬢は、呪われ公爵を買い取って人生逆転します!

掲載日:2026/03/01

婚約破棄から始まる契約ざまぁです。

経済で殴ります。

 王城大広間は、水晶のシャンデリアが放つ光に満ちていた。

 楽団が奏でる優雅な旋律に合わせ、絹のドレスを揺らす貴族たち。その中央で、王太子ヴィルフリートが冷酷な声を響かせた。


「アズリア・アイゼンフェルト! 本日をもって、貴様との婚約を破棄する!」


 楽団が奏でる音楽が止まり、視線が一斉に突き刺さる。憐憫、嘲笑、そして期待。

 それに反し、扇の陰で口角を吊り上げたわたくしの姿は、周囲の目にはさぞや「不敵な悪女」と映ったことでしょう。

 この美貌さえ、信頼を買うための広告費。投資回収の見込みは十分ですわ。


(……やっと、この日が来ましたわね。予定通りの減価償却ですわ)


 わたくしには、前世の記憶がある。

 ここは乙女ゲームの世界で、わたくしは傲慢な振る舞いの末に捨てられる悪役令嬢。

 だからこそ、五歳のあの日。鼻水を垂らしてわたくしの美少女っぷりに見惚れながら「アズリア、大好きだよ」などと抜かしていたこの男に、わたくしは「初期投資」を施したのだ。


「……それは、正式な宣言でよろしいのですね? 殿下」

「ああ、そうだ! お前のような金の亡者、未来の王妃には相応しくない! 私はこの、清らかなリリアーヌを妻とする!」


 隣でしなだれかかっているのは、聖属性の魔術を持つ男爵令嬢だ。胸の大きさは貧相だが、わたくしのザ・悪女といったプロポーションよりも清楚さをとったのだろう。いや、しなだれかかっておいて清楚も何もないが。

 わたくしは懐から、一通の羊皮紙を取り出した。

 それは、わたくしの固有魔法『魔法契約マギ・コントラクト』によって綴られた、絶対不変の誓約書。


「では、契約違反でございます。担保を回収させていただきますわ」

「……担保だと? 子供の頃の遊びだろう、そんなもの!」

「いいえ。わたくしの魔力で固定した『契約』ですわ。条項第七項――『一方的破棄の際は、対象の最も価値ある資産を没収する』」


 背後の国王や王妃たちが一斉に顔を強張らせた。だが、止める間もなかった。わたくしが指を鳴らすと、大広間の空気が一変する。

 その瞬間、ヴィルフリートの胸から、眩いばかりの金色の光が溢れ出した。


「な、なんだ!? 体が……熱い! 光が、吸い出される……!?」


 それは王族にのみ発現する稀少属性、光属性魔法。民衆を心酔させ、魔物を退ける王家の象徴。

 ヴィルフリートの胸から溢れ出した金色の光は、制御を失い、龍のようにのたうち回った。天井の水晶シャンデリアに反射し、光の礫が貴族たちを襲う。


「ひっ、光が暴走している!」

「王家の守護の力が、王太子を拒絶しているのか!?」

「嫌あぁぁっ! 眩しい、眩しいわ!」


 隣でリリアーヌが、清楚な仮面を剥ぎ取って無様に顔を覆い、床を転げ回る。彼女の持つ聖属性など、わたくしの魔力の前では端金にもなりませんわ。

 それが濁流となって、わたくしの持つ羊皮紙へと吸い込まれていく。


「なっ……! 待て、やめろ! 返せ、それは私の……!」

「いいえ、これはわたくしのものです。幼少期、魔力回路が未発達だった貴方に、わたくしの魔力という私費を投じて育て上げた『投資物件』ですもの。契約違反が発生した以上、債権者であるわたくしが全額回収するのは当然の権利ですわ」


 そうこう言っているうちに、ヴィルフリートから光が消えた。

 ヴィルフリートの手からは、かつての輝きが失せ、ただの「顔だけがいい無能」がそこに立っていた。

 会場に戦慄が走る。王太子の象徴を、わたくしは「没収」したのだ。


「ア、アズリア……! 返せ! それがないと、私は王になれない!」


 ヴィルフリートの震えた声にわたくしは思わず笑ってしまう。そうよね、王太子になれたのも他の王子たちの中で唯一光属性を所持していたから、ですものね?

