27話
27日目
いいペースで投稿ができて幸せな作者でございます。
幹部を討ち果たし、静寂が訪れた。
焚き火の明かりの下、リナは腕を組み、ユウたちを見渡す。
「……あんた、本当に師匠を超えたのかもしれないわね」
リナの声は皮肉混じりだが、瞳は真剣だった。
ユウは真っ直ぐに答えた。
「俺は師匠に教えを受けただけだ。
でも、その教えを守って生き抜いた。これからも――手紙を届けるまで」
しばしの沈黙の後、リナは大きく息を吐き、肩をすくめた。
「ったく、面倒な相手を選んだもんだわ……。
でもいい。どうせ私も、この手紙の秘密を知りたい。
一緒に行ってやる」
カイが目を丸くする。
「おい……本気か?」
「本気よ。ただし勘違いしないで。仲良しこよしがしたいんじゃない」
リナは腰の刃を軽く叩く。
「手紙の真実を解き明かす。そのために、あんたたちを利用するの」
ノエルは小さく微笑んだ。
「それでも……今は仲間、でしょ?」
リナは少し言葉に詰まり、目を逸らした。
「……好きに呼べばいいわ」
ユウは剣を背に収め、静かにうなずいた。
「ようこそ、リナ」
その瞬間、焚き火の炎が大きく揺れた。
ライバルであり敵でもあった彼女が――今、仲間となった。
手紙の秘密を解き明かす旅が、新たな形で動き出す。
◆
漆黒の大広間。
松明の火がゆらめく中、一人の影が静かに立っていた。
黒衣の影――その首領は、報告を受けていた。
「……幹部が、討たれた?」
跪く部下は震える声で答える。
「は……はい。ユウたちと、リナによる共闘で……」
長い沈黙が落ちた。
やがて低い笑い声が広間に響きわたる。
「そうか……あの小僧が、師を越えたか」
指先で虚空をなぞりながら、黒衣の影は呟く。
「だが、それでこそ面白い。
手紙が“封印”を解く鍵である以上、奴らが導く先は……必然的にあの地」
部下が恐る恐る尋ねる。
「……このまま奴らを放置してよろしいのですか?」
影は首を横に振る。
「いいや。だが焦る必要はない。
むしろ好都合だ。彼らが手紙を運び、真実を暴き、封印の扉を開ける。
――我らが望むのは、その瞬間に手紙を奪うこと」
炎が強く燃え上がり、影の瞳に赤い光が宿った。
「幹部の死は痛手ではある。だが代わりはいくらでもいる。
次は私自らが舞台に出る時かもしれんな……」
不気味な笑みが広間に広がる。
黒衣の影の野望はなお消えることなく、むしろ幹部を失ったことで、より深い闇を帯びて燃え始めていた。
◆
幹部を討ち果たした余韻も冷めやらぬまま、ユウたちは森を抜け、岩肌の多い台地へと足を踏み入れた。
風は乾き、遠くには古びた石造りの遺跡の影が見える。
「……ここが次の手掛かりの場所か」
カイが耳を立てて周囲を探る。魔物の気配は薄い。だが、代わりに大地全体がどこか不気味な静けさを帯びていた。
ノエルは見つけた破片を拾い上げる。古代文字の刻まれた石片。
「これは……師匠が探していた封印の遺構に関わるものかも」
その声に、ユウは改めて背負う手紙に手を添える。
リナは少し離れた場所で、崩れた壁を眺めながら呟いた。
「やっぱり、この手紙の行き先はただの届け物じゃなさそうね」
四人は互いに視線を交わし、無言のまま頷いた。
次に待ち受けるのは、封印へと至るための本格的な探索。
そしてそこには、黒衣の影の影がすでに迫っているかもしれない――。
崩れかけた石造りの遺跡。
柱にはびっしりと苔が生え、風が吹くたびに砂埃が舞った。
四人は慎重に奥へと進む。
「……見ろ、ここ」
カイが指さした壁面には、古代文字で刻まれた文が並んでいた。
ノエルが顔を近づけ、指でなぞる。
「“封印を解く鍵は、選ばれし者の手に託される”……」
声が震える。
ユウは無意識に背中の荷――村長から託された手紙へ手をやった。
リナがその動作を見逃さず、細めた目で笑う。
