『貴様の心の声はうるさいんだよ!』と冷徹皇太子に怒鳴られましたが、私の脳内には「殿下尊い」「顔面国宝」「生きててよかった」という感想しかなかったので、つまりこれは告白ということでよろしいでしょうか?
「……おい、リリアナ」
王宮の庭園。
私、リリアナ・ベルンシュタイン公爵令嬢は、婚約者である第一皇太子、ジークフリート殿下に呼び止められた。
銀色の髪に、氷のように冷ややかな青い瞳。
誰もが恐れる「氷の皇太子」。
彼が私を見る目は、いつも険しい。
(うっ……今日も顔が良い……!!)
私は扇で口元を隠し、内心で絶叫した。
そう、私は前世の記憶を持つ転生者だ。そして目の前の殿下は、前世で私がドハマりしていた乙女ゲームの最推しキャラなのである。
「……何か用か?」
殿下が眉間にしわを寄せ、不機嫌そうに私を睨む。
「いえ、殿下がお呼びになられたので立ち止まったまでですわ」
私は精一杯、悪役令嬢らしくツンとした態度を取った。
嫌われている私が馴れ馴れしくしては、殿下の不快指数を上げるだけだからだ。
(ああん、その蔑むような目! 最高です! もっとゴミを見るような目で私を見てください! そしてその長い睫毛の影を私の網膜に焼き付けて! 今日も銀髪がサラサラでキューティクルが輝いていて、まさに歩く世界遺産……神よ、彼を創造してくれてありがとう……!)
「っ……!?」
突然、殿下が口元を押さえてよろめいた。
耳まで真っ赤だ。
「殿下? いかがなさいました? お顔が赤いですけれど」
「だ、誰のせいだと……ッ!」
殿下は私を睨みつけた。
え、私? 私何もしてないけど。ただ立って呼吸して、心の中で殿下を崇拝していただけだ。
「貴様……いい加減にしろよ」
「はい?」
「さっきから! 俺の顔を見るたびに! 心の中で大騒ぎしおって!」
……はい?
殿下はハァハァと息を切らしながら、私に指を突きつけた。
「『鎖骨がエロい』とか『その低音ボイスで罵られたい』とか『存在がファンサ』とか! 意味のわからん単語を脳内で連呼するな! 全部聞こえているんだよ!」
時が止まった。
鳥のさえずりだけが聞こえる。
「……きこ、えて?」
「そうだ! 俺は『加護』の影響で、触れた相手や近くにいる人間の思考が読める! 知らなかったのか!?」
(えっ、待って。思考が読める? じゃあ私がさっき考えてた『殿下の飲みかけの紅茶カップになりたい』って思考も?)
「聞こえてるわ!! 変態か貴様は!!」
殿下の怒号が響き渡る。
終わった。
完全に終わった。
推しに、自分が限界オタクであることがバレただけでなく、ドン引きされた。
羞恥心で死ねる。今すぐ地面に埋まりたい。
(も、申し訳ありません……! 不快でしたよね、気持ち悪いですよね……! すぐに視界から消えますので、どうか婚約破棄を……!)
私が涙目で後ずさりしようとすると、ガシッと腕を掴まれた。
「……待て。誰が婚約破棄すると言った」
「え?」
殿下はそっぽを向き、真っ赤な顔でボソリと言った。
「……不快では、ない」
「はい?」
「うるさいし、変態だし、意味不明だが……俺に対して、政治的な打算も、悪意も、殺意も持っていないのは、この王宮で貴様だけだ」
殿下の握る手に力がこもる。
「どいつもこいつも、俺の心なんてお構いなしに権力のことばかり考えている中で……貴様だけだぞ。俺の『キューティクル』だの『睫毛』だのを心配している阿呆は」
「あ、阿呆で申し訳ありません……」
「褒めているんだ!」
殿下は私の手を取り、強引に引き寄せた。至近距離。顔が良い。無理。
「リリアナ。貴様のその……暑苦しいほどの好意は、よくわかった。慣れるまでは恥ずかしいが、悪い気はしない」
「で、殿下……?」
「だから、責任を取れ。一生俺の側で、そのバカみたいな心の声を聞かせ続けろ」
(えっ……それって、つまり……プロポーズ!? 推しからの!? 嘘でしょ!? キャーーーー!! 尊い! 無理! しんどい! 好き!!!)
「ぐっ……! だ、だからうるさいと言っているだろう!」
殿下は耳を塞ぎながらも、その口元はどこか嬉しそうに緩んでいたのだった。