 ああ、もちろん、わたくしの契約は万能ではございません。

 「当事者の同意」か「違反による担保回収」――この二つのどちらかが成立しない限り、権利移転は起こりませんの。


「あら、返還をご希望ですか? 可能ですわよ」


 わたくしは空中に算盤の幻影を浮かべ、指先で弾いた。チャリン、とレジの音が響く。


「現在の時価、将来の期待利益、およびわたくしの精神的苦痛への慰謝料……締めて、金貨五万枚。今すぐ一括でお支払いいただけますかしら?」

「ご、五万枚だと!? そんな金、私の個人予算にあるわけがないだろう!」


 知っていますわ。貴方の貯金なんて、金貨五百枚程度ですものね。

 わたくしは冷ややかに目を細めた。


「払えない。……左様でございますか。では、『代替履行』を要求いたします」

「なんだ……何をさせる気だ」

「陛下を説得し、わたくしと『呪われ公爵』ライアス様との婚約を、王命で取り付けてくださいませ」


 その名が出た瞬間、会場が氷点下まで凍りついた。

 触れるものを枯らし、火を消し、人々を窒息させる「死神」。その名を知らない貴族はいないからだ。


「……正気か? あの男の傍にいれば、お前も死ぬぞ」

「死にませんわ。守銭奴は、無価値な死など選びません。……あの『呪い』は、わたくしにとって金貨五万枚以上の価値がある――いわば『未開発の巨大資源』ですの」


 わたくしは優雅にカーテシーを捧げた。


「……ふん! そんなものさっさと取り付けてやる! 何が狙いかは知らんが、無様に果てるがいい!」

「契約成立ですわね」


 ……さあ、次は『呪い』という名の宝の山を、買い取りに参りましょうか。

 もう用のなくなった大広間から、わたくしはさっさと辞した。




 王都から馬車で三日。荒野の果てに立つ公爵邸は、死の静寂に包まれていた。

 庭園の木々は黒く立ち枯れ、屋敷の窓という窓が堅く閉ざされている。


「お帰りください、アズリア嬢。死にたいのであれば、もっと別の方法があるはずだ」


 屋敷の奥から響いたのは、低く、地を這うような掠れ声。

 そこに立っていたのは、漆黒の髪を乱し、紅の瞳に絶望を形にしたような光を灯し、退廃的な美貌を持つ男――ライアス公爵だった。

 彼が一歩踏み出すたび、廊下の燭台の火が、ふっと力なく消えていく。

 わたくしの背後で控えていた従者たちが、チアノーゼを起こして次々と膝をついた。


「お嬢様、これ以上は……!」

「空気が、空気がありません!」

「下がっていなさい。ここからは、命懸けの商談ですわ」


 わたくしは、肺を焼くような重苦しい空気の中を、優雅に歩いた。


「閣下、ご挨拶が遅れましたわ。貴方の新しい婚約者、アズリアです」

「……狂っているのか。私の周囲では、呼吸さえも困難になる。火も保たず、生きるものすべてが倒れるのだ。これは神に捨てられた『呪い』なのだぞ」


 公爵が悲痛に顔を歪める。確かに、彼の周囲の空気は重い。普通の人間なら数分でめまいに襲われるだろう。

 だが、わたくしは扇で口元を隠し、クスクスと笑った。


「呪い? いいえ、これは『資源の無駄遣い』ですわ」

「何……?」

「先程から拝見しておりますが、貴方の体から放出されているのは、ただの高濃度二酸化炭素ですわね。酸素を押し出し、火を消し、脳を麻痺させる……管理されていないだけで、ただの物質ですわ」