「やっぱりね。あんたの手紙がその“鍵”ってわけ」
さらに奥へ進むと、中央に円形の石壇があった。
その表面には封蝋に似た文様が浮かび上がっている。
ノエルは思わず息をのむ。
「師匠が追い求めていたのは……これ。封印の構造そのもの」
ガロウの言葉がユウの胸に甦る。
――“手紙はただの届け物ではない。お前自身の成長を試す証でもある”。
石壇の前に立ち、ユウは拳を握りしめた。
「俺は……届ける。この手紙を、最後まで」
その決意に、リナは静かに肩をすくめる。
「ふん……お人好し。でも、嫌いじゃないわ」
遺跡の奥、闇の向こうから不気味な気配が広がる。
封印を守る何者かか、それとも黒衣の影の刺客か――
次なる試練の影が、確かにそこに潜んでいた。
石壇の文様が淡く光を放ち始めた。
その輝きはやがて柱へ、壁へと走り、遺跡全体が震え出す。
「な、なんだ……?」
カイが身構える。
次の瞬間、石壇の中央から黒い影が溢れ出した。
形を整え、巨躯の人型を成す。
眼窩には紅い光――封印の守護者だった。
「侵入者ヲ、排除ス」
低く響く声。石の剣を構え、巨人が一歩踏み出す。
ユウは剣を抜いた。
「来るぞ!」
最初の衝撃は凄まじかった。巨人の一撃が床を砕き、破片が飛び散る。
カイが飛び込み、爪で切り裂こうとするが、石の肌は硬く、火花が散るばかり。
「なら……私が!」
ノエルが魔法陣を展開し、雷の矢を放つ。
光が石肌を焦がし、わずかにひびを刻む。
ユウは仲間の攻撃の隙を突き、渾身の一撃を巨人の胸へ叩き込んだ。
だが守護者は揺るがず、逆にユウを薙ぎ払おうと腕を振るう。
その時、背後からリナの声が飛んだ。
「避けなさい、ユウ!」
風のように駆けたリナの刃が、巨人の関節を斬り裂く。
ユウは転がりながら剣を握り直し、リナと視線を交わす。
「ありがとう!」
「礼は後で!」
連携の中で、少しずつ石の巨人は動きを鈍らせていく。
最後、ユウは全身の力を剣に込め、仲間の援護を背に跳び上がった。
閃光の一撃が巨人の額を割り、紅い光が掻き消える。
轟音と共に、巨人は崩れ落ちた。
静寂が戻り、石壇の文様は穏やかに光を宿す。
ユウは荒い息を吐きながら剣を収めた。
「……これが、封印を守る力」
ノエルは目を伏せ、震える声で呟く。
「師匠が追い続けた理由……ようやく分かった気がする」
リナは肩をすくめ、しかしその目は真剣だった。
「どうやら私たち、思った以上に厄介なものを抱えてるみたいね」
彼らは互いに視線を交わし、次の一歩を踏み出す。
封印の秘密、その核心に一歩近づいたのだった。
崩れ落ちた守護者の残骸は、光の粒となって宙に溶けていった。
静寂の中、石壇の文様が再び輝きを放ち、淡い光がユウの背の荷――手紙へと導かれるように走った。
「……今の、見たか?」
カイが驚きに耳を立てる。
ノエルは震える指で光の軌跡を追いながら呟いた。
「封印と……手紙はやっぱりつながってる。まるで、この手紙を“認めた”みたい」
ユウは思わず手紙を両手で抱きしめる。
「俺に……届けろって、ことなのか」
リナがゆっくりと歩み寄り、石壇の刻印を眺める。
「“選ばれし者に託されし鍵”……古代語の一節よ」
彼女は肩をすくめ、ユウをちらりと見やった。
「どうやら本当に、ユウがその“選ばれた者”ってわけね」
ノエルの瞳に決意の光が宿る。
「もしそうなら、師匠が果たせなかった使命も、ここで繋がる……」
カイは拳を握り、仲間を見渡した。
「なら、守るしかないな。ユウと、その手紙を」
遺跡の奥から、冷たい風が吹き抜けた。
石の壁に新たな道が開かれ、その先にはさらに深い闇が広がっている。
ユウは剣を腰に戻し、仲間に向かって頷いた。
「行こう。手紙の秘密を、最後まで解き明かすために」
光に導かれるように、四人は封印のさらに深い領域へと足を踏み入れていった。




