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9話

9日目

最近はどのくらいキャラクターを増やそうか悩みながら書き上げています


北の祠を出て間もなく。

白銀の雪原に、黒い点が浮かんだ。


「……誰かいる」

ユウが足を止めた。


やがて、黒衣をまとった影が二人の前に立ちはだかる。

風も雪も、その周囲だけ避けて流れるようだった。


「少年。手紙を渡せ」


声は低く、冷たい。

顔はフードに隠され、瞳だけが赤く光る。


カイが一歩前に出た。

「ふざけんな! こんだけ苦労してきて、ただで渡すかよ!」


影は口元をわずかに歪めた。

「氷狼の加護……なるほど。試練を越えたか」


ユウは息をのむ。

「どうして……知ってるんだ?」


「我らは見ている。王家の残滓を追う者としてな」


言葉の意味を問い返す間もなく、黒い刃が雪を裂いた。


戦いが始まった。


カイは冷静に影の剣を受け止め、ユウは迷わず前に出る。

二人の動きが重なり、氷狼との修行が生きる。


だが――影は速かった。


一撃一撃が、氷狼以上に鋭く重い。

二人は必死に食らいつきながらも、押されていく。


「まだ未熟だ。だが……面白い」


影が囁いた瞬間、黒衣の裾が風に溶けた。

次に見えた時には、ユウの背後。


「ユウっ!」

カイが叫ぶ。


咄嗟にユウは氷の剣を振るい、辛うじて受け止めた。


刃と刃がぶつかり合い、火花が散る。


激闘の末、影はふっと距離を取った。


「……なるほど。確かに氷狼は認めただけある」


「なら、退けよ!」

カイが息を荒げて叫ぶ。


影は笑った。

「いや。今日のところは退くだけだ。

 だが手紙は必ず我らの手に渡る。

 それが、この世界にとって唯一の救いだからな」


雪煙が舞い、影は消えた。


残された二人は膝をつき、震える息を吐いた。


「……強すぎる」

「でも、戦えた。前よりは」


ユウは手紙を握りしめる。

心臓の鼓動は恐怖よりも、熱く燃えていた。


「絶対に届ける。ぼくたちで」


戦いの余韻が雪原に残っていた。

ユウとカイは荒い息を整え、倒れ込みそうな身体を支えていた。


そのとき――

銀の鈴のような声が響いた。


「ずいぶん危なっかしい戦い方してるじゃない」


風に揺れる赤いマント。

リナが雪原の向こうから歩いてきた。


「リナ……!」

ユウが身構える。


「安心しなさい。今日は手紙を盗りに来たんじゃないわ」

彼女は口元に笑みを浮かべた。


カイが険しい目で睨む。

「信用できるかよ」


「信じなくていいわ。でも――あんたたち、あの影が何者か少しは知ってる?」


ユウは黙った。

リナは肩をすくめる。


「あれは《黒衣の影》。滅んだ王国と一緒に闇に沈んだはずの連中よ」


「……滅んだ王国の?」

ユウが目を見開く。


リナは雪を踏みしめながら近づき、二人を見下ろした。


「奴らの目的はただ一つ。王家の血を完全に断ち切ること。

 だから――その手紙を渡せば、あんたたちも無事じゃ済まない」


カイが声を荒げた。

「じゃあどうすりゃいい! ユウは……手紙を届けるために旅してんだぞ!」


リナは小さく笑った。

「だから面白いのよ、あんたたち。

 無謀で、馬鹿で……でも、だからこそ賭けてみたくなる」


そう言ってリナは踵を返す。


「次に会うときは敵か味方か。

 せいぜい死なないでよ、坊やたち」


赤いマントが吹雪に溶け、リナの姿は消えた。


ユウとカイはしばらく立ち尽くしていた。

雪原に残るのは、強烈な寒さと、胸の奥に渦巻く熱だけだった。

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