 わたくしは迷うことなく、死神と呼ばれた男の懐へ飛び込んだ。

 驚愕に目を見開く公爵の胸元に、契約の羊皮紙を叩きつける。


「アズリア嬢……! なぜだ、君の評判が落ちるぞ。死神と手を組めば、君まで呪われる……!」

「評判? 閣下、笑わせないで。そんな実体のない、換金もできない市場指標に興味はありませんわ。わたくしが信じるのは、目の前のキャッシュフロー――つまり、貴方という存在が生み出す価値だけです!」


 わたくしの固有魔法が発動する。

 契約の魔法陣が、公爵とわたくしを繋ぐ鎖のように輝き始めた。


「契約条項、読み上げますわ! ――ライアス・ランドールが保有する『呪い』の帰属を、本日をもってアズリア・アイゼンフェルトへ全面譲渡する。代価として、わたくしは貴方の生命維持に必要な一切の維持費――衣食住および魔力安定措置を、生涯にわたり負担いたします」

「契約、だと……? 私の呪いを、譲り受けるというのか……!?」

「ええ。ゴミだと思っているものに価値を見出すのが、一流の守銭奴ですもの。さあ! 契約にサインを!」


 公爵が震える指で契約書にサインした瞬間、公爵の体から溢れ出ていた「呪い」が、一気にわたくしの魔力回路へと吸い上げられていく。

 魔法契約によって、彼の呪い――いや、固有魔法はわたくしの管理下に置かれたのだ。


「あ……っ」


 ライアスが、信じられないものを見るように自分の手を見つめた。

 消えていた燭台の火が、わたくしの合図とともに再び灯る。今度は、消えない。

 どろりと濁っていた彼の瞳から、死の影が消え去る。そこに現れたのは、磨き上げられたルビーのような、透き通った紅。

 不健康なまでに青白かった肌には生気が宿り、退廃的な色香はそのままに、見る者の目を奪う圧倒的な「公爵としての威厳」が立ち上がった。わたくしが仕入れた原石が、今、最高級の宝石へと変わった瞬間ですわね。


「……息が、できる。空気が、軽い。……なぜだ、君は、苦しくないのか?」

「いいえ、全く。契約に同意して貰わなければ成り立たない魔法ですもの。そのデバフの代わりに、能力の取り出しは自由なのですわ」


 肩で息をしながら、わたくしは商人の顔で告げた。

 公爵は呆然とした後、その場に膝をつき、震える手でわたくしの裾を掴んだ。


「君は……死神から、私を『ただの男』に戻してくれたのか。この呪いを、奪ってくれたのか……」

「奪ったのではありません。『仕入れ』たのですわ」


 わたくしは、涙ぐむ彼の顎を扇でくいっと持ち上げた。


「さあ、閣下。感動している暇はありませんわよ。貴方の『呪い』を元手に、これから世界をシュワシュワさせて、王家がひっくり返るほどの利益を出しますわ。――これは立派な事業計画ですの。わたくしを儲けさせてくださるわね?」


 公爵は、かつての絶望が嘘のような、眩しいほどの微笑を浮かべた。


「ああ……。私のすべてを、君に捧げよう。……オーナー」


(……よし。時価総額・推定国家予算三倍の『超優良物件』確保完了ですわ!)




「まずは実験ですわ」


 公爵邸の地下室。わたくしは、自身の魔力空間に貯蔵した「呪い」――もとい二酸化炭素を、細い銀の管を通じて水差しの中へ慎重に放出した。

 ボコボコと不気味な泡が立つ。公爵は、かつて人を殺めかけた自分の力が水に混じるのを、恐る恐る見守っていた。


「アズリア、それは一体……毒水を作っているのか?」

「失礼な。これは『勝利の美酒』の素ですわ」


 わたくしはそこに、領地で採れた酸っぱい木の実の果汁と、大量の砂糖を加えた。

 そして自ら一口。


「……勝ちましたわ。シュワシュワいたします」

「しゅわしゅわ?」


 公爵が恐る恐る口に含む。次の瞬間、彼の瞳が大きく見開かれた。

 舌の上で弾ける未知の刺激。爽快感。喉を通り抜ける爽やかな痛みが彼を焼いていることだろう。


「なんだ、これは……! 喉が洗われるようだ!」

「商品名『公爵令嬢の溜息』……炭酸ソーダよりはこちらの名前のほうが売れそうですもの。これを冷やして、煌びやかな瓶に詰め、王都の夜会で流しますわ。価格は一本金貨一枚。原価はタダ同然ですもの、利益率は驚異の90%超えですわね」


