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異世界恋愛短編

『貴様の心の声はうるさいんだよ!』と冷徹皇太子に怒鳴られましたが、私の脳内には「殿下尊い」「顔面国宝」「生きててよかった」という感想しかなかったので、つまりこれは告白ということでよろしいでしょうか?

作者: 神野あさぎ
掲載日:2025/11/28

「……おい、リリアナ」


 王宮の庭園。

 私、リリアナ・ベルンシュタイン公爵令嬢は、婚約者である第一皇太子、ジークフリート殿下に呼び止められた。


 銀色の髪に、氷のように冷ややかな青い瞳。

 誰もが恐れる「氷の皇太子」。

 彼が私を見る目は、いつも険しい。


(うっ……今日も顔が良い……!!)


 私は扇で口元を隠し、内心で絶叫した。

 そう、私は前世の記憶を持つ転生者だ。そして目の前の殿下は、前世で私がドハマりしていた乙女ゲームの最推しキャラなのである。


「……何か用か?」


 殿下が眉間にしわを寄せ、不機嫌そうに私を睨む。


「いえ、殿下がお呼びになられたので立ち止まったまでですわ」


 私は精一杯、悪役令嬢らしくツンとした態度を取った。

 嫌われている私が馴れ馴れしくしては、殿下の不快指数を上げるだけだからだ。


(ああん、その蔑むような目! 最高です! もっとゴミを見るような目で私を見てください! そしてその長い睫毛の影を私の網膜に焼き付けて! 今日も銀髪がサラサラでキューティクルが輝いていて、まさに歩く世界遺産……神よ、彼を創造してくれてありがとう……!)


「っ……!?」


 突然、殿下が口元を押さえてよろめいた。

 耳まで真っ赤だ。


「殿下? いかがなさいました? お顔が赤いですけれど」

「だ、誰のせいだと……ッ!」


 殿下は私を睨みつけた。

 え、私? 私何もしてないけど。ただ立って呼吸して、心の中で殿下を崇拝していただけだ。


「貴様……いい加減にしろよ」

「はい?」

「さっきから! 俺の顔を見るたびに! 心の中で大騒ぎしおって!」


 ……はい?


 殿下はハァハァと息を切らしながら、私に指を突きつけた。


「『鎖骨がエロい』とか『その低音ボイスで罵られたい』とか『存在がファンサ』とか! 意味のわからん単語を脳内で連呼するな! 全部聞こえているんだよ!」


 時が止まった。

 鳥のさえずりだけが聞こえる。


「……きこ、えて?」

「そうだ! 俺は『加護』の影響で、触れた相手や近くにいる人間の思考が読める! 知らなかったのか!?」


(えっ、待って。思考が読める? じゃあ私がさっき考えてた『殿下の飲みかけの紅茶カップになりたい』って思考も?)


「聞こえてるわ!! 変態か貴様は!!」


 殿下の怒号が響き渡る。

 終わった。

 完全に終わった。

 推しに、自分が限界オタクであることがバレただけでなく、ドン引きされた。

 羞恥心で死ねる。今すぐ地面に埋まりたい。


(も、申し訳ありません……! 不快でしたよね、気持ち悪いですよね……! すぐに視界から消えますので、どうか婚約破棄を……!)


 私が涙目で後ずさりしようとすると、ガシッと腕を掴まれた。


「……待て。誰が婚約破棄すると言った」

「え?」


 殿下はそっぽを向き、真っ赤な顔でボソリと言った。


「……不快では、ない」

「はい?」

「うるさいし、変態だし、意味不明だが……俺に対して、政治的な打算も、悪意も、殺意も持っていないのは、この王宮で貴様だけだ」


 殿下の握る手に力がこもる。


「どいつもこいつも、俺の心なんてお構いなしに権力のことばかり考えている中で……貴様だけだぞ。俺の『キューティクル』だの『睫毛』だのを心配している阿呆は」

「あ、阿呆で申し訳ありません……」

「褒めているんだ!」


 殿下は私の手を取り、強引に引き寄せた。至近距離。顔が良い。無理。


「リリアナ。貴様のその……暑苦しいほどの好意は、よくわかった。慣れるまでは恥ずかしいが、悪い気はしない」

「で、殿下……?」

「だから、責任を取れ。一生俺の側で、そのバカみたいな心の声を聞かせ続けろ」


(えっ……それって、つまり……プロポーズ!? 推しからの!? 嘘でしょ!? キャーーーー!! 尊い! 無理! しんどい! 好き!!!)


「ぐっ……! だ、だからうるさいと言っているだろう!」


 殿下は耳を塞ぎながらも、その口元はどこか嬉しそうに緩んでいたのだった。



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― 新着の感想 ―
殿下? 婚約者のうるさい心の声を黙らせる効果的な一撃がありますけど知りたいですか? あれです。殿下の唇と舌で婚約者の口を塞ぐのです。 耐性のできていないうちならば黙りますよ? 何です? それは失神…
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