 わたくしの快進撃は止まらない。

 わたくしはまず、王都の一等地に『シュワシュワ・バー』を開設した。氷魔法を付与した魔法銀のグラスで提供される『溜息』は、脂っこい肉料理に飽きていた貴族たちの舌を虜にした。「溜息を知らないのは田舎者」という流行をわたくしが私費を投じて捏造……いえ、マーケティングした結果、社交界の基準は一変した。

 「美容に良い」「消化を助ける」という根拠のない……いえ、わたくしが根拠にした論文を量産させた噂が広まり、今や王都の令嬢たちは競って公爵領産の炭酸水を買い求めている。




 わたくしは次に、小型の金属筒に高圧の「魔法」を詰め込んだ。


「これは『鎮火の魔瓶』……いわば消火器ですわ。火災が起きた際、これを投げれば魔法を使わずとも一瞬で火が消えます。消防ギルドに独占販売権を売りつけますわよ」


 魔力を持たない平民でも火災を鎮められるこの道具は、木造家屋の多い下町で爆発的に普及した。

 消火のために魔法を使える魔導師を雇うコストに比べれば、わたくしの瓶一つなど、保険料としては安すぎるくらいですもの。ギルドとの契約金だけで、公爵邸の屋根を金箔に変えられるほどの利益が出ましたわ。成金のようですからやめましたけれど。

 さらに、高濃度のガスを密閉した「魔法温室」を建設。

 植物の成長を促す二酸化炭素の効果により、荒野だった公爵領には、季節外れの巨大なイチゴや瑞々しい野菜が溢れかえった。本来、冬には金貨を積まなければ手に入らない果実を、わたくしは「適正価格」より少しだけ安く、けれど他店が太刀打ちできない圧倒的な物量で市場に放出した。

 「アズリア様、市場価格が暴落します!」と悲鳴を上げる商人たちを、わたくしは冷笑して一蹴した。


「市場の淘汰は、健全な経済発展の過程に過ぎませんわ。わたくしの軍門に降り、公爵領の専属販売代理店となりなさいな」


 恐怖の象徴だった公爵邸には、今や世界中の商人たちが列をなし、金貨の山が築かれていった。


「アズリア、君は本当に……魔法使いではなく、錬金術師のようだ」


 作業の合間、公爵が愛おしげにわたくしの髪を撫でる。

 かつて死を振りまいていた彼の大きな手は、今や領民に感謝され、わたくしを支えるためにある。


「錬金術なんて不確実なものではありませんわ。これは単なる『適正価格への修正』です。それに、次の計画も動き出していますの」


 わたくしは、試作中の「黒い液体」をグラスに注ぎ、不敵に微笑んだ。

 「炭酸の刺激をさらに高め、中毒性のあるカラメルと香料を加えた新商品……名付けて『公爵の独占』ですわ。これを売り出せば、大陸中の喉はわたくしが支配することになるでしょう」


 そこへ、一通の招待状が届いた。

 差出人は王家。紋章の光がかつてより弱々しいのは気のせいではないだろう。


「『建国記念夜会への招待』……。ふふ、光を失い、威信が揺らいでいる王家が、今や大陸一の富豪となった公爵領に泣きついてきましたわね」

「行くのか? アズリア」

「もちろんですわ。最高の宣伝機会ですもの。……それに、ヴィルフリート殿下には『追加の請求書』をお渡ししなければなりませんし」


 わたくしは公爵の腕を取り、不敵に微笑んだ。


「さあ、閣下。わたくしの自慢の『最高級物件』を、世界にお披露目しに行きましょう。――ドレスの代金は、もちろん売上から差し引いておきますわね?」


 そうして向かった王城の夜会。

 漆黒の礼服を完璧に着こなした公爵の隣で、わたくしは炭酸水の泡をイメージした、無数の真珠が縫い込まれたドレスを纏って広間に降り立った。かつての「死神」の面影などどこにもない。公爵の一歩ごとに、貴族の令嬢たちがその美貌に溜息を漏らす。


(ふふ、時価総額がさらに跳ね上がりましたわね……)


 貴族たちの集まる先には、わたくしとの契約履行により光属性魔法を取り戻し、意気揚々としたヴィルフリート王太子の姿があった。


「ははは! 見ろ、リリアーヌ。これが真の王の輝きだ!」

「きゃあ! ヴィルフリート様すごぉい!」


 王太子が手を掲げれば、眩いばかりの光が周囲を照らす。しかし、その光は以前よりも不安定で、ぎらぎらと刺すように痛い。かつてその光を「優しく、神々しく」調整していたのは、わたくしの精密な魔力制御と、高価な魔力安定剤の投与だったことに、愚かな王子は気づいていないようだ。


「ご機嫌よう、皆様。光が戻られたようで、お祝い申し上げますわ、殿下」

「ふん、アズリアか! 呪われ公爵などという不良債権を掴まされて、今頃は後悔している……」


 言いかけた王太子の言葉は、悲鳴にかき消された。

 あまりに無節操に光を放ち続けた結果、老朽化した城の魔導回路が過負荷を起こし、防御結界が内側から一部破壊されてしまい、大爆発とともに火の手が上がったのだ。


「あわわ、光が止まらん! 消えろ! 止まれ!」


 ヴィルフリートが焦るほど、制御を失った光属性魔法は魔導回路を活性化させ、炎を爆発的に燃え広がらせる。まさに「光」が「火」に油を注ぐ地獄絵図。


「閣下、出番ですわ。……これ以上、わたくしの『元・投資先』が燃えて資産価値を下げるのは忍びありませんもの」

「了解した、アズリア」


 公爵が前に出て、呪いだった魔法を失っても尚余りある魔力で防御障壁を張り、わたくしが契約魔法を介して「魔法」を一点に集中放出。

 一瞬にして、荒れ狂う火炎が酸素を奪われ、窒息するように鎮火した。

 静寂の中、煤まみれで光を失い、へたり込む王太子。その鼻先に、わたくしは容赦なく「請求書」を突きつけた。


「緊急消火作業代行、および特殊ガス使用料。金貨二万枚になりますわ」

「ば、馬鹿な! 婚約を斡旋しただろう!」

「あら、それは『婚約破棄の違約金』。今回のこれは『新規のサービス利用料』ですわ。公私混同なさらないでいただけます? 殿下」


 わたくしは冷ややかに微笑み、会場の貴族たちへ向かって扇を広げた。


「皆様。光り輝くだけで火を消せぬ王と、火を操り富を生む公爵。……どちらが今後の投資先に相応しいか、賢明な皆様なら、計算できますわね?」


 大広間がシンと静まり返ったところで、場違いに響いたのは王太子の怒声だった。


「ええい! 黙れ黙れ! 皆、見ろ! 守銭奴令嬢の言葉になど惑わされるな、この光が、王家の……!」


 王太子が叫びながらパァッと光で照らしたところ、プツン、と。まるで電球が切れるように、彼の光は消滅した。


「なっ……光が……出ない!? なぜだ、アズリア! 返したと言っただろう!」

「ええ、返しましたわよ。『試供品』として、一定量だけ。……お忘れですか? 貴方と結んだ契約の特約事項を」


 わたくしは、氷のような微笑みを浮かべた。


「あの光は現在、わたくしが所有する『期間限定リース資産』ですわ。サブスクリプション――月額定期契約を更新しなければ、二度とその輝きは戻りません」

「さぶすく……だと……!?」


 絶望にへたり込む顔がいいだけの無能を放置し、わたくしはリリアーヌ嬢を見た。彼女は怯えるように身体をすくめる。あらあら、取って食うなんてしないというのに。


「リリアーヌ嬢、貴女もですわ。聖属性の魔力があるからと高を括っていたようですが、その『清楚さ』というブランド価値は、今や大暴落。市場価値はゼロ……いえ、マイナスですわね」

「な、なんですって!? わたしは聖女として……」

「殿下の借金の保証人は婚約者――つまり、今は貴女になっています。……ああ、安心なさい。わたくしは慈悲深い投資家です。使い道のない貴女にも、最適な『ポジション』を用意して差し上げましたわ」

「ど、どういうこと!? わたしは聖女です!」

「あなたは聖女としての務めを果たさず、殿下との火遊びにふけっていたとか? 今日からその怠慢な労働形態はおさらばです! 神殿とも話を通し、あなたは『聖属性魔力の無期限充填係』となりました。商品ラインナップに『聖女の祝福』を加える必要がありますからね」

「そんなっ、嘘よ!」


 叫ぶリリアーヌ嬢をよそに、わたくしの『魔法契約』が発動する。


「保証人の署名は、担保提供への同意も含みます。――王家の標準契約書、読んでいらっしゃらないの? 保証契約に基づき、担保を確保いたしますわ」


 その瞬間、彼女の胸元から輝きが吸い出され、わたくしの手元にある契約書へと繋がった。

 彼女が生きている限り、わたくしは聖女の魔力も使い放題……。いわば、彼女という「発電機」をまるごと仕入れたようなものですわ。


「嫌ぁぁぁっ! 魔力が、わたしの力が……!」

「ああ、安心なさい。もし貴女が真面目に働き、五万枚の金貨と利息を完済すれば、契約は解除されますわ。……まあ、わたくしの計算によれば、七回くらい転生しないと無理そうですけれど」


 無様に叫ぶ彼女を、わたくしの息がかかった衛兵が引きずっていく。

 「無価値な存在」から「わずかでも実利を生む歯車」へと再構築することこそ、今の彼女に最もふさわしい再建計画ですわ。

 公爵はそれらを見届けて微笑みながら「行こうか」と促し、わたくしをエスコートしつつ悠々と広間を闊歩して貴族たちの間を抜けて行く。

 さて、事件の後、王家は莫大な消火代金の支払いのためにわたくしの商会から多額の借金を背負い、実質的にわたくしの経済支配下に置かれることとなったが、当然の帰結である。




 一方、夜の公爵邸。

 わたくしはバルコニーで、月光を浴びながら帳簿をつけていた。


「アズリア、まだ仕事か?」


 背後から、公爵が温かな体温とともにわたくしを包み込む。かつて死神と呼ばれた男の腕は、今やわたくしを最も安心させる場所だ。


「ええ。今回の夜会での宣伝効果を計算しておりますの。炭酸飲料の注文が殺到して、嬉しい悲鳴ですわ」

「……君は、私の呪いを奪い、価値を与え、私を救い出した。だが、私にはまだ、君に返せていない債務があるように思う」


 公爵がわたくしの指先に、誓いのくちづけを落とす。


「君の人生を、私に預けてくれないか。利子は、一生分の愛で払う」

「あら、愛なんて不確実な資産……」


 言いかけて、わたくしは彼の真剣な瞳に言葉を飲み込んだ。


「……ふふ。よろしいでしょう。ただし、わたくしは『守銭奴』ですわ。一度手に入れた優良物件は、死ぬまで、いえ死んだ後も手放しません。――生涯独占契約、承認いたしますわ」


 わたくしはライアスの首に手を回し、幸せなため息をつく。

 魔法の光より、金貨の輝きより、今はこの穏やかな体温こそが、わたくしにとって最も価値のある資産だった。

 夜空には、わたくしが打ち上げた「シュワシュワ」と弾ける祝祭の花火が、高らかに勝利を告げていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら、評価やブックマークという「投資」をいただけますと、アズリアの事業拡大の励みになります。

今後も資産価値の高い物語をお届けできるよう精進いたしますわ。

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― 新着の感想 ―
聖女のヒーリング封入炭酸ドリンクエナ◯リを作っても面白そうではある。